免疫不全に伴う脳内潜伏トキソプラズマ原虫再活性化の事前予想と再活性化原発局所における宿主遺伝子発現レベルの網羅的解析

文献情報

文献番号
200830018A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫不全に伴う脳内潜伏トキソプラズマ原虫再活性化の事前予想と再活性化原発局所における宿主遺伝子発現レベルの網羅的解析
課題番号
H18-エイズ・若手-001
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
高島 康弘(岐阜大学 応用生物科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 和彦(日本大学 生物資源科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
2,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
トキソプラズマ脳炎をモデルとして「再活性化原発部位での遺伝子発現変化の網羅的解析」をおこない、本原虫の脳内再活性化の直接的な宿主側要因候補を見出すことで「潜伏した日和見感染症の再活性化時期の予想」「再活性化の阻止」という新しい対処法へ向けて有用な知見を提供することを当初の目的とした。本研究ではH18年度において新技術を確立し、本原虫の再活性化原発部位の同定をはじめて可能とした。この系を用いた実験によりH19年度には本原虫の潜伏様式について新たな考え方を提唱した。すなわち、spontaneousな活性化によってシストから脱出した虫体を宿主免疫系が速やかに排除することによる潜伏の維持という従来の考え方に変って、潜伏中の虫体に対する免疫反応が潜伏型虫体のステージ変換そのものを阻んでいるという解釈である。言い換えれば、潜伏中の原虫に対する免疫反応が宿主細胞の内部環境を「原虫の潜伏を維持できる状態」にしているということである。これを踏まえH20年には本原虫の潜伏を許す宿主細胞内中の環境を同定することを目的とする。
研究方法
PLK/DUAL株の解析:H19年度に作成したPLK/DUAL株(潜伏期に緑色、活性期に赤色蛍光を発する)を免疫染色し、蛍光色とステージ特異的分子(SAG1およびBAG1)の発現様式が一致していることを確認する。
宿主細胞P38αMAPKの関与:P38αMAPK欠損マウス胎児から樹立した繊維芽細胞(KOP)とそのリバータント(RKOP)にPLK/DUAL株を感染させ、細胞外からの潜伏誘導刺激がない状態で培養する。原虫の発する蛍光色を経時的に観察することで宿主細胞P38αMAPK情報伝達系の欠如が原虫のステージ転換に影響を及ぼすか否か調べる。
結果と考察
宿主細胞P38αMAPKの関与:PLK/DUAL株をP38αMAPK欠損株である KOP細胞に感染させたところ、外部からの潜伏誘導刺激をくわえなくても、感染後2-3日で緑色蛍光を発し始めた。このような現象はP38αMAPK遺伝子を導入したリバータント(RKOP)では見られなかった。
結論
 トキソプラズマ原虫の潜伏様式について、「潜伏を許す宿主細胞内の微小環境が存在する」という既存を提唱し、かつその微小環境をつかさどる分子としてP38αMAPKが候補としてあがった。これは基礎生物学的なものであるが長期的にはトキソプラズマ脳炎の制御にむけて重要な知見になるものであり、国際的・社会的に有意義な情報といえる。

公開日・更新日

公開日
2009-05-18
更新日
-

文献情報

文献番号
200830018B
報告書区分
総合
研究課題名
免疫不全に伴う脳内潜伏トキソプラズマ原虫再活性化の事前予想と再活性化原発局所における宿主遺伝子発現レベルの網羅的解析
課題番号
H18-エイズ・若手-001
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
高島 康弘(岐阜大学 応用生物科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 和彦(日本大学 生物資源科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在AIDS患者においては、末梢血CD4陽性細胞数が一定以下になった場合に日和見感染症のリスクが高いと判断されて予防的投薬が開始されている。しかしCD4陽性T細胞数は個々の日和見感染症病原体の活動レベルとは直接関係のない値である。日和見感染発症にいたる直接的な宿主側要因を同定しこれをモニターできるようになれば、ピンポイントに再活性化時期を予測することが可能となり、真にハイリスクな時期のみの短期間投薬が可能となろう。AIDSにともなう日和見感染症には、潜伏感染からの再活性化によって発症にいたるものが少なくない。本研究ではこのような発症メカニズムをとる病原体のひとつであるトキソプラズマ脳炎をモデルとして本原虫の脳内再活性化の直接的な宿主側要因候補を見出すことで「潜伏した日和見感染症の再活性化時期の予想」「再活性化の阻止」という新しい対処法へ向けて有用な知見を提供することを当初の目的とした。
研究方法
潜伏中は緑色、活動中は赤色の蛍光タンパクを発現する組換え原虫を開発し、これを培養細胞やマウスに感染させる。潜伏が維持されている箇所と再活性化に至る箇所を蛍光色で識別し、各々の局所で何が起こっているのか確認する。
結果と考察
潜伏中は緑色、活動中は赤色の蛍光タンパクを発現する組換え原虫を開発したことで、これまで不可能だった再活性化原発局所における脳組織破壊前に本原虫の活性化が同定できるようになった。また本原虫の潜伏は極めて安定であり、散発的な再活性化はほとんどないことが示唆された。さらに潜伏の維持に宿主細胞のP38αMAPKが関与していることが示唆された。
結論
トキソプラズマ原虫の潜伏様式について「潜伏を許す宿主細胞内の微小環境が存在する」という既存を提唱しかつその微小環境をつかさどる分子としてP38αMAPKの関与を証明した。この発見はすぐに臨床応用できるものではないが長期的にはトキソプラズマ脳炎の制御にむけて重要な知見である。

公開日・更新日

公開日
2009-05-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200830018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
実験動物の脳内における潜伏中の原虫の挙動を詳細に把握できるシステムを樹立し、これを用いることで、トキソプラズマ原虫の潜伏様式について「潜伏を許す宿主細胞内の微小環境が存在する」という既存を提唱できた。またその微小環境をつかさどる分子の候補があがった。
臨床的観点からの成果
トキソプラズマ原虫の潜伏様式についてより深い理解が可能となった。本研究課題は基礎研究でありすぐに臨床応用できるものではないが、長期的には抗原虫薬の投与期間を短縮することにつながる知見がえられたといえる。
ガイドライン等の開発
現時点でなし
その他行政的観点からの成果
現時点でなし
その他のインパクト
2008年3月5日、研究成果が中日新聞朝刊総合面で紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Unno A., Suzuki K., Batanova T. et al.
Visualization of Toxoplasma gondii stage conversion by expression of stage-specific dual fluorescent proteins.
Parasitology  (2009)
原著論文2
Unno A, Suzuki K., Xuan X. et al.
Dissemination of extracellular and intracellular Toxoplasma gondii tachyzoites in the blood flow.
Parasitol. Int.  (2008)
原著論文3
Ota H., Takashima Y., Matsumoto Y. et al.
Pretreatment of macrophages with the combination of IFN-gamma and IL-12 induces resistance to Leishmania major at the early phase of infection.
J. Vet. Med. Sci.  (2008)
原著論文4
Takashima Y., Suzuki K., Xuan X. et al.
Detection of the initial site of Toxoplasma gondii reactivation in brain tissue.
Int. J. Parasitol.  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-