文献情報
文献番号
199700520A
報告書区分
総括
研究課題名
発がんの抑制に関する実験的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
津田 洋幸(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
- 若林啓二(国立がんセンター)
- 田中卓二(金沢医科大学)
- 白井智之(名古屋市立大学)
- 西野輔翼(京都府立医科大学)
- 小西陽一(奈良県立医科大学)
- 渡辺昌(東京農業大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
37,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
疫学的研究により食品中の因子が、がん発生に深く関与していると考えられ, これらの中からがん化学予防に直結する物質を見い出すことは社会的必要性の高い研究である。本研究の目的は, 主として食品中の物質ならびに抗炎症物質から新しいがん予防物質を動物実験で見い出すことにある。有効な物質については全臓器的な副作用の検討を行い, 臨床試験に直結した情報を得ることにある。本研究により, 食品成分としてのラクトフェリン, フラボノイド, カロテノイド, クルクミン類, フィトエストロゲン, 抗炎症剤および抗生物質の有効性が明らかになれば, 臨床応用が可能なデータが得られることになる。
研究方法
(1) ウシラクトフェリンと関連物質の大腸発がん抑制作用とその機序の検索
牛乳に含まれ, 抗菌作用を有するラクトフェリン(bLF), 構成ペプチドのラクトフェリシン(bLFcin)およびbLFの加水分解産物(bLFHの)について雄ラット大腸発がん抑制作用を検討した。実験1:azoxymethane (AOM)投与1週後より2%および0.2%bLF, 2% bLFH, 0.1% bLFcinを混餌投与し, 対照群はAOMのみで40週で終了した(n=19~40)。盲腸糞便のグルクロン酸脱抱合酵素(β-glucuronidase)活性を測定した(n=5)。実験2:2% bLFを4週間混餌投与し大腸糞便の胆汁酸分画を解析した(n=3)。実験3:雄ApcMinマウスに対するbLFの作用を検索した(n=15-24)。
(2) COX-2選択的阻害物質ニメスリドのApcMinマウス腸発がん抑制作用の評価
雌 ApcMin マウスに, 400 ppm ニメスリド混餌飼料を10週間投与した(n=10)。対照群は基礎飼料のみとした(n=11)。
(3) カプサイシンとロテノンのラット大腸と舌発がん抑制作用の検索
実験1:トウガラシ成分のカプサイシンとマメ科植物フラボノイドのロテノンを500 ppmでAOM投与の1週前より4週混餌投与し, 4週と12週で終了した(n=15)。実験2:4-NQO を8週間飲水投与し, 両被検物質をその1週前より10週間混餌投与した(n=15)。実験3:ラットに両物質を40~400 mg/kgで1日1回計5?ン内投与し, 肝, 舌, 大腸のglutathione S-transferase(GST)とquinone reductase(QR)活性を測定した(n=10)。
(4) カロテノイド, クルクミンとフィトエストロゲンの前立腺発がん抑制作用の検討
実験1: 雄ラットに3,2-dimethyl-4-aminobiphenyl (DMAB)の皮下投与と同時期(20週間)または投与終了後に40週間, 0.05% β-カロテン, 0.05% パームフルーツカロテン(パーム椰子成分), 0.0015 % リコペン(トマト成分)および0.05% クルクミン(ターメリック成分)を混餌投与し60週で終了した。実験2:同様方法でgenisteinおよびdaidzein について検討した。
(5) ゼアキサンチン(レタスカロテノイド)の皮膚と肺発がん抑制作用の検索
実験1:ICRマウスに100mg DMBAと1週後より1.6 nmol TPA(2/Wk X 20回)処置をした。ゼアキサンチン(160nmol)は TPA処置1時間前に塗布し15週で終了した。実験2:ddYマウスに4-NQO皮下投与の4週後から25週間, プロモーターの10%グリセロールの混餌投与と同時にゼアキサンチンを週3回0.2mg胃内投与した(n=15)。
(6) 感染炎症の抑制によるラット肺発がんの予防の検討
ラットに0.02% N-nitrosobis(2-hydroxypropyl)amine(BHP)を12週間飲水投与し, その後, 基礎食(対照群), 0.04%アンピシリン(ABPC), BHP→0.006%ピロキシカム, BHP→0.004%ABPC+0.006%ピロキシカムまたは BHP→0.04%ABPC+0.75%オウゴン(フラボノイド含有生薬)とし, 8週間投与後20週で終了した(n=15-20)。
(7) 大豆胚芽のin vivoに抗酸化能の検討
ラットに鉄欠乏食(対照群)または鉄欠乏食+大豆胚芽(10mg/L), 鉄欠乏食+大豆胚芽(50mg/L)を投与し4週で終了した(n=10)。肝の過酸化脂質と8-OHdG量を測定した。
牛乳に含まれ, 抗菌作用を有するラクトフェリン(bLF), 構成ペプチドのラクトフェリシン(bLFcin)およびbLFの加水分解産物(bLFHの)について雄ラット大腸発がん抑制作用を検討した。実験1:azoxymethane (AOM)投与1週後より2%および0.2%bLF, 2% bLFH, 0.1% bLFcinを混餌投与し, 対照群はAOMのみで40週で終了した(n=19~40)。盲腸糞便のグルクロン酸脱抱合酵素(β-glucuronidase)活性を測定した(n=5)。実験2:2% bLFを4週間混餌投与し大腸糞便の胆汁酸分画を解析した(n=3)。実験3:雄ApcMinマウスに対するbLFの作用を検索した(n=15-24)。
(2) COX-2選択的阻害物質ニメスリドのApcMinマウス腸発がん抑制作用の評価
雌 ApcMin マウスに, 400 ppm ニメスリド混餌飼料を10週間投与した(n=10)。対照群は基礎飼料のみとした(n=11)。
(3) カプサイシンとロテノンのラット大腸と舌発がん抑制作用の検索
実験1:トウガラシ成分のカプサイシンとマメ科植物フラボノイドのロテノンを500 ppmでAOM投与の1週前より4週混餌投与し, 4週と12週で終了した(n=15)。実験2:4-NQO を8週間飲水投与し, 両被検物質をその1週前より10週間混餌投与した(n=15)。実験3:ラットに両物質を40~400 mg/kgで1日1回計5?ン内投与し, 肝, 舌, 大腸のglutathione S-transferase(GST)とquinone reductase(QR)活性を測定した(n=10)。
(4) カロテノイド, クルクミンとフィトエストロゲンの前立腺発がん抑制作用の検討
実験1: 雄ラットに3,2-dimethyl-4-aminobiphenyl (DMAB)の皮下投与と同時期(20週間)または投与終了後に40週間, 0.05% β-カロテン, 0.05% パームフルーツカロテン(パーム椰子成分), 0.0015 % リコペン(トマト成分)および0.05% クルクミン(ターメリック成分)を混餌投与し60週で終了した。実験2:同様方法でgenisteinおよびdaidzein について検討した。
(5) ゼアキサンチン(レタスカロテノイド)の皮膚と肺発がん抑制作用の検索
実験1:ICRマウスに100mg DMBAと1週後より1.6 nmol TPA(2/Wk X 20回)処置をした。ゼアキサンチン(160nmol)は TPA処置1時間前に塗布し15週で終了した。実験2:ddYマウスに4-NQO皮下投与の4週後から25週間, プロモーターの10%グリセロールの混餌投与と同時にゼアキサンチンを週3回0.2mg胃内投与した(n=15)。
(6) 感染炎症の抑制によるラット肺発がんの予防の検討
ラットに0.02% N-nitrosobis(2-hydroxypropyl)amine(BHP)を12週間飲水投与し, その後, 基礎食(対照群), 0.04%アンピシリン(ABPC), BHP→0.006%ピロキシカム, BHP→0.004%ABPC+0.006%ピロキシカムまたは BHP→0.04%ABPC+0.75%オウゴン(フラボノイド含有生薬)とし, 8週間投与後20週で終了した(n=15-20)。
(7) 大豆胚芽のin vivoに抗酸化能の検討
ラットに鉄欠乏食(対照群)または鉄欠乏食+大豆胚芽(10mg/L), 鉄欠乏食+大豆胚芽(50mg/L)を投与し4週で終了した(n=10)。肝の過酸化脂質と8-OHdG量を測定した。
結果と考察
(1) ウシラクトフェリンと関連物質の大腸発がん抑制作用とその機序の検索
実験1:糞便β-glucuronidase活性は24週まで対照より減少した。40週での大腸がんの頻度は, 対照群で23/40(57.5%)に対し, 2%bLFで 6/40(15%), 0.2%bLFで 5/20(25%), bLFHで5/19(26.3%)であり有意に減少した。毒性所見は認められなかった。実験2:相対的な二次胆汁酸の減少がみられた。実験3:小腸の腺腫数は対照の80%に減少した。以上から, ラクトフェリンと関連物質は安全な大腸発がん抑制物質であり, 機序として細胞障害性胆汁酸の減少および弱いCOX-2阻害作用が考えられた。
(2) ニメスリド のApcMin マウス大腸発がん抑制作用の評価
対照群では腸の腺腫個数/マウスは, 大腸48.9 および小腸0.6 であったが, ニメスリド群で25.3 (対照値の52.8%), 0.2(同30%)と有意に減少した。ニメスリドは COX-2 を選択的に阻害するため消化管障害が少なく家族性大腸腺腫症患者への臨床応用が可能である。
(3) カプサイシン, ロテノンのラット大腸と舌と発がん抑制作用の検索
実験1:大腸前がん病変のACFの個数/ラットは, 対照群の80±3に対して, 4週でカプサイシン+AOM群は35±7, ロテノン+AOM群は40±9であり有意に減少した。12週でも同様に減少した。実験2:舌上皮異形成は対照群の5/5(100%)に対し, カプサイシン+4-NQO群, 3/5(60%), ロテノン+4-NQO群, 1/5(20%)であり有意に減少した。しかしロテノンには顕著な体重抑制作用がみられた(対照の70%)。実験3では両物質とも肝と大腸のGSTとQR活性を有意に増加させた。ロテノンは舌GST活性を増加させた。したがって, カプサイシンとロテノンは大腸と舌発がんを抑制し, 標的臓器での解毒酵素誘導作用を示した。ロテノンには体重抑制作用があり, 臨床試験にはカプサイシンが有望と考えられた。
(4) カロテノイド, クルクミンの前立腺発がん抑制作用の検討
実験1:対照のDMAB単独群の前立腺腹葉における異型増殖の頻度は69.6%, がんは34.8%に対し, 同時投与でパームフルーツカロテンはがんを5.0%に, リコペンは異型増殖を52.6%, がんを10.5%に抑制した。ポストイニシエーション投与ではリコペンは異型増殖を33.3%, がんを5.6%に抑制させた。クルクミンはがんを0%に抑制した。一方, 肺腫瘍(腺腫+がん)の発生がDMAB単独群8%に対し, β-カロテンは同時投与で40%, ポストイニシエーション投与で35%に増加した。リコペンのポストイニシエーション投与でも35%に増加した。実験2:標本作製中である。リコペンとクルクミンは前立腺発がんを抑制したが, β-カロテンとリコペンは肺発がんを促進し, 慎重な有用性評価が必要であることが分かった。
(5) ゼアキサンチンの皮膚および肺発がん抑制作用の検索
実験1:対照群の腫瘍発生率と個数/マウスはそれぞれ47%, 1.60に対し, ゼアキサンチン群で21.4%, 0.86と有意に減少した。実験2:対照群でそれぞれ73%, 1.40に対し, 33%, 0.38であり有意に減少した。以上から, 新たにゼアキサンチンの皮膚と肺の抗発がん抗プロモーション作用を明らかにした。
(6) 感染炎症の制御による肺発がん予防の検討
肺腺がんの発生頻度は対照群の56.3%に対し, ABPC+ピロキシカムは12.5%, ABPC+オウゴン群は14.3%と有意に減少した。両群の気管支肺胞洗浄液中のE. coliやKlebsieraは対照群より減少していた。また8-OHdG免疫染色では炎症の強い腫瘍病変部で高い染色性を示した。以上から, ABPCによる細菌感染防止と抗炎症生薬の併用投与による肺発がん予防の可能性が示された。
(7) 大豆胚芽茶のin vivoにおける抗酸化能の検討
イソフラボノイドを多く含む大豆胚芽投与によって, 鉄欠乏ラットの肝の過酸化脂質生成と8-OHdGの減少がin vivoで確かめられた。
実験1:糞便β-glucuronidase活性は24週まで対照より減少した。40週での大腸がんの頻度は, 対照群で23/40(57.5%)に対し, 2%bLFで 6/40(15%), 0.2%bLFで 5/20(25%), bLFHで5/19(26.3%)であり有意に減少した。毒性所見は認められなかった。実験2:相対的な二次胆汁酸の減少がみられた。実験3:小腸の腺腫数は対照の80%に減少した。以上から, ラクトフェリンと関連物質は安全な大腸発がん抑制物質であり, 機序として細胞障害性胆汁酸の減少および弱いCOX-2阻害作用が考えられた。
(2) ニメスリド のApcMin マウス大腸発がん抑制作用の評価
対照群では腸の腺腫個数/マウスは, 大腸48.9 および小腸0.6 であったが, ニメスリド群で25.3 (対照値の52.8%), 0.2(同30%)と有意に減少した。ニメスリドは COX-2 を選択的に阻害するため消化管障害が少なく家族性大腸腺腫症患者への臨床応用が可能である。
(3) カプサイシン, ロテノンのラット大腸と舌と発がん抑制作用の検索
実験1:大腸前がん病変のACFの個数/ラットは, 対照群の80±3に対して, 4週でカプサイシン+AOM群は35±7, ロテノン+AOM群は40±9であり有意に減少した。12週でも同様に減少した。実験2:舌上皮異形成は対照群の5/5(100%)に対し, カプサイシン+4-NQO群, 3/5(60%), ロテノン+4-NQO群, 1/5(20%)であり有意に減少した。しかしロテノンには顕著な体重抑制作用がみられた(対照の70%)。実験3では両物質とも肝と大腸のGSTとQR活性を有意に増加させた。ロテノンは舌GST活性を増加させた。したがって, カプサイシンとロテノンは大腸と舌発がんを抑制し, 標的臓器での解毒酵素誘導作用を示した。ロテノンには体重抑制作用があり, 臨床試験にはカプサイシンが有望と考えられた。
(4) カロテノイド, クルクミンの前立腺発がん抑制作用の検討
実験1:対照のDMAB単独群の前立腺腹葉における異型増殖の頻度は69.6%, がんは34.8%に対し, 同時投与でパームフルーツカロテンはがんを5.0%に, リコペンは異型増殖を52.6%, がんを10.5%に抑制した。ポストイニシエーション投与ではリコペンは異型増殖を33.3%, がんを5.6%に抑制させた。クルクミンはがんを0%に抑制した。一方, 肺腫瘍(腺腫+がん)の発生がDMAB単独群8%に対し, β-カロテンは同時投与で40%, ポストイニシエーション投与で35%に増加した。リコペンのポストイニシエーション投与でも35%に増加した。実験2:標本作製中である。リコペンとクルクミンは前立腺発がんを抑制したが, β-カロテンとリコペンは肺発がんを促進し, 慎重な有用性評価が必要であることが分かった。
(5) ゼアキサンチンの皮膚および肺発がん抑制作用の検索
実験1:対照群の腫瘍発生率と個数/マウスはそれぞれ47%, 1.60に対し, ゼアキサンチン群で21.4%, 0.86と有意に減少した。実験2:対照群でそれぞれ73%, 1.40に対し, 33%, 0.38であり有意に減少した。以上から, 新たにゼアキサンチンの皮膚と肺の抗発がん抗プロモーション作用を明らかにした。
(6) 感染炎症の制御による肺発がん予防の検討
肺腺がんの発生頻度は対照群の56.3%に対し, ABPC+ピロキシカムは12.5%, ABPC+オウゴン群は14.3%と有意に減少した。両群の気管支肺胞洗浄液中のE. coliやKlebsieraは対照群より減少していた。また8-OHdG免疫染色では炎症の強い腫瘍病変部で高い染色性を示した。以上から, ABPCによる細菌感染防止と抗炎症生薬の併用投与による肺発がん予防の可能性が示された。
(7) 大豆胚芽茶のin vivoにおける抗酸化能の検討
イソフラボノイドを多く含む大豆胚芽投与によって, 鉄欠乏ラットの肝の過酸化脂質生成と8-OHdGの減少がin vivoで確かめられた。
結論
牛乳成分のラクトフェリン類に顕著なラット大腸発がん抑制作用を見い出した。細胞障害性胆汁酸の減少がその一機序と考えられた。COX-2選択的阻害物質ニメスリドは, ApcMinマウスの腸腫瘍を半減させ, 家族性大腸腺腫症患者への応用の可能性を示した。トウガラシ成分のカプサイシンはラットの舌と大腸発がんを抑制することを見いだした。カロテノイドとクルクミンはラット前立腺発がんを抑制するが同時にカロテノイドには肺発がん促進するものがあることを示した。ゼアキサンチンの皮膚と肺の抗発がんプロモーション作用を明らかにした。アンピシリンと抗炎症剤の併用による肺発がん抑制作用を見い出し, 炎症制御と発がん抑制に相関のあることを示した。
公開日・更新日
公開日
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