東京地下鉄サリン事件等における救護・医療対応記録の保存・活用に向けた研究

文献情報

文献番号
202106006A
報告書区分
総括
研究課題名
東京地下鉄サリン事件等における救護・医療対応記録の保存・活用に向けた研究
課題番号
21CA2006
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
奥村 徹(公益財団法人日本中毒情報センター)
研究分担者(所属機関)
  • 前川 和彦(社会医療法人 東明会 原田病院)
  • 石松 伸一(学校法人聖路加国際大学 聖路加国際病院)
  • 山末 英典(浜松医科大学)
  • 横山 和仁(国際医療福祉大学 大学院医学研究科公衆衛生学専攻)
  • 森田 洋(信州大学 総合健康安全センター)
  • 那須 民江(中島 民江)(中部大学  生命健康科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
6,981,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
松本及び東京地下鉄サリン事件は、市民に対するテロの手段として化学剤を使った史上初めての例であり、世界的に大きな衝撃を与えたが、事件から27年が経過した現在、事件の風化が進み、被害者の診療録が廃棄されるなど、極めて貴重な記録が散逸しつつある。本事件の記録を残し、次世代に繋ぐことは社会的・国際的責務である。事件の風化を食い止めるため、関係諸機関における事件の救護・医療に関するデータを収集、アーカイブ化し、研究等に活用することが望まれる。本研究では、事件に関する記録保存の重要性に関して広く社会に周知を図るための方法論を検討・実践するとともに、過去の研究において明らかとなった課題について、個人情報保護法、情報公開法の課題などの法的な論点整理を更に進め、アーカイブ化事業の仕様書としてまとめ、より具体的なあるべき姿の詳細を提言する。
研究方法
初めにアーカイブ化の意義について考察した。より多くの市民や関係者にアーカイブ化への認識を高めることを目指した。そのための基礎研究として、一般市民にアーカイブについてのアンケート調査を行った。また、医療関係者に留まらず、法曹界、報道機関、行政、立法関係者とも意見交換を行ない、アーカイブ化実現のための法的な課題に関する法的な論点整理を行い、解決策を検討した。地下鉄・松本両サリン事件関係者も高齢化し、既に鬼籍に入られた方も出始めており、今となってはインタビュー出来ない関係者も出始めており、毎年その機会が失われている。そうした意味で、オーラルヒストリーの保存の緊急性は高い。オーラルヒストリーについては、令和元年度奥村班で、阪神大震災における重要性に着目し、令和2年度奥村班で試験的に実施しており、オーラルヒストリーの聴取を更に進めるとともに、その内容を精査した。被害者を受け入れた病院には実際に診療録の保全及び、デジタル化に取り掛かっていただいた。アーカイブ化は、何よりも被害者、ご遺族の心情に配慮されなければならない。その意味でアーカイブ事業には被害者の長期フォローも必要であると思われ、サリンの長期的影響をフォローするための検査項目を設定した。松本の事例では、アーカイブ化により、さまざまな情報を保全し、新たな知見を掘り起こすことが可能かどうかを検討した。一方、クリアすべき課題の多い過去の資料に比して、本人の承諾を得やすいオーラルヒストリー聴取に関してはすでに令和2年度の奥村班で着手したが、本研究において聴取を進め、デジタルデータとして保存を進めた。
結果と考察
本アーカイブ化は、歴史的知的財産の保全という意味で今までの日本に欠けてきた概念であった。カルテの保全においては、サリン事件に関わる診療録、医療機関に存在資料も併せて電子化して診療録として永久保存することを法的に義務化すべきである事が明らかになった。また本研究により松本においては地域として資料の保全を継続して行くことが確認された。また、一般市民に対するアンケートでは、地下鉄サリン事件ついて知っていると答えた者は、40代以上では95%以上であったが、30代で85%、20代で70%と一旦落ち込み、19歳以下では74%と少し多かった。松本サリン事件については、地下鉄サリン事件と比べ認知度は下がり、50代以上で9割が、40代では9割を切り、30代では3人に一人は知らなかった、20代以下では半数以下があまり・ほとんど知らないと答え、年齢が下がるほど事件について知らなかった。両事件の資料保存については、大半が「保存」、「どちらかといえば保存すべき」に賛成、アーカイブのいずれの役割についても「期待」、「どちらかといえば期待」していると回答、資料のいずれの内容についても保存に「賛成」、「どちらかといえば賛成」と答えた。運営に関しては、税金が使われることを懸念する声もあったものの圧倒的に国の管理を支持していた。公開範囲等の自由記載では、原則公開とする意見が多く、個人情報、被害者等の心情に沿った公開を望む意見、また模倣犯などの悪用を心配するコメントもあった。アーカイブ化の根拠となる法律の制定については、7割の人々が賛成、分からないと答えた人が3割弱であった。サリンの長期的影響をフォローする検査項目の設定も被害者の実態把握のために活かされる事ができる。アーカイブ化のために解決すべき法的整理に関しても今後法制化が必要になる場合の貴重な基礎資料となった。以上の総合的な成果として、サリン事件アーカイブ事業化計画仕様書(案)を完成させた。
結論
本研究班の最終目的は、アーカイブ化及びその活用にある。本研究班では、最終的に事業化するために、法的論点 整理を行い、具体的かつ詳細な仕様書にまとめた。これを基に、サリン事件関連の貴重な記録、資料を保全し、まとめ、整理して、活用される道が開ける事が期待される。

公開日・更新日

公開日
2022-06-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-06-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202106006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
サリン事件に関わる診療録、医療機関に存在する資料も併せて電子化して診療録として永久保存することを法的に義務化すべきである事が明らかになった。その他、解決すべき法的整理に関しても今後法制化への貴重な基礎資料となる。最終成果として、サリン事件アーカイブ事業化計画仕様書(案)を完成させた。サリン事件に関わる診療情報、その他の周辺情報は、国際的にも注目されるいわば、人類にとっての知的財産と言える。この知的財産を守る意味でも、本研究で最終的にまとめた事業化計画仕様書(案)は、意義深いものと思われる。
臨床的観点からの成果
アーカイブ化の仕様化にあたって留意したのは、今なお苦しむ被害者の長期影響もフォローすべきであるという提案である。世界健康安全保障イニシアティブ(GHSI)の下部組織である世界健康機器行動グループ(GHSAG)でも各国の研究者から我が国のサリンの長期的影響をフォローに関してコメントが相次ぎ、OPCWの化学兵器の長期的影響に関するハンドブック編纂過程でも、長期的影響のフォローの重要性、国際標準化が議論された。本研究で提案した検査項目の設定もこれに資するものである。
ガイドライン等の開発
ガイドラインそのものではないが、アーカイブ事業化計画仕様書(案)はまさに、サリン事件のアーカイブ化において、行うべき具体的な目標を提示し、事業化にあたってガイドライン的な働きをする成果物であるといえる。すなわち、今後、事業化への基礎的資料、道標として仕様書案を活用されることが期待される。
その他行政的観点からの成果
そもそも、サリン事件アーカイブ化は、令和元年7月に超党派の国会議員(いわゆるオウム真理教対策議員連盟)によって決議された「地下鉄サリン事件の救護・医療等情報の保存に関する決議」に端を発する。以来、アーカイブ化への議論が始まり、厚生労働省としての対応のあり方を検討する意味で本研究班が研究を行ってきた。それゆえ、本研究の成果、アーカイブ化の法的整理、アーカイブ事業化計画仕様書(案)が今後、法制化、予算化、事業化のために活かされる。
その他のインパクト
前述したオウム真理教対策議員連盟による決議以来、社会的な注目は増し、NHKや新聞に本アーカイブ化や本研究班が取り上げることも多かった。本研究で行った市民へのアンケート調査でも、事件の資料保存については、大半が「保存」、「どちらかといえば保存すべき」に賛成、アーカイブの役割についても「期待」、「どちらかといえば期待」していると回答した。この意味で、既に本アーカイブ化は国民の広い理解を得られており、社会からは大いに期待されている研究、事業であると言える。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2022-06-06
更新日
-

収支報告書

文献番号
202106006Z