文献情報
文献番号
202103017A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症に関与するマイクロバイオーム・バイオマーカー解析
課題番号
21AC5002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
山本 万里(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門)
研究分担者(所属機関)
- 西平 順(北海道情報大学医療情報学部)
- 大島 登志男(早稲田大学 理工学術院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
166,005,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
認知症は、後天的な脳の障害によって認知機能が低下し、患者の記憶を喪失させるのみでなく人格をも崩壊して患者の社会生活機能を喪失させてしまうことから社会問題化している。日本は世界の中でも人口に対する認知症の割合が多いことが知られている。アルツハイマー病ADを主とする認知機能障害疾患は、我が国においても近年の高齢化に伴って急激に増加しており、その早期発見、早期介入が重要である。そこで、健常者、患者を対象に、ADに関わる血中バイオマーカー、エピゲノムを相互解析して、疾患に関連するバイオマーカーを明らかにする。また、認知症に関与するヒト及びADモデルマウスの口腔あるいは腸内マイクロバイオーム研究を推進し、高精度な認知症予測の微生物バイオマーカーの開発、認知症発症に関与する腸内微生物種とその産物等の特定、ならびに認知症発症の分子メカニズムの解明を目指す。
研究方法
倫理申請の承認を得た上で北海道情報大が収集した健常者、軽度認知障害MCI 、認知症患者587人の認知症マーカーである血中アミロイドβ蓄積量(Abeta)、認知機能検査値、摂取食品成分情報を取得し、各被験者の遺伝子データであるゲノムワイド関連解析(GWAS)、エピジェネティックデータ(エピゲノム)解析を行い、項目それぞれの相関解析を行った。また、AD及びMCIを含む認知症患者、並びに非認知症被験者(計300名以上)の唾液及び糞便を採取し、DNAを調製したのち、次世代シークエンサーを用いてそれぞれの菌叢の16S rRNA遺伝子データの比較解析を行った。またADモデル・ノトバイオートマウスの行動認知試験、脳内Ab蓄積、ニューロン新生能等のデータと腸内菌叢データを収集し、これらの相関解析から認知症に関与する微生物種の特定を行った。
結果と考察
血中Abetaは、AD群>MCI群>健常者群の順に蓄積が見られ、Abetaが認知症研究の重要なマーカーであることが証明された。また、Abetaは、認知症患者群における蓄積が最も高く、認知症研究の重要なマーカーであることが証明された。また、年齢の比較的若い世代では、Abetaの上昇と生活習慣病リスクの上昇に正の関係のあり、50歳以上では50歳未満とは異なり、食事習慣(内容)がAbetaに大きく影響していた。このため、食事内容の改善により、Abetaの抑制の効果が期待される。健常者群と認知症患者群のエピジェネティック解析において、認知症との関連が強いと考えられる候補メチル化サイトを複数サイト見出した。これは、先に報告しているアミロイドβ蓄積リスクの有無を指標とするSNPとともに、新たに認知症予防の指導や認知症の早期診断ツールへの可能性を示した。
唾液微生物叢(392検体)の解析から、機械学習を用いて唾液菌叢による認知症・MCI・非認知症を高精度に識別する予測モデル(AUC 0.86〜0.91)を構築した。Swedish、Iberian、Arctic三重変異App<NL-G-F>ノックインマウスの腸内細菌叢とAbeta沈着の関係には性差による違いがあることを見出した。56名の百寿者の腸内細菌叢解析と特徴的な細菌種を同定した(Nature, 2021に掲載)。通常の無菌マウスではその脳内タウタンパク質のリン酸化が通常マウスよりも増加していることが分かり、腸内細菌叢はタウリン酸化を抑制することが示唆された。海馬歯状回における新生ニューロンマーカー(Dcx)と負に相関する3種類の菌種を同定し、その分離菌株の無菌マウスへの移植によりDcxが有意に減少することを実証した。これらのデータから、ニューロン新生に腸内細菌叢が関与する可能性が強く示された。種々の抗生剤処理したノトバイオートマウスの行動・物体認知試験による認知症と関連する菌群の絞り込みを行い、場所・認知機能に有意に関与する9 菌種を特定した。
唾液微生物叢(392検体)の解析から、機械学習を用いて唾液菌叢による認知症・MCI・非認知症を高精度に識別する予測モデル(AUC 0.86〜0.91)を構築した。Swedish、Iberian、Arctic三重変異App<NL-G-F>ノックインマウスの腸内細菌叢とAbeta沈着の関係には性差による違いがあることを見出した。56名の百寿者の腸内細菌叢解析と特徴的な細菌種を同定した(Nature, 2021に掲載)。通常の無菌マウスではその脳内タウタンパク質のリン酸化が通常マウスよりも増加していることが分かり、腸内細菌叢はタウリン酸化を抑制することが示唆された。海馬歯状回における新生ニューロンマーカー(Dcx)と負に相関する3種類の菌種を同定し、その分離菌株の無菌マウスへの移植によりDcxが有意に減少することを実証した。これらのデータから、ニューロン新生に腸内細菌叢が関与する可能性が強く示された。種々の抗生剤処理したノトバイオートマウスの行動・物体認知試験による認知症と関連する菌群の絞り込みを行い、場所・認知機能に有意に関与する9 菌種を特定した。
結論
アミロイドβ蓄積量を増加させるリスクの高い血液成分、食生活、睡眠状態、エピゲノムなどの情報は、遺伝子型を考慮した個別化健康指導や栄養指導などの実現を示唆するとともに、ヘルスケア分野の市場拡大による経済効果が期待できると考えられる。また、唾液マイクロバイオームが、認知症、MCI、非認知症を高精度に予測する新規マーカーとして有用であることが明らかとなった。さらに、マウス実験から、認知症の様々な表現型に腸内細菌が関与することが強く示唆された。
公開日・更新日
公開日
2022-09-07
更新日
-