文献情報
文献番号
202101002A
報告書区分
総括
研究課題名
児童虐待対応におけるリスクアセスメントのためのデータ収集基盤構築とAIを活用したリスク評価に向けた研究
課題番号
19AA1002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
高岡 昂太(国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
3,627,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
児童虐待におけるリスクには、虐待の発生リスク、虐待による死亡 (致死的行為の発生)リスク、虐待の再発や継続のリスク、虐待が子どもの心身の健全な発達に悪影響を及ぼすリスク、世代間連鎖のリスクなどが想定される(髙岡ほか, 2020)。的確なリスクアセスメントとは、包括的な情報収集と評価によって、これらのリスクを事前に見抜き、それに応じた対応を講じるまでの一連のプロセスを指す。このとき、リスクアセスメントの過程には、未来の出来事を含めた未観測の事態に対する「予測」が含まれている。こういった不確実な状況に対し、十分な説明根拠をもって介入や支援を講じるためには、データに基づく知見の活用が欠かせない。児童相談所を代表とする公的機関として、対応の一貫性を確保する上でも、過去のデータを参照することは不可欠となる。
本研究では、児童虐待対応におけるリスクアセスメントのためのデータ収集基盤と、AIを活用したリスク評価に向けた研究を実施した。データに基づくリスクアセスメントを実現するために必要な情報基盤について検討し、【研究1】解析技術を用いたリスク評価と、【研究2】リスクアセスメント情報の他の活用可能性について検討することを目的とした。
本研究では、児童虐待対応におけるリスクアセスメントのためのデータ収集基盤と、AIを活用したリスク評価に向けた研究を実施した。データに基づくリスクアセスメントを実現するために必要な情報基盤について検討し、【研究1】解析技術を用いたリスク評価と、【研究2】リスクアセスメント情報の他の活用可能性について検討することを目的とした。
研究方法
研究1については、以下の手法4つを用いた。
【統計手法1】 状態空間モデルとロジスティック再発スコア調整を用いた一時保護期間別再発率の推定を実施した。
【統計手法2】混合分布モデルを利用したパラメータ推定を実施した。
【統計手法3】負の二項分布を用いた一時保護需要予測モデルを構成した。非負の整数データ(特に右に裾の伸びる分散の大きいデータ)を予測するために、一時保護件数の時系列変化を負の二項分布を用いた一般化加法モデルで学習・予測した。このとき、土日祝日の影響や月別の季節変動を考慮した。
【統計手法4】一時保護需要予測のモンテカルロシミュレーションを実施した。上記3つの統計手法を利用し、(1)将来の予測件数を生成、(2)必要な予測保護日数を生成、(3)保護定員の超過状況を計算、(4)一時保護の同時委託件数シミュレーションという4段階で、総合的なシミュレーションを実施。これにより、「再発率低減の観点を含め、今後どの程度の保護委託が生じうるか」について、2022年12月31日までの将来予測を行なった。
研究2については、全国9自治体において児童相談所5箇所、市区町村5箇所から重度と考えられる1事例、軽度と考えられる1事例、現場で判断が難しかった1事例、合計3事例についてセーフティアセスメントツールに入力してもらい、AIの予測結果を提示した。その結果について、9自治体からヒアリングを行った。
【統計手法1】 状態空間モデルとロジスティック再発スコア調整を用いた一時保護期間別再発率の推定を実施した。
【統計手法2】混合分布モデルを利用したパラメータ推定を実施した。
【統計手法3】負の二項分布を用いた一時保護需要予測モデルを構成した。非負の整数データ(特に右に裾の伸びる分散の大きいデータ)を予測するために、一時保護件数の時系列変化を負の二項分布を用いた一般化加法モデルで学習・予測した。このとき、土日祝日の影響や月別の季節変動を考慮した。
【統計手法4】一時保護需要予測のモンテカルロシミュレーションを実施した。上記3つの統計手法を利用し、(1)将来の予測件数を生成、(2)必要な予測保護日数を生成、(3)保護定員の超過状況を計算、(4)一時保護の同時委託件数シミュレーションという4段階で、総合的なシミュレーションを実施。これにより、「再発率低減の観点を含め、今後どの程度の保護委託が生じうるか」について、2022年12月31日までの将来予測を行なった。
研究2については、全国9自治体において児童相談所5箇所、市区町村5箇所から重度と考えられる1事例、軽度と考えられる1事例、現場で判断が難しかった1事例、合計3事例についてセーフティアセスメントツールに入力してもらい、AIの予測結果を提示した。その結果について、9自治体からヒアリングを行った。
結果と考察
リスクアセスメント情報の継続的な蓄積は、子ども虐待対応領域全体の発展に寄与するものと考えられる。しかしながら、そのデータを適切に集めるためには全国的なデータの標準化が不可欠である。AI等の予測技術を用いたリスクの評価だけでなく、必要な体制・支援資源の拡充根拠や、相談援助活動に携わる職員の業務負担軽減などを検討する根拠の創出にも活用できる伴走サービスが鍵になることが明らかになった。
結論
AIを活用するためには、①適切なリスクアセスメントのデータの入力支援施策と伴走支援が不可欠である。AIシステムは作って終わりではないため、持続的にデータ解析結果のフィードバックを各自治体に行い、データに基づく業務改善と政策提言を行う伴走サービスが肝となる。これがないとAIはすぐに形骸化するだろう。②適切なデータを集めるための拡張可能なシステム開発に向けて、今後様々なデータとの接続や各自治体独自の項目管理やカスタマイズをするためにAPI実装が不可欠である。APIはデータ連携の根幹を成す。デジタル庁のガバメントクラウド規程に沿って、発展可能性を含めたAIとICT部分の設計を多くの研究者、情報技術者と共に、検討することが不可欠と考えられる。
公開日・更新日
公開日
2023-04-18
更新日
-