アレルギー性疾患の発症・進展・重症化の予防に関する研究

文献情報

文献番号
200832002A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギー性疾患の発症・進展・重症化の予防に関する研究
課題番号
H18-免疫・一般-002
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
海老澤 元宏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センターアレルギー性疾患研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 宇理須 厚雄(藤田保健衛生大学医学部坂文種報德會病院 小児科)
  • 近藤 直実(岐阜大学大学院医学系研究科小児病態学)
  • 伊藤 節子(同志社女子大学生活科学部臨床栄養学研究室)
  • 荒川 浩一(群馬大学大学院医学系研究科小児科学)
  • 大嶋 勇成(福井大学医学部附属病院小児科)
  • 下条 直樹(千葉大学大学院医学研究院小児病態学)
  • 穐山 浩(国立医薬品食品衛生研究所 代謝生化学部)
  • 玉利 真由美(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター 呼吸器疾患研究チーム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国のアレルギー性疾患の発症は乳児期に食物アレルギー(FA)の関与する乳児アトピー性皮膚炎(AD)で発症し気管支喘息(BA)、アレルギー性鼻炎と進展する。アレルギー性疾患の発症・進展・重症化の要因を疾患ごとに明らかにした上で効率的な予防法の開発を行う。
研究方法
相模原病院で呼吸器ウイルス感染、ダニ抗原暴露量をモニターし乳児AD/FAを対象にBA発症前向き研究を行っている。岐阜コホート研究ではFAとBAに焦点を絞って遺伝子多型などが解析された。相模原病院を中心とするFA、BAの患者を対象とした遺伝子多型の検討も行われた。
結果と考察
相模原の前向き研究では71名を追跡中で登録時平均年齢は0.9歳、現在の平均年齢は2.3歳で、BA発症9名、喘鳴を認めたのは7名を認めた。原因食物数は初診時と2歳時でBA発症例、未発症例とも減少していたが、末梢血好酸球数、血清総IgE値はBA発症例で高値を持続していた。室内塵のダニ抗原量は、BA発症例、未発症例で比較すると前者のDer 1量 46.3 (μg/g dust)に対して後者は11.3で、その結果としてBA発症例では早期にダニ抗原に感作が認められた。上気道の呼吸器ウイルス検査は312件行いRSV陽性8件、RV陽性133件で、RV感染が圧倒的であった。岐阜のコホート研究では生後6ヶ月で食物抗原に対する特異的IgERAST陽性者(感作+)の頻度は,クラス2以上を陽性とすると卵白、牛乳で34%、11%に認め1歳2ヶ月でも同様であったが、1歳2ヶ月でFAと診断されたのは5名(3.2%)のみであった。卵白感作と遺伝子多型の検討ではIL-12 C3757Tの遺伝子多型のCのアレルをもつ方が高頻度に感作を受けていた。小児BAの遺伝子多型の検討ではTSLP機能亢進に作用する遺伝子多型が小児BA発症と相関していた。FAの遺伝子多型の相関解析では320名を対象に行いLTC4S、IFNAR1、IL-21の多型および自然免疫応答に重要なinflammasomeを構成する遺伝子群の多型とFAの病態との関連が認められた。
結論
FA患者からのBA発症例では、好酸球数、血清総IgE値の高値が持続し、早期にダニ抗原に感作されており、BA発症までの上気道感染症RV感染が圧倒的に影響を与えていた。FA感作、発症、BA発症の遺伝子多型が明らかにされた。

公開日・更新日

公開日
2009-06-05
更新日
-

文献情報

文献番号
200832002B
報告書区分
総合
研究課題名
アレルギー性疾患の発症・進展・重症化の予防に関する研究
課題番号
H18-免疫・一般-002
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
海老澤 元宏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センターアレルギー性疾患研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国のアレルギー性疾患の発症は乳児期に食物アレルギー(FA)の関与する乳児アトピー性皮膚炎(AD)で発症し気管支喘息(BA)、アレルギー性鼻炎と進展する。アレルギー性疾患の発症・進展・重症化の要因を明らかにした上で予防法の開発を行い、最終年度は食物アレルギーの診療の手引きを改訂する。
研究方法
「食物アレルギーの診療の手引き2008」の改訂委員会を開催し改訂作業を行った。コホート研究の推進と相模原病院では乳児FA・AD児を前向きにBA発症をエンドポイントにフォローした。食物負荷試験の普及と侵襲の低いFA診断法を検討し予防・寛解の機序を探った。FAとBAの遺伝子多型の検討が行われた。
結果と考察
研究班の研究成果を反映させた「食物アレルギーの診療の手引き2008」をPDFファイルとしてHPにて公開し、冊子としても多方面に1万部以上配布した。2002年に4ヶ月健診を受け同意を得た5,247名から始まる相模原コホート調査で、3歳時調査ではBAの診断を受けていた児は8.7%で、4ヶ月の湿疹と8ヶ月、1歳、3歳時のAD、FAの存在、アレルギー性疾患の家族歴と同居者の喫煙がBA発症の危険因子であった。5歳児調査では33.8%の児が何らかのアレルギー性疾患を有し、BAの診断は14.3%、5歳児のスギ花粉症の罹患率は10.7%に達していた。前向き研究ではFA患者からのBA発症例では、好酸球数、血清総IgE値の高値が持続し早期にダニ抗原に感作されていた。BA発症までの上気道感染症はRV感染が圧倒的に影響を与えていた。食物負荷試験ネットワークは8年目を迎え累計は2092例に達し陽性率49%で、負荷試験食の抗原量を基準として食品のアレルギー物質抗原量食品交換表を作成した。その結果、生活の質を高められる治療・栄養指導が可能となった。好塩基球を用いたヒスタミン遊離試験、CD203cの発現解析は鶏卵と牛乳アレルギーの診断に有用であることが明らかになった。岐阜コホート研究では反復性喘鳴とTGF-βプロモーター多型やLTC4Sのプロモーター多型の関連性が示唆され,卵白感作とIL-12 C3757T多型に関連性が認められた。遺伝子多型ではTGFB2遺伝子多型と成人BA発症、またTSLPの機能亢進の遺伝子多型と小児BA発症との関連を見いだした。FAについてもLTC4S、IFNAR1、IL-21の多型と病態の相関を見いだした。
結論
全体研究として食物アレルギーの診療の手引きを改訂し、各分担研究も3年間の計画をほぼ達成し、小児アレルギー疾患の発症・進展・重症化に関連する重要な知見、今後に継続して研究すべき研究の萌芽が多数得られた。

公開日・更新日

公開日
2009-06-05
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200832002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
小児期のアトピー性皮膚炎(AD)、食物アレルギー(FA)、気管支喘息(BA)、スギ花粉症の有病率調査を相模原市の調査から明らかにし、5歳時では何らかのアレルギー性疾患を有している児は約3人に1人という衝撃的なデータが得られた。乳児期のAD/FAを有していること、アレルギー性疾患の家族歴、間接喫煙が3歳でのBAの発症リスクであった。FAやBAなどの小児アレルギー性疾患の発症と遺伝子多型の関連性も明らかにされたことは発症予知、重症化予防の観点から重要な知見である。
臨床的観点からの成果
疫学調査でのデータをもとにBA発症危険因子を明らかにするために相模原病院で前向き研究を行っている。乳児期のFA患者からの幼児期BA発症例では、好酸球数、血清総IgE値の高値が持続し、早期にダニ抗原に感作されており、BA発症までの上気道感染症RV感染が圧倒的に影響を与えていた。食物負荷試験をより安全に行うために好塩基球の活性化マーカーを調べることが有用であることを明らかにした。負荷試験食と食品中のアレルゲン量を定量し関連づけることによりFA患者の生活の質を高める栄養指導が可能となった。
ガイドライン等の開発
研究班の成果をもとに「食物アレルギーの診療の手引き2008」を最終年度に作成し公開した。研究班にて検討した卵白、牛乳特異的IgE抗体と食物負荷試験結果の相関関係を示したプロバビリティーカーブを掲載し、食物負荷試験の適応の検討がより適切に安全に行えるようになった。国立病院機構相模原病院臨床研究センター等4カ所のサイトからPDFファイルの無料ダウンロード化、関係学会、全国医師会、コメディカル等への無料配布を行い、標準的な食物アレルギーの診療在り方の啓発の資料として広く活用されている。
その他行政的観点からの成果
食物負荷試験ネットワーク研究事業は平成13年から8年間にわたり活動を継続し、同一のプロトコールでブラインド負荷試験が施行可能な鶏卵、牛乳、小麦、大豆の負荷試験食を提供してきた。全国37施設において総施行症例は平成20年度までに2092症例に達し、我が国での負荷試験の普及に貢献した。平成18年、20年の保険診療の改正において食物負荷試験が保険診療として認められた基本データして活用され、“食物アレルギーの診療の手引き”は食物アレルギー診療の基礎として診療報酬の解説書に明記されている。
その他のインパクト
“食物アレルギーの診療の手引き2008”は一般医向けに作成したものであるが、患者、コメディカルにとっても大変有用な情報をもたらしている。FAの診療の手引きに書かれている情報は、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、NHK教育テレビ“今日の健康”などで取り上げられ、食物アレルギー研究会、日本アレルギー学会、日本小児アレルギー学会のシンポジウム、ワークショップなどでも取り上げられている。

発表件数

原著論文(和文)
18件
原著論文(英文等)
86件
その他論文(和文)
43件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
136件
学会発表(国際学会等)
28件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
Inventor: Mayumi Tamari, et al Application No: 2006-296561 (2006.10.31)
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
食物アレルギーの診療の手引き2008

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
緒方美佳,宿谷明紀,海老澤元宏 et al.
乳児アトピー性皮膚炎におけるBifurcated Needleを用いた皮膚プリックテストの食物アレルギーの診断における有用性(第1報)―鶏卵アレルギー―
アレルギー , 57 (7) , 843-852  (2008)
原著論文2
Komata T, Soderstrom L, Ebisawa M et al.
The predictive relationship of food-specific serum IgE concentrations to challenge outcomes for egg and milk varies by patient age
J Allergy clin Immunol , 119 (5) , 1272-1274  (2007)
原著論文3
Motohiro Ebisawa
Management of Food Allergy: Food Allergy Management Guideline 2005 by National Food Allergy Research Group Supported by the Ministry of Health, Welfare, and Labor
Korea Journal of Asthma, Allergy and Clinical Immunology , 26 (3) , 177-185  (2006)
原著論文4
海老澤元宏
食物アレルギーへの対応について─厚生労働科学研究班による「食物アレルギーの診療の手引き2005」─
アレルギー , 55 (2) , 107-114  (2006)
原著論文5
Hirota T, Ebisawa M, Tamari M. et al.
Genetic polymorphism regulating ORM1-like 3 (Saccharomyces cerevisiae) expression is associated with childhood atopic asthma in a Japanese population
J Allergy Clin Immunol , 121 , 769-770  (2008)
原著論文6
Hatsushika K, Ebisawa M, Tamari M. et al.
Transforming growth factor-beta(2) polymorphisms are associated with childhood atopic asthma
Clin Exp Allergy , 37 , 1165-1174  (2007)
原著論文7
Nakajima Y, Tsuge I, Urisu A. et al.
Up-regulated cytokine inducible SH2-containing protein expression in allergen-stimulated T cells from hen’s egg-allergic patients
Clin Exp Allergy , 38 , 1499-1506  (2008)
原著論文8
Akiyama H, Sakata K, Maitani T. et al.
Profile analysis and allergenecity of wheat protein hydrolysates
Int Arch Allergy Immunol. , 140 , 36-42  (2006)
原著論文9
Ohgiya Y., Akiyama, H., Teshima R. et al.
Molecular cloning, expression and characterization of a ma jor 38 kDa cochineal allergen
J Allergy Clin Immunol.  (2009)
原著論文10
Tadaki H, Arakawa H, Morikawa A et al.
Association of cord blood cytokine production with wheezy infants in the first year of life
Pediatr Allergy Immunol  (2009)
原著論文11
Tsuge I, Kondo Y, Urisu A et al.
Allergen-specific helper T cell response in patients with cow’s milk allergy: simultaneous analysis of proliferation and cytokine production by carboxyfluorescein succinimidyl ester dilution assay
Clin Exp Allergy. , 36 , 1538-1545  (2006)
原著論文12
Shimojo N, et al.
T helper lymphocyte response to respiratory syncytial virus and its components in patients with respiratory allergy and non-atopic controls
Int Arch Allergy Immunol. , 147 , 110-116  (2008)
原著論文13
Harada M, Ebisawa M, Tamari M. et al.
Functional analysis of the polymorphisms of the TSLP gene in human bronchial epithelial cells
Am J Respir Cell Mol Biol. , 40 , 368-374  (2009)
原著論文14
Yamada A, Ohshima Y, Mayumi M. et al.
Antigen-primed splenic CD8+ T cells impede the development of oral antigen-induced allergic diarrhea
J Allergy Clin Immunol  (2009)
原著論文15
Jin R, Kaneko H, Kondo N. et al.
Age-related changes in BAFF and APRIL profiles and upregulation of BAFF and APRIL expression in patients with primary antibody deficiency
Int J Mol Med. , 21 , 233-238  (2008)
原著論文16
Bai CY, Matsui E, Kondo N. et al.
A novel polymorphism in the 5-lipoxygenase gene associated with bronchial asthma in Japanese children
Int J Mol Med. , 21 , 139-144  (2008)
原著論文17
Campos E, Shimojo N, Kohno Y. et al.
Differential effects of TNF-alpha and IL-12 on IPP-stimulated IFN-gamma production by cord blood Vgamma9 T cells
Immunology  (2009)
原著論文18
Inoue H, Shimojo N, Tamari M. et al.
Association study of the C3 gene with adult and childhood asthma
J Hum Genet , 53 , 728-738  (2008)
原著論文19
Nakashima K, Hirota T, Tamari M. et al.
An association study of asthma and related phenotypes with polymorphisms in negative regulator molecules of the TLR signaling pathway
J Hum Genet , 51 , 284-291  (2006)
原著論文20
Kamada F, Tamari M, Suzuki Y. et al.
The GSTP1 gene is a susceptibility gene for childhood asthma and the GSTM1 gene is a modifier of the GSTP1 gene
Int Arch Allergy Immunol. , 144 (4) , 275-286  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-