電算機的アプローチを活用したRNaseH活性を標的とするHIV-1複製阻害剤開発に関する研究(若手育成型)

文献情報

文献番号
200830020A
報告書区分
総括
研究課題名
電算機的アプローチを活用したRNaseH活性を標的とするHIV-1複製阻害剤開発に関する研究(若手育成型)
課題番号
H18-エイズ・若手-003
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
駒野 淳(国立感染症研究所 エイズ研究センター 第3室)
研究分担者(所属機関)
  • 星野 忠次(千葉大学 大学院薬学研究院 物理化学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
5,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エイズ患者/HIV-1感染者の救済は厚生労働省に求められる重要な緊急課題の一つである。近年、多剤併用化学療法に抵抗性を示す薬剤耐性ウイルスが世界的に蔓延の兆しを見せている。これに対し迅速に実現可能で有効な対応策の一つは新規抗HIV-1薬の開発である。本研究は電算機による小分子化合物とたんぱく質の結合シミュレーションを有効に活用し、ウイルスの持つ逆転写酵素に内在するRNase H活性を標的とするHIV-1複製阻害剤の開発に貢献することを目的とする。
研究方法
新規RNase H阻害剤としての化学構造を持つ有望なリード化合物5-nitro-furan-2-carboxylic acid adamantan-1-carbamoylmethyl ester (NAC)と5-nitro-furan-2-carboxylic acid [[4-(4-bromo-phenyl)-thiazol-2-yl]-(tetrahydro-furan-2-ylmethyl)-carbamoyl]-methyl ester (NBTC)について詳細な酵素阻害活性を実測し評価する。電算機的解析により酵素―阻害剤結合様式を決定し酵素活性阻害のメカニズムを解明する。
結果と考察
NAC/NBTCはHIV-1, MLVの逆転写酵素に内在するRNaseH活性を阻害し、そのIC50は5-30uMであった。E.coli RNaseHは阻害せず、NBTCのみがヒト由来RNase H1に対し約50uMで阻害活性を示した。インテグラーゼ阻害効果は検出されず、NAC/NBTCがレトロウイルスに特異的でRNase H活性を選択的に阻害することが判明した。分子間相互作用をよりRNase H活性阻害には活性中心の2つのマグネシウムイオンとヒスチジン残基に阻害剤が同時に結合する事が重要である事が示唆された。今後は誘導体NAC/NBTC等を核としてさらに特異的かつ強力なRNase H阻害剤の合成を進めたい。
結論
NACMEを基本骨格構造とするRNase H阻害剤リード化合物の同定に成功した。これは既存のRNase H阻害剤とは構造が事なる新規性に富む化学構造であり、次世代エイズ治療薬開発に大きな貢献が期待される。RNase H活性はHIV逆転写酵素阻害剤に対する耐性機構に関与している。本研究成果はこれを解決するための方法を開発するための学術的基盤を提供し、我が国のエイズ対策事業への貢献もあわせて期待される。

公開日・更新日

公開日
2009-05-18
更新日
-

文献情報

文献番号
200830020B
報告書区分
総合
研究課題名
電算機的アプローチを活用したRNaseH活性を標的とするHIV-1複製阻害剤開発に関する研究(若手育成型)
課題番号
H18-エイズ・若手-003
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
駒野 淳(国立感染症研究所 エイズ研究センター 第3室)
研究分担者(所属機関)
  • 星野 忠次(千葉大学 大学院薬学研究院 物理化学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エイズ患者/HIV-1感染者の救済は厚生労働省に求められる重要な緊急課題の一つである。近年、多剤併用化学療法に抵抗性を示す薬剤耐性ウイルスが世界的に蔓延の兆しを見せている。これに対し迅速に実現可能で有効な対応策の一つは新規抗HIV-1薬の開発である。本研究は電算機による小分子化合物とたんぱく質の結合シミュレーションを有効に活用し、ウイルスの持つ逆転写酵素に内在するRNase H活性を標的とするHIV-1複製阻害剤の開発に貢献することを目的とする。
研究方法
RNase H阻害剤としての化学構造を持つ有望なリード化合物をスクリーニングにて同定し、標的酵素の動物種特異性および阻害する酵素活性の選択性を評価する。また抗HIV活性を細胞培養レベルで検証する。電算機的解析によりRNase H阻害のメカニズムとRNase H阻害剤改良のためのデザインを提示する。
結果と考察
5-nitro-furan-2-carboxylic acid carbamoylmethyl ester (NACME)誘導体がRNase H阻害剤として新規の化学構造であり、レトロウイルス逆転写酵素に内在するRNase H活性に選択性が高いRNase H阻害剤で、細胞培養レベルで抗HIV活性を持つ有望な次世代エイズ薬リード化合物であることを証明した。電算機的解析により分子間相互作用をよりRNase H活性阻害には活性中心の2つのマグネシウムイオンとヒスチジン残基に阻害剤が同時に結合する事が薬効に重要である事が示唆された。今後は誘導体NAC/NBTC等を核としてさらに特異的かつ強力なRNase H阻害剤の合成を進めたい。
結論
3年間の研究期間でNACMEを基本骨格構造とするRNase H阻害剤リード化合物の同定に成功した。これは既存のRNase H阻害剤とは構造が異なる新規性に富む化学構造であり、次世代エイズ治療薬開発に大きな貢献が期待される。RNase H活性はHIV逆転写酵素阻害剤に対する耐性機構に関与している。本研究成果はこれを解決するための方法を開発するための学術的基盤を提供し、我が国のエイズ対策事業への貢献が期待される。

公開日・更新日

公開日
2009-05-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200830020C

成果

専門的・学術的観点からの成果
NACMEを基本骨格構造とするRNase H阻害剤リード化合物の同定に成功した。これは既存のRNase H阻害剤とは構造が異なる新規性に富む化学構造であり次世代エイズ治療薬開発に大きな貢献が期待できる。また現在頻用されるNRTIの耐性メカニズムを理解し、薬剤耐性HIV問題を解決するための学術的基盤を提供できる。
臨床的観点からの成果
RNase H阻害を作用機序に持つ次世代エイズ治療薬は現在のエイズ治療薬耐性ウイルスに対処するための新たな解決策を与える。今後RNase H阻害剤が実用化されたら長期にわたるHIV感染症の化学療法を可能にするための貢献度は高いと期待される。
ガイドライン等の開発
特記すべき事なし。
その他行政的観点からの成果
本研究事業で培った技術は、近い将来承認されるかもしれない大手企業が開発中のRNase H阻害に基づくエイズ治療薬の薬効評価と薬剤耐性ウイルス発生に関する解析に転用できるため迅速な行政対応に貢献できる。
その他のインパクト
米国化学学会の発行する英文国際誌Journal of Medicinal Chemistryに研究成果の一部を発表した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
54件
学会発表(国際学会等)
12件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
予定あり。
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Fuji H, Urano E, Futahashi Y, et al.
Derivatives of 5-nitro-furan-2-carboxylic acid carbamoylmethyl ester inhibit RNase H activity associated with HIV-1 reverse transcriptase.
Journal of Medicinal Chemistry  (2009)
原著論文2
Hamatake M, Aoki T, Futahashi Y, et al.
Ligand-independent higher-order multimerization of CXCR4, a G-protein-coupled chemokine receptor involved in the targeted metastasis.
Cancer Science  (2009)
原著論文3
Urano E, Kariya Y, Futahashi Y, et al.
Identification of the P-TEFb complex-interacting domain of Brd4 as an inhibitor of HIV-1 replication by functional cDNA library screening in MT-4 cells.
FEBS Letters , 582 (29) , 4053-4058  (2008)
原著論文4
Urano E, Aoki T, Futahashi Y, et al.
Substitution of the myristoylation signal of human immunodeficiency vius type 1 Pr55Gag with the phospholipase C delta 1 pleckstrin homology domain results in infectious pseudovirion production.
Journal of General Virology , 89 (12) , 3144-3149  (2008)
原著論文5
Urano E, Shimizu S, Futahashi Y, et al.
Cyclin K/CPR4 inhibits primate lentiviral replication by inactivating Tat/positive transcription elongation factor b-dependent long terminal repeat transcription.
AIDS , 22 (9) , 1081-1083  (2008)
原著論文6
Yoshida T, Kawano Y, Sato K, et al.
A CD63 mutant inhibits T-cell tropic human immunodeficiency virus type 1 entry by disrupting CXCR4 trafficking to the plasma membrane.
Traffic , 9 (4) , 540-558  (2008)
原著論文7
Shimizu S, Urano E, Futahashi Y, et al.
Inhibiting lentiviral replication by HEXIM1, a cellular negative regulator of the CDK9/cyclin T complex.
AIDS , 21 (5) , 575-582  (2007)
原著論文8
Kameoka M, Kitagawa Y, Utachee P, et al.
Identification of the suppressive factors for human immunodeficiency virus type-1 replication using the siRNA mini-library directed against host cellular genes.
Biochem Biophys Res Commun , 359 (3) , 729-734  (2007)
原著論文9
Futahashi Y, Komano J, Urano E, et al.
Separate elements are required for ligand-dependent and independent internalization of metastatic potentiator CXCR4.
Cancer Science , 98 (3) , 373-379  (2007)
原著論文10
Miyauchi K, Curran R, Matthews E, et al.
Mutations of conserved glycine residues within the membrane-spanning domain of human immunodeficiency virus type 1 gp41 can inhibit membrane fusion and incorporation of Env onto virions.
Jpn J Infect Dis , 59 (2) , 77-84  (2006)
原著論文11
Miyauchi K, Komano J, Myint L, et al.
Rapid propagation of low-fitness drug-resistant mutants of human immunodeficiency virus type 1 by a streptococcal metabolite sparsomycin.
Antivir Chem Chemother , 17 (4) , 167-174  (2006)
原著論文12
Fuji H, Suzuki M, Neya S, et al.
Development of Software Program Predicting the Binding Site and the Binding Mode of Ligands Against a Target Protein.
e-J. Surf. Sci. Nanotech , 6 , 241-245  (2008)
原著論文13
Hoshino T, Iwamoto K, Ode H, et al.
Accurate evaluation method of molecular binding affinity from fluctuation frequency.
Jpn J. Appl. Phys. , 47 , 3719-3725  (2008)
原著論文14
Ode H, Neya S, Hata M, et al.
Computational Simulations of HIV-1 Proteases -Multi-drug Resistance Due to Nonactive Site Mutation L90M.
J. Am. Chem. Soc. , 128 (24) , 7887-7895  (2006)
原著論文15
Ode H, Matsuyama S, Hata M, et al.
Computational Characterization of Structural Role of the Non- active Site Mutation M36I of Human Immunodeficiency Virus Type 1 Protease.
Journal of Molecular Biology , 37 , 598-607  (2007)
原著論文16
Ode H, Matsuyama S, Hata M, et al
Mechanism of Drug Resistance Due to N88S in CRF01_AE HIV-1 Protease Analyzed by Molecular Dynamics Simulations.
Journal of Medicinal Chemistry , 50 , 1768-1777  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-