児童虐待対策における行政・医療・刑事司法の連携推進のための協同面接・系統的全身診察の実態調査及び虐待による乳幼児頭部外傷の立証に関する研究

文献情報

文献番号
202101001A
報告書区分
総括
研究課題名
児童虐待対策における行政・医療・刑事司法の連携推進のための協同面接・系統的全身診察の実態調査及び虐待による乳幼児頭部外傷の立証に関する研究
課題番号
19AA1001
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
山田 不二子(東京医科歯科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
3,857,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
性虐待やAHT(虐待による乳幼児頭部外傷)のように、体表外傷が生じにくく、被害児本人から被害内容の開示を得ることが難しい虐待の場合、その立証は困難を極める。そこで、本研究は、虐待を立証するための方法論を確立し、児童虐待防止対策に資することを目的とする。
研究方法
テーマ1:協同面接と系統的全身診察の実施実態を把握するため、先進的な取り組みをしている施設に対してアンケート調査とグループヒアリングを実施し、その結果とこれまでの研究結果とを踏まえて、『協同面接と系統的全身診察の手引き』を作成する。
テーマ2:乳幼児の頭部外傷症例に関する医療情報および公判記録による事例検証を行う。調査結果に基づいて、AHTの正確な診断、関係機関連携の一助となることを目指し、『AHT診断アルゴリズム(手引き)』を作成する。
テーマ3A:硬膜下血腫を受傷した乳幼児から脳脊髄液と血液を採取し、脳脊髄液と血漿のケミカルメディエイターとバイオマーカーを分析するとともに、メタボローム解析を用いて、回転性加速減速運動による脳実質損傷に特異的なバイオマーカーを特定する。
テーマ3Bでは、3Aとは異なる症例も含めた脳浮腫症例について、MRSを施行し、受傷部位の脳代謝にどのような変化が生じているかを分析する。
結果と考察
テーマ1:【結果】2021年度は、医療機関における協同面接や系統的全身診察の実施状況を調査するために、児童虐待に積極的に取り組んでいる小児科を有する10病院、性暴力救援・性虐待に積極的に取り組んでいる2病院とその関連機関2施設、協同面接実施民間団体4施設、児童相談所1施設に対して詳細な調査を行い、協同面接実施民間団体の2施設を除く計17施設から回答が得られた。多くの病院では協同面接の実施状況さえ連絡がないなど、具体的な関与は少なかった。実施している機関でも費用や記録の保存方法が課題となっていた。系統的全身診察は小児科医と産婦人科医など複数の医師が担当している病院が多かったが、虐待の件数に比べると実施されている事例は少なかった。課題としては診察ができる医師が少ないこと、性器・肛門の診察の必要性について児童相談所の理解が不十分であることが挙げられた。【考察】2019年度からの課題に対応するため、「協同面接と系統的全身診察の手引き」を作成し、全国の臨床研修指定病院、検察庁、警察に配布した。多機関が協同面接と系統的全身診察をセットで行う必要性について適切な認識を持つこと、系統的全身診察を担うことのできる医師を養成すること、そして医療機関が協同面接に関与することを正式な形で周知することが、虐待を受けた子どもの権利を守るために必要であると考えられた。
テーマ2:【結果】AHT司法連携調査は77例の回答があり、最高検察庁の協力で25例の事件が特定され、13例の記録が謄写できた。自認事例8例は情状、否認事例5例は犯人性・暴行の事実が争点となり、医学的争点は主に過失事故か、故意の暴行か、という点であった。証拠採用された医学的証拠は主治医や鑑定医に対する警察官や検察官による調書と鑑定書であり、医師が証人出廷している事例も認められた。2019年度実施の「AHTに関する医師の意識調査」、2020-2021年度実施の「AHT診断アルゴリズム作成のための医療情報調査およびAHTの司法連携調査」をもとに、研究分担者・研究協力者で検討し、『AHT診断アルゴリズム(診断の手引き)』を作成し、医療機関、児童相談所、警察本部、検察庁等に配布した。【考察】AHTの診断・診療には小児科・脳外科・放射線科・法医学など多数の診療科・専門家が関わる。今回、複数診療科医師の協力のもとで医療情報調査を実施し、『AHT診断アルゴリズム(診断の手引き)』を作成した意義は大きく、乳幼児頭部外傷診療において本アルゴリズムが参考となり、現場の医療資源、価値観から解離することなく、全国のAHT診断・診療精度がさらに向上し、被虐待児への適切な支援につながることを願う。
テーマ3:【結果】テーマ3Aの研究対象として収集された検体は5件であり、現在、冷凍保存されている。テーマ3Bの共同研究施設は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応のため、外傷症例の受入れが抑制されていて、症例が集まっていない。【考察】小児頭部外傷において、虐待か否かは、司法においても論争の的であるが、医学的に証明できないことが多い。この研究で大きな進展があれば、被害児の治療方針や法廷論争に大きく貢献する可能性があり、社会的な経費の削減にも繋がる。
結論
性虐待やAHTの立証は困難を極めるが、本研究を通して、性虐待やAHTを立証するための方法論を確立に資するよう、『協同面接と系統的全身診察の手引き』および『AHT診断アルゴリズム(診断の手引き)』を策定した。

公開日・更新日

公開日
2023-04-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-04-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202101001B
報告書区分
総合
研究課題名
児童虐待対策における行政・医療・刑事司法の連携推進のための協同面接・系統的全身診察の実態調査及び虐待による乳幼児頭部外傷の立証に関する研究
課題番号
19AA1001
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
山田 不二子(東京医科歯科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 毎原 敏郎(兵庫県立尼崎総合医療センター 小児科)
  • 丸山 朋子(大阪急性期・総合医療センター 小児科)
  • 高橋 英城(東京医科大学 小児科・思春期科学分野)
  • 田上 幸治(神奈川県立こども医療センター 総合診療科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
性虐待やAHT(虐待による乳幼児頭部外傷)のように、体表外傷が生じにくく、被害児本人から被害内容の開示を得ることが難しい虐待の場合、その立証は困難を極める。そこで、本研究は、虐待を立証するための方法論を確立し、児童虐待防止対策に資することを目的とする。
研究方法
テーマ1:協同面接と系統的全身診察の実施実態を把握するため、先進的な取り組みをしている施設に対してアンケート調査とグループヒアリングを実施し、その結果とこれまでの研究結果とを踏まえて、『協同面接と系統的全身診察の手引き』を作成する。
テーマ2:乳幼児の頭部外傷症例に関する医療情報および公判記録による事例検証を行う。調査結果に基づいて、AHTの正確な診断、関係機関連携の一助となることを目指し、『AHT診断アルゴリズム(手引き)』を作成する。
テーマ3A:硬膜下血腫を受傷した乳幼児から脳脊髄液と血液を採取し、脳脊髄液と血漿のケミカルメディエイターとバイオマーカーを分析するとともに、メタボローム解析を用いて、回転性加速減速運動による脳実質損傷に特異的なバイオマーカーを特定する。
テーマ3Bでは、3Aとは異なる症例も含めた脳浮腫症例について、MRSを施行し、受傷部位の脳代謝にどのような変化が生じているかを分析する。
結果と考察
テーマ1: 2020年1月23日に兵庫県立尼崎総合医療センターにおける倫理審査で承認され、日本子ども虐待医学会(JaMSCAN)正会員と全国の児童相談所等に対して、協同面接および系統的全身診察の実態調査を行った。COVID-19流行への対応やその感染拡大防止のために医療者も児童相談所も多忙を極めており、調査票の回収に時間を要した。2021年度は児童虐待や性暴力救援に専門的に取り組む医療機関、児童相談所等を選んで調査を行った。
当初の計画では2021年度の早期に『協同面接と系統的全身診察の手引き』を作成して各機関に配布し、その効果を検証する予定であったが、上記の事情から手引きの修正に時間を要し、配布時期が令和3年度末となったため、効果の検証には至らなかった。
テーマ2: 2019年11月末に「臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針における5類型病院の小児科・脳神経外科・救急診療科医師を対象としたAHTに関する医師の意識調査を実施し、調査票を回収した。
2019年度に、JaMSCANの正会員を対象として、交通外傷を除く乳幼児頭部外傷に関する症例経験及び警察・検察への協力実態を調査した。この調査結果に基づき、全国30の医療機関に対して、AHT症例に関する医療情報調査ならびに司法連携調査の共同研究医療機関としてご協力くださるよう依頼した。
2020年度は、共同研究医療機関として、18の医療機関での倫理審査を経て、「AHT診断アルゴリズム作成のための医療情報調査およびAHTの司法連携調査」を実施した。15の医療機関より、調査票ならびに画像データを回収した。
2019年度に実施した「AHTに関する医師の意識調査」、2020年度から2021年度にかけて実施した「AHT診断アルゴリズム作成のための医療情報調査およびAHTの司法連携調査」をもとに、研究分担者・研究協力者で検討し、『AHT診断アルゴリズム(診断の手引き)』を作成した。『AHT診断アルゴリズム(診断の手引き)』は本研究にご協力をいただいた「臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針における5類型病院のほか、臨床研修病院、全国の児童相談所、警察庁、警視庁・道府県警察本部、最高検察庁・高等検察庁ならびに全国の地方検察庁等に配布した。
テーマ3A: COVID-19パンデミックの影響もあり、なかなか共同研究施設から症例が集まらない状況が続いていたが、2021年度の終盤で検体が4例集まって、計5例となった。現在、サイトカイン等ケミカルメディエーターやバイオマーカーの検索とメタボローム解析を行っている状況である。
テーマ3B: COVID-19パンデミックの影響もあり、症例は集まっていない。米国でも、COVID-19パンデミック下ではAHTの入院患者数が減少している。また、MRI撮影を行った症例でも、病状によっては、MRS検査を追加して実施することができない症例もあったと考えられる。
結論
性虐待やAHTの立証は困難を極めるが、本研究を通して、性虐待やAHTを立証するための方法論を確立に資するよう、『協同面接と系統的全身診察の手引き』および『AHT診断アルゴリズム(診断の手引き)』を策定した。

公開日・更新日

公開日
2023-04-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-04-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202101001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1) 研究成果
性虐待やAHT(虐待による乳幼児頭部外傷)のように体表外傷が生じにくく、被害児本人から被害内容の開示を得ることが難しい虐待の場合、その立証は困難を極める。そこで、虐待を立証するための方法論を確立して児童虐待防止対策に資するため、『協同面接と系統的全身診察の手引き』と『AHT診断アルゴリズム(診断の手引き)』を策定した。
(2) 研究成果の学術的・国際的・社会的意義
『協同面接と系統的全身診察の手引き』と『AHT診断アルゴリズム』を活用することにより、性虐待とAHTの立証に資する。
臨床的観点からの成果
(1) 研究成果
性虐待やAHTのように体表外傷が生じにくく、被害児本人から被害内容の開示を得ることが難しい虐待の場合、その立証は困難を極める。そこで、児童虐待防止対策に資することを目的として『協同面接と系統的全身診察の手引き』と『AHT診断アルゴリズム(診断の手引き)』を策定した。
(2) 研究成果の学術的・国際的・社会的意義
児童虐待に関わる医療機関・児童相談所・警察・検察等関係機関が『協同面接と系統的全身診察の手引き』と『AHT診断アルゴリズム』を活用することにより性虐待とAHTの立証に資する。
ガイドライン等の開発
令和4(2022)年3月1日付で『協同面接と系統的全身診察の手引き』と『AHT診断アルゴリズム』を策定し、全国の臨床研修病院等医療機関・児童相談所・警察・検察等関係機関に配布した。本研究終了後は、本研究を当初から支援してきた一般社団法人日本子ども虐待医学会(JaMSCAN)が両『手引き』を管理し、関係機関の要望に応じて追加配付を行って『手引き』の活用を推進している。
その他行政的観点からの成果
性虐待等児童が被害者となる犯罪に関しては、2015年10月28日以来、児童相談所・警察・検察の3機関による協同面接が運用されてきたが、系統的全身診察の必要性はあまり認識されてこなかった。『協同面接と系統的全身診察の手引き』によって、この課題の改善を期待できる。AHTに関しては複数の刑事裁判で無罪判決が出ているが、その要因として、画像等の医療情報が的確なタイミングで実施されていないという問題があった。『AHT診断アルゴリズム』が活用されることによって、この種の要因による証拠の不備を改善できる。
その他のインパクト
『協同面接と系統的全身診察の手引き』と『AHT診断アルゴリズム』はそれぞれ20ページ程度のコンパクトな手引きとなっているため、「日常的に活用しやすい」と好評を得ている。
また、犯罪立証の観点だけでなく、『協同面接と系統的全身診察の手引き』と『AHT診断アルゴリズム』によって、性虐待やAHTに関する診断学の信頼性と妥当性が向上することで、後れを取ってきた日本の子ども虐待医学分野における学術研究を世界水準に引き上げる効果を期待できる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
9件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
成果物であるAHT診断アルゴリズムについて、2022年7月22日に開催した日本子ども虐待医学会(JaMSCAN) AHT研究部 第9回シンポジウムで議論し、微修正を加えた。
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2022-06-21
更新日
2024-06-27

収支報告書

文献番号
202101001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,013,000円
(2)補助金確定額
5,013,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,053,966円
人件費・謝金 641,000円
旅費 43,700円
その他 2,118,334円
間接経費 1,156,000円
合計 5,013,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-03-01
更新日
-