文献情報
文献番号
202105006A
報告書区分
総括
研究課題名
2030年までのUniversal Health Coverage 達成に向けたアジア各国の進捗状況と課題に関する研究
課題番号
21BA1002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
大澤 絵里(国立保健医療科学院 国際協力研究部)
研究分担者(所属機関)
- 種田 憲一郎(国立保健医療科学院 国際協力研究部)
- 児玉 知子(国立保健医療科学院 国際協力研究部)
- 林 玲子(国立社会保障・人口問題研究所)
- 明石 秀親(国立国際医療研究センター 国際医療協力局)
- 岡本 悦司(公立大学法人 福知山公立大学 地域経営学部医療福祉経営学科)
- 野村 真利香(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所 国際栄養情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、2030年までにアジア地域のUHC達成に向けて、基礎的医療保健サービスの提供体制や、国民皆保険に関連した保健財政の課題や改善策を検討し、今後、アジアの国々でUHC達成ために、日本からの提案の可能性を検討、また日本が主催する保健関連の国際会議の議題案やその際に活用可能な情報を提示することを目的とする。
研究方法
初年度は、1.アジア各国(大洋州島嶼国含む)の地域的な進捗と課題、2.提供サービスの質や安全に関する課題、3.サービス提供に関わる官民連携の動向、4.アジア各国のUHCモニタリングのための死亡統計、保健統計の整備に関する課題、5.社会保障とUHCの関連について、6.新型コロナパンデミックのUHC達成に及ぼす影響、7.太平洋島嶼国のUHC達成のための課題について、公開資料、二次資料を用いて、レビューした。フィリピン、ラオス、モンゴルに関しては、各国のUHC達成のための政策や制度、新型コロナ感染症の影響について、ヒアリングにより具体的な情報を収集し、その内容を分析した。各国の報告は2月に研究班主催の国際共同カンファレンス“The challenges for achieving Universal Health Coverage under COVID-19 pandemic in Asia”において情報共有をした。
結果と考察
本研究課題では、7つの分担研究を進めた。アジア各国のUHCサービスカバレッジ指標の分析では、2010年以降は指標の伸展は緩慢であり、アジア各国と比べると大洋州の国々ではその指標の伸びは緩やかであった。UHCサービスカバレッジ指標と新型コロナ感染症の指標に関連に関しては、アジア各国の分析では、明らかな関係性はみられなかった。フィリピン、ラオス、モンゴルでは、最貧困層へのプライマリ・ヘルス・ケアの提供、中間層への経済的保護、地方でのプライマリ・ヘルス・ケアの充実などが課題にあがった。提供サービスの質や安全に関する課題については、調査対象全ての国において、何らかの患者安全または医療の質向上に関わる取組みが行われていたものの、医療事故などの具体的な事例が公開されていない国々もあり、課題の詳細や全容を把握することの難しさも示唆された。サービス提供に関わる官民連携(PPP,Public Private Partnership)の動向については、最も一般的なPPPは、医療施設の建設または改修、運営、臨床サービスの提供を含む複合的な医療サービスの提供であるが、近年、プライマリヘルスケアレベルでの予防・治療サービスを含めたPPPの報告が増加していた。アジア各国のUHCモニタリングのための死亡統計、保健統計の整備に関する課題は、ASEAN+3で死因統計が全数登録により得られるのは、日本、韓国、フィリピン、シンガポール、ブルネイ、マレーシアであった。保健統計に関しては、インド、インドネシアが独自の地域保健情報システムにより結果をweb公表していた。社会保障とUHCの関連については、適切なナビゲーターの存在により社会保障サービスが脆弱な人々に届き、それらの経路を通して、社会的包摂性、潜在能力、保健医療サービスのアクセスの向上、財政的・物質的な困窮の減少が導かれ、UHCの達成が可能になることが明らかになった。新型コロナパンデミックのUHC達成に及ぼす影響に関しては、UHCを有する国がそうでない国より新型コロナ蔓延が少なかったというエビデンスまでは得られなかったものの、UHCは新型コロナパンデミックに対する対策としてきわめて重要であるという認識は多くの国で高まっていた。太平洋島嶼国のUHC達成のためには、特にNCDs(血圧と空腹時血糖)とサービスキャパシティ(保健人材)の指数が非常に低く、地域特性に着目してデータを見ていく必要があると考えられた。これらの結果は、アジア各国のUHC達成のために、日本が主催する保健関連の国際会議の議題案の方向性、またその際に活用可能な具体的な情報となりうる。
結論
ポストコロナにおいて、アジア諸国が2030年までにUHC達成を目指すために、プライマリ・ヘルス・ケアの充実を再主流化させ、脆弱な集団に焦点をあてることが重要であると考えられる。ただ、保健医療サービスへのアクセスを向上させるために、生活保障も含む社会保障サービスの提供が不可欠である。そして、UHCのモニタリングのために、死因統計や保健統計の整備が急務である。新時代のUHC達成に向けて、プライマリ・ヘルス・ケア提供における民間セクターとの協力や、カバレッジ拡大と同時に、提供するサービスの質の確保も求められる。最後に、アジア・大洋州諸国の中においても、その進捗はばらつきがあり、UHC達成のための国際的な協力の際には、その地域性に合わせた働きかけをする必要がある。
公開日・更新日
公開日
2022-05-27
更新日
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