発がんの高危険度群を対象とした予防研究

文献情報

文献番号
199700519A
報告書区分
総括
研究課題名
発がんの高危険度群を対象とした予防研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
垣添 忠生(国立がんセンター中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 斉藤大三(国立がんセンター中央病院)
  • 小俣政男(東京大学医学部)
  • 石川秀樹(大阪府立成人病センター研究所)
  • 津金昌一郎(国立がんセンター研究所支所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
96,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者が年とともに急増しつつあるわが国では、がんは死因の第一位を占め、今後も増加を続けると予想されている。対がん戦略としては、診断、治療技術の開発、救命
できなかった人達の末期状態に対応する方策、がんにならない方策の確立、この三つがいずれも大切である。この中で、がんにならない方策の確立、即ちがん予防、あるいはがん
の一次予防が本研究事業の目的である。発がんの高危険度群として同定される人たちを対象にがん一次予防のための手段を開発、実践、評価する。ヘリコバクター・ピロリ感染者
における慢性萎縮性胃炎の進行と胃がんの発生が想定されている。C型慢性活動性肝炎→肝硬変→肝がんという経時変化もよく知られている。大腸ポリープは家族性発生の場合はも
ちろん、散発性の場合も大腸がんの前がん病変と目されている。こうした人々を対象としたがん予防の研究は、対象症例数が比較的少くて、しかも予防策をこうじた後もその安全
性、効果などを臨床の場で緻密に経過観察でき、結果も比較的短期間に得られる、など安全性、効果の評価ともに行いやすい。本研究事業は肝臓がん、胃がん、大腸がんなどの臓
器がんを念頭におき、その高危険度群を対象にした発がん予防研究を展開する。
研究方法
1.胃がんの前がん病変と考えられている慢性萎縮性 胃炎の発生にヘリコバクター・ピロリ感染が深く関っていることが知られてきた。ヘリコバクター・ピロリの除菌によって慢性萎縮性胃炎の進行を抑制できるか、その結果、胃がん発生を予防できるかを検証す
る無作為比較試験を実施する。2.C型慢性活動性肝炎、肝硬変患者は肝がん発生の高危険度群である。全国7施設でインターフェロン療法を受けたC型慢性肝炎患者約3000例について、その後の肝がん発生の有無を追跡する。3.大腸ポリープは大腸がんの前がん病変と考えられている。大腸ポリープを対象にその発生を予防することによって大腸がんを予防する目的で、食事指導および食物線維、乳酸菌製剤の投与による介入試験を無作為比較対照試験と
して実施する。4.胃がん高危険度地区における中核病院の人間ドック受診者を対象に、慢性萎縮性胃炎と診断された人達にビタミンCの服薬による慢性萎縮性胃炎の進行を抑制する
ことが可能かを検討するための介入試験を実施する。一般住民を対象とする胃がんの食事関連危険因子の軽減をめざした効果的な食事指導システムの開発を図る。
結果と考察
(1)ヘリコバクター・ピロリ感染の早期発見とその除菌による胃がんの予防:本研究は胃の限局性病変を有さない20-59歳のH.pylori感染者を、H.pylori除菌群および非除菌群に無作為に割付け、各群における胃粘膜萎縮の発生および進展、さらに胃がんの発
生頻度を比較検討するものである。H.pyloriの除菌方法は 1)Lansoprazole、2)Clarithromycin 、3)Amoxicillinの三剤併用療法である。?本試験への参加を促す前段階
の作業として血清診断を導入し、2段階のinformed consentを得る、?登録期間は1996年9月から1998年12月まで、追跡期間は2004年3月までとする、?予定参加者数: 胃粘膜萎縮は約700例の参加者があれば90%以上の確率で除菌群と非除菌群の差を検出できる、胃がんの発生は、2年間で5000名(各群2500名)の参加者を要する、?評価: 胃粘膜萎縮に関しては登録期間終了2年半後の2001年3月に評価を行い、胃がんに関する評価は2004年3月の追跡期間終了後に実施する、?本試験への参加施設は、全国六ブロックからの計380施設、とする。現時点では除菌群135例、非除菌群138例の登録である。登録の増加を求めてポスターを作製し各移設内で掲示し参加を募った。また、全国六ブロックの参加施設の研究者に対し、研究の趣旨と方法に関する研究会を順次実施した。しかし、これでも登録数の伸びははかばかしくないので、380施設を整理して約200施設とし、参加継続の意志を再度表明した施設に各目標登録数を依頼した。また、各ブロック内の検診施設とも提携し、検診受診者から症例登録を得るルートも開発した。(2)肝がん発生抑止に関する研究:全国7施設において、現在までにインターフェロンα(IFN)療法を施行したC型慢性肝炎(肝硬変を含む)症例のIFN療法後の経過について、肝がんの発生率を中心として集計を行った。IFN療法を受けたC型慢性肝炎および肝硬変症例計3000例を対象とした。IFN療法を受けたものは2514例、受けていないもの(対照群)は512例。肝がんの発生はIFN投与群に78例(3%)、IFN非投与群に72例(14%)認めた。両群の発がん率には有意差がみられたが、本研究が無作為比較対照試験でないことを鑑み、さらに以下の検討を行った。背景因子をそろえて比較するためエントリー時の肝組織像における線維化の程度を示すF因子で分類した場合、IFN非投与例の年間肝がん発生率はF3で4.2%、F4で6.0%であり、線維化の進行した症例ほど発がん率が高くなっていた。IFN投与例の肝がん発生率はF3:1.8%、F4:2.6%であり、同程度の線維化の症例間で比較しても、IFN非投与例と比べて投与例の発がん率は有意に低かった。(3)大腸ポリープの予防:対象は、大腸がん高危険症例である多発大腸腫瘍症例で、大腸内視鏡検査にて組織学的に大腸腫瘍(がん、腺腫)と診断された病巣が2個以上存在し、それらの腫瘍をすべて内視鏡的に切除され、治癒したものに限った。これらの患者を対象に食事指導および食物線維、乳酸菌製剤の投与による介入試験を無作為比較試験として実施中で目標は400例で登録が終了した。家族性大腸腺腫症患者の大腸全摘除術の時期を先伸ばしする目的でスリンダック300mg/日内服研究を行なった。ポリープの縮小や消失にスリンダックは有効だったが、投与7例中3例に胃出血や穿孔が見られたことより、すべての参加者に十分な説明を行ない、研究を中止した。同じく、家族性大腸腺腫症患者で、大腸全摘を受け、小腸直腸吻合術後の直腸に出現するポリープの制御を目的として、Cyclooxigenase 2(COX-2)の特異的阻害剤であるニメスリドを予備試験として3例の患者に投与した。スリンダックとは異なり、COX-1阻害作用がないため消化管の副作用は認められなかったが抗ポリープ作用も認められなかった。(4)胃がん高危険群の発がん予防を目的としたフィールド・トライアル:1)1996年1~2月にビタミンC50mgおよび500mgのみの補給とする研究計画の変更を行い、1村に限定して研究が継続されている。無作為割り付けの結果は良好であり、ビタミンC剤補給の高濃度群が低濃度群に比較して、血中アスコルビン酸濃度が高値を示していることも観察された。2)「胃がん高危険地域一般住民を対象とする胃がんの食事関連危険因子の軽減をめざした効果的な食事指導システム」の開発及びその評価:生活習慣の適性化による予防の推進は不可欠であり、その方法論を確立し、客観的な評価を行うことの意義は大きい。そのために、がん予防に適した食事指導を行うための方法論を確立し、その食習慣に及ぼす効果を客観的に評価するためのフィールド試験を計画した。
結論
(1)ヘリコバクター・ピロリの除菌が萎縮性胃炎の進展の進展の予防、胃がん発生の予防につながるかどうかを検討することは、わが国に課せられた極めて重要な研究であ
る。しかし、実際はインフォームド・コンセントの関係から登録は難航している。新たな工夫を加え、何とか研究を遂行するべく努力している。(2)インターフェロンによる肝が
ん予防効果を証明するために、大規模なランダマイズド・スタディを開始することは現状では困難である。肝線維化の程度など因子別に分けた解析を緻密に行なう。(3)大腸ポリープの再発に対する小麦ふすま、乳酸菌製剤の予防効果はあと2年で得られる予定である。
(4)胃がん予防に果たす食生活の重要性から、食塩や緑黄色野菜など、既知の疫学的研究、あるいは動物実験による結果から胃がんとの関連が強く示唆されている食生活を改善する
ための指導プログラム開発に向けた研究にとりかかる。

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