文献情報
文献番号
200831012A
報告書区分
総括
研究課題名
B型及びC型肝炎ウイルスの感染による肝がん発症の病態解明とその予防・治療法の開発に関する研究
課題番号
H19-肝炎・一般-007
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
林 紀夫(大阪大学大学院 医学系研究科 消化器内科学)
研究分担者(所属機関)
- 松浦 善治(大阪大学微生物行研究所 ウイルス分野)
- 小池 和彦(東京大学 医学部 感染症内科)
- 上田 啓次(浜松医科大学 医学部 感染症学)
- 井戸 章雄(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 健康科学専攻人間環境学講座消化器疾患・生活習慣病学)
- 中本 安成(金沢大学医学部附属病院 消化器内科学)
- 廣石 和正(昭和大学 医学部 消化器内科学 )
- 竹原 徹郎(大阪大学大学院 医学系研究科 消化器内科学)
- 考藤 達哉(大阪大学大学院 医学系研究科 樹状細胞制御治療学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
50,892,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ウイルス性肝炎を基盤とした肝がんの発生とそれによる死亡の抑止を目標として、1)肝炎ウイルスによる発がん機構の解明とその制御法の開発、2)肝がんに特徴的な遺伝子発現の解明とその診断への応用、3)微視的な肝がんに対する免疫排除機構の障害の解明とその制御法の開発に焦点をしぼって研究を行う。
研究方法
HCVコア蛋白が生体に与える影響をコア発現細胞、コアTgマウスを用いて解析する。肝がんにおける免疫病態を解析するために慢性肝疾患・肝がん患者の試料を用いて制御性T細胞、NK細胞、CTLレスポンスの解析を行う。肝がんにおけるMICA切断の分子機構を培養細胞を用いて検討する。
結果と考察
HCVコア蛋白は肝脂肪化のマスター遺伝子のひとつであるSREBP-1cの転写活性を核内プロテアソーム系であるPA28γと結合することにより活性化することが明らかとなった。この活性化はコア70/91番のアミノ酸置換により低下したが、この現象はプロテアソーム活性とは独立した現象であった。また、コア蛋白はミトコンドリア上でシャペロンであるプロヒビチンと結合し、ミトコンドリア機能の障害、酸化ストレスの蓄積につながることが明らかとなった。コア蛋白は細胞質でのウイルスの形成だけではなく、ミトコンドリアや核に移行し、宿主由来の種々の蛋白と相互作用することにより、各種病態を形成することが明らかとなった。肝がんに対する生体の認識は腫瘍細胞上のMICAの発現に依存しており、同分子の膜からのsheddingはがんの免疫逃避機構の成立に関与している。ADAM10が肝がんにおけるMICA sheddaseとして機能していることを解明した。TAE治療に汎用されるepirubicinは肝がんにおけるADAM10の発現を抑制し、MICA sheddingを阻害した。肝がんの進展に伴い、MICA sheddingが亢進するとともに、制御性T細胞の頻度が上昇することを示した。また、肝がんに高発現するMRP3に対する特異的なT細胞応答も低下した。肝がんに対する治療介入はこのような免疫病態の悪化を改善した。
結論
本年度の研究により、HCVによる発がんの分子機序の一端が解明され、免疫抑制の細胞・分子レベルでの機序の理解が深まった。このような知見を肝発がんの抑制の標的として利用することを目的に次年度の研究を展開していく予定である。
公開日・更新日
公開日
2009-04-06
更新日
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