日本の集中治療臨床情報を基盤として人工知能を用いた本邦発の重症度予測モデルの開発とパネルデータ活用環境の醸成

文献情報

文献番号
202103001A
報告書区分
総括
研究課題名
日本の集中治療臨床情報を基盤として人工知能を用いた本邦発の重症度予測モデルの開発とパネルデータ活用環境の醸成
課題番号
19AC1005
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
高木 俊介(横浜市立大学 附属病院集中治療部)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本 悟(京都府立医科大学医学部)
  • 飯塚 悠祐(自治医科大学附属さいたま医療センター麻酔科)
  • 長谷川 高志(特定非営利活動法人日本遠隔医療協会)
  • 野村 岳志(東京女子医科大学医学部)
  • 大下 慎一郎(広島大学大学院医系科学研究科 救急集中治療医学)
  • 重光 秀信(東京医科歯科大学 統合国際機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ICUパネルデータを用いたAIモデルの構築による重症化予測を目的としている。多施設のICUの診療データを収集して重症度予測AIモデルを構築し、臨床現場に資するために下記3つの課題解決が最終目標である。
①各施設・企業間でデータ構造・項目の相違の整理・解消
②ICU患者に対するAIを用いた重症化予測モデルの構築
③ICU領域で有用と思われる機械学習アルゴリズムの整理
研究方法
①ICU領域の医療機器で扱うデータを収集し、構成する概念を分析して情報モデルについて検討した。AIによる重症化予測には、部門システムの診療情報を逐次抽出し、機械学習を行うコンピュータへ転送する必要があり、効率のよいデータ集積、負荷の軽い情報転送ができる形式もシミュレーション環境で検証する。
②-1 2年分のデータベースを元に時系列モデリングで一般に用いられるLong short-term memoryおよび画像認識で用いられるConvolutional neural networkを時系列データに特化させた1次元CNNを用いて、6時間後の血圧、心拍数、呼吸数、酸素飽和度を予測するAIモデルを構築した。
②-2 自治医科大学附属さいたま医療センターのICU患者のデータを用いて、ピーチインテリヘルス社のニューラルネットワークによるAIで重症化の事前予測能を検証した。
③医学文献検索エンジンを用いてシステマティックレビューを行った。対象は集中治療領域・救急領域の急性呼吸不全・敗血症・ショック・重症患者、介入は人工知能・機械学習・深層学習、アウトカムは死亡・重症化・急性腎障害発症とした。最終的に残った文献から人工知能・機械学習の有用性に関する情報を抽出した。
結果と考察
①日本集中治療医学会の標準用語集を参考に統制用語集を作成した。今後、多施設でデータ収集して解析する際にはデータ統合のために重要な要素となる。また、統制用語集へリアルタイムに変換して表示するシミュレーション環境を構築した。
②-1 6時間後および3時間後のバイタル値を予測するAIモデルを構築した。モデルの学習曲線から更なる改善の可能性が示唆された一方、入力時間長は24時間ではなく12時間でも十分な性能を目指せることが判明した。
②-2 SOFAスコアの変化、現行の敗血症診断基準による敗血症発症、血管作動薬必要性,SIRS陽性の予測について、日本の大規模単一施設のデータベースで優れた精度を示した。個々の病院のデータベースに最適化された効果的な予測モデル生成の可能性を示していると考えられる。
③最終的に残った研究論文は147文献であった。研究発表国はアメリカが最多で、中国、イギリスがこれに次いだ。診断群分類のような公的ビッグデータを使用した研究は67件(46%)認められた。学習アルゴリズムは、人工ニューラルネットワークが最多で、ランダムフォレスト、ロジスティック回帰などがこれに次いだ。研究デザインは、他の重症度指標との比較研究(第3相研究)が最多で、有用性評価(第2相研究)がこれに次いだ。機械学習による重症度アルゴリズムが有効であると結論された研究は143件(97%)であった。
結論
ICU領域の医療機器で扱うデータに関して概念モデルと標準用語の構築を行った。様々なデータ形式が提唱されており、本研究ではHL7 Ver 2.x系をベースにサンプルを提示するが強制力を伴うものではない。シミュレーション環境では、データの収集、標準化への変換、重症度の視覚化に関して安定的な動作を確認できたが、実際の医療現場での検証はまだ行えていない。その際の電子カルテ等の医療情報システムとネットワーク共有による負荷なども検討する必要がある。医療データを現場で利活用していくために必要な課題の整理を行えた。本調査書を参考にしてICU領域でのデータ標準化を進めるためにセミナーなどを通じた周知活動を継続していく。
また、複数のアルゴリズムの構築と検証を行なった。今後、多施設でデータを収集して機械学習によるアルゴリズム構築を行なう必要がある。システマティックレビューの結果、機械学習の研究に関しては他の重症度指標との比較研究(第3相研究)が最多で、有用性評価(第2相研究)がこれに次いでいた。実際の現場でアルゴリズムを実証する研究はほとんどされておらず、これから期待がされていく分野である。現場実証をすることを想定したシミュレーション環境の構築を行い、研究成果の現場での実証に関しての可能性を示唆することができた。
今後、医療現場で多施設間でのデータベースを収集していくためには、学会と連携して進めていく必要がある。ICU領域における医療データの標準化を担う組織としてNPO法人集中治療コラボレーションネットワークを設立して活動を開始した。今後、ICU領域でのデータ利活用に繋がる活動を継続していく。

公開日・更新日

公開日
2022-06-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-06-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202103001B
報告書区分
総合
研究課題名
日本の集中治療臨床情報を基盤として人工知能を用いた本邦発の重症度予測モデルの開発とパネルデータ活用環境の醸成
課題番号
19AC1005
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
高木 俊介(横浜市立大学 附属病院集中治療部)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本 悟(京都府立医科大学医学部)
  • 飯塚 悠祐(自治医科大学附属さいたま医療センター麻酔科)
  • 濱上 知樹(横浜国立大学 大学院工学研究院)
  • 山崎 眞見(横浜市立大学 データサイエンス学部)
  • 山中 竹春(独立行政法人国立がん研究センター 生物統計部門)
  • 土井 研人(東京大学医学部)
  • 長谷川 高志(特定非営利活動法人日本遠隔医療協会)
  • 野村 岳志(東京女子医科大学医学部)
  • 澤 智博(帝京大学 医療情報システム研究センター)
  • 長嶺 祐介(横浜市立大学医学部麻酔科学)
  • 松村 洋輔(千葉大学大学院医学研究院)
  • 大下 慎一郎(広島大学大学院医系科学研究科 救急集中治療医学)
  • 宮田 裕章(東京大学 医学部附属病院)
  • 重光 秀信(東京医科歯科大学 統合国際機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
・研究代表者の変更 令和元年度・2年度:大嶽 浩司(昭和大学) 令和3年度:高木 俊介(横浜市立大学)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、今後普及が期待される遠隔ICUにおいて、診療支援をする医療従事者の負荷軽減のためにAIの活用の可能性について調査することを目的としている。そのために、集中治療領域における臨床情報を基盤として人工知能を用いた重症化予測モデルの開発と時系列データを利活用するための環境構築を行った。本邦の集中治療領域の時系列データは各施設で形式が異なっている。これらのデータを収集して利活用をするためには、次の3つの課題がある。
①各施設・企業間でデータ構造・項目の相違の整理・解消
②ICU患者に対するAIを用いた重症化予測モデルの構築
③ICU領域で有用と思われる機械学習アルゴリズムの整理
本研究の最終的な目標は3年間の研究を通じて、これら3つの課題を解決することである。
研究方法
①各施設でのデータ形式の標準化に関しては、ICUで使用されている電子機器や部門システムで扱われる情報を収集し、構成する概念を分析して情報モデルと現場での実証方法について検討した。
②3年間を通じて、3施設において各施設で収集されるデータを用いて機械学習のアルゴリズムの構築と検証を行った。
③2つの文献的な評価を行なった。令和2年度において、遠隔ICUに有用とされる重症度評価に関する文献的レビュー、令和3年度においてICUにおいて時系列のデータを用いた機械学習アルゴリズムの構築に関する文献的レビューを行った。
結果と考察
重症系部門システムから抽出されるデータに関して、情報モデルの構築を行なった。各施設や企業毎に異なるデータの用語整理を行い、集中治療医学会が定める用語集の改訂に関する提案を行った。また、これらの統制用語集へリアルタイムに変換して表示するシミュレーション環境を構築した。各施設での機械学習のアルゴリズムに関しては、時系列のバイタルサインを用いた関数ロジスティック回帰分析によるAKIの予測モデルの構築、時系列6~12時間後のバイタルサインを予測するアルゴリズムの構築、24時間後のSOFAスコアを予測するモデルの構築を行い、それぞれ高い精度を得た。文献的レビューにおいては、遠隔ICUや集中治療領域において機械学習による重症度アルゴリズム構築は,集中治療領域における患者の死亡・重症化予測に有用である可能性が高いという結果が得られた。
本研究の成果をもとにICU診療データの標準化を目指し、日本集中治療医学会や関連学会・企業と連携してコンソーシアム「集中治療コラボレーションネットワーク(ICON)」を設立した。この場でICUデータ標準化・構造の統一化に向けた検討を行い、データ利活用を行うプロジェクトのハブとなることで、研究費終了後にも持続的に組織運営が行われ、事業継続できる方策を検討している。
結論
3年間の活動を通じて、標準用語集を参考にして、データ収集のための統制用語集を作成した。また、これらのデータをリアルタイムに表示するためのシミュレーション環境を構築し、重症度アルゴリズムを自動的、連続的に算出できる環境を構築し、安定した動作の確認ができた。バイタルサイン、検査項目、血液ガス分析、人工呼吸器データと集中治療領域での情報の整理をすることができた。
単施設での集中治療領域における時系列データを用いて機械学習のアルゴリズム構築を行なった。各施設で精度の高いアルゴリズムが構築できたが、データセットが単一施設のため、データ量が不十分である課題が抽出された。今後、多施設でのデータ利活用のためには、データ標準化とデータベース化が必須である。
各施設で収集したデータを中央のサーバーに集めて様々なアルゴリズムが構築されるエコシステムが出来上がることを期待している。そして、その役割を集中治療コラボレーションネットワークとして担っていくことが我々の責務であると感じている。

公開日・更新日

公開日
2022-06-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-06-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202103001C

収支報告書

文献番号
202103001Z