アジア・太平洋地域におけるHIV・エイズの流行・対策状況と日本への波及に関する研究

文献情報

文献番号
200830015A
報告書区分
総括
研究課題名
アジア・太平洋地域におけるHIV・エイズの流行・対策状況と日本への波及に関する研究
課題番号
H18-エイズ・一般-016
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
武部 豊(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 駒野 淳(国立感染症研究所 エイズ研究センター )
  • 近藤 真規子(神奈川衛生研究所 微生物部)
  • 加藤 真吾(慶応大学 医学部)
  • 花房 秀次(荻窪病院 血液科)
  • 草川 茂(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 椎野 禎一郎(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 貞升 健志(東京都健康安全研究センター ウイルス学)
  • 小島 洋子(大阪府立公衆衛生研究所 ウイルス課)
  • 千々和 勝己(福岡県保健環境研究所 保健科学部)
  • 長井 忠則(北海道立衛生研究所 公衆衛生学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
23,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
分子疫学的アプローチによって、我が国を含むアジアにおけるHIV流行形成のメカニズムおよびそれに関連する諸要因の包括的な理解と、それら研究成果を踏まえたエイズ流行の予防制圧に向けた基礎研究の推進を目標とする。またこれら研究調査の成果を、我が国・アジアにおけるエイズ流行制圧に向けた研究・政策提言に繋げることを目標とする。
研究方法
従来の分子疫学的手法に加え、流行年代決定など最新のデータ解析技術を用いて、我が国を含むアジア地域のエイズ流行の分子疫学的解析を行った。
結果と考察
 全国の主要都市部では、男性同性愛者の間の感染の拡大が著しい。しかし、この傾向は全国的にみて一様でない。我が国におけるHIV感染症拡大の原点の一つと考えられる茨城県における解析を進め、その結果、長野県と同様、異性間性感染によるCRF01_AEが優位であり、MSM、サブタイプB優位の大都市圏とは際立った差異があることを明らかにした。
 我が国を含むアジア諸地域で、種々の新たな組換えウイルスが出現しているが、マレーシアにおいて、先に同定したCRF33_01Bに関連性をもつ新しいタイプのCRF (CRF46_01B)を同定した。
 最新のデータ解析技術を用いることによって東アジア地域におけるIDU間の流行に重要な役割をもつCRF07_BCとCRF08_BCおよびその母体であるインド型サブタイプCの伝播のタイムスケールをはじめて明らかにした。
我が国におけるHIV-1感染症の広がりの地域差を巡る問題は、これまでほとんど注目されてこなかった。非大都市圏には大都市圏とは異なる感染拡大の実態がある。流行動態と社会風土を考慮した地域ごとの戦略が求められる。また、これらの知見は、実効的な予防戦略立案のためには、我が国におけるHIV感染の拡大が決して一様でないことを考慮したよりきめ細かい検討・継続的モニタリングが必要であることを示唆する。
結論
最新のデータ解析技術を用いて、アジア型HIV-1流行株の諸地域への伝播のタイムスケールを明らかにした。マレーシアでの新型CRF (CRF46_01B)の同定など国内外で新たな組換えウイルスが新生している状況を見出した。また、我が国におけるHIV感染症の広がりは決して一様ではなく、長野県・茨城県のような地域では異性間性感染が主要なルートとなって東南アジアに起源をもつウイルスが広がっている実態を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2009-05-18
更新日
-

文献情報

文献番号
200830015B
報告書区分
総合
研究課題名
アジア・太平洋地域におけるHIV・エイズの流行・対策状況と日本への波及に関する研究
課題番号
H18-エイズ・一般-016
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
武部 豊(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 駒野 淳(国立感染症研究所 エイズ研究センター )
  • 花房 秀次(荻窪病院 血液科)
  • 草川 茂(国立感染症研究所 エイズ研究センター )
  • 椎野 禎一郎(国立感染症研究所 エイズ研究センター )
  • 近藤 真規子(神奈川衛生研究所 微生物部)
  • 加藤 真吾(慶応大学 医学部)
  • 貞升 健志(東京都健康安全)
  • 小島 洋子(大阪府立公衆衛生研究所 ウイルス課)
  • 千々和 勝己(福岡県保健環境研究所 保健科学部)
  • 長井 忠則(北海道立衛生研究所 公衆衛生学)
  • 斎藤 博(長野県立須坂病院 内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は,分子疫学的アプローチによって、我が国を含むアジアにおけるHIV流行形成のメカニズムおよびそれに関連する諸要因の包括的な理解と、それら研究成果を踏まえたエイズ流行の予防制圧に向けた基礎研究の推進を目標とする。またこれら研究調査の成果を、我が国・アジアにおけるエイズ流行制圧に向けた研究・政策提言に繋げることを目標とする。
研究方法
従来の分子疫学的手法に加え、流行年代決定など最新のデータ解析技術を用い、我が国を含むアジア諸地域でのエイズ流行の分子疫学的解析を国内外の共同研究者の協力のもとに行った。
結果と考察
長野県、茨城などの地域では、異性間性感染によるCRF01_AEが優位であり、MSM、サブタイプB優位の大都市圏とは際立った差異があること。我が国を含むアジアの諸地域で、新しいタイプの組換えウイルスが新生していることを見出した。偶然の機会から、はじめてのHIV-2感染日本人症例を見出した。また、最新のデータ解析技術を用いて、アジアにおけるHIV-1株の伝播の時間的経過をはじめて明らかにすると共に、中国低侵淫地域において、流行が異性間感染によってしだいに一般集団へと拡大しつつある状況を明らかにした。
 非大都市圏には大都市圏とは異なる感染拡大の実態があることがはじめて明らかにされた。都会と異なる流行動態を示している農村部では、都会型のキャンペーンをそのまま展開しても成功しないと考えられ、流行動態と社会風土を考慮した地域ごとの戦略が求められる。また、HIV-2日本人症例の同定に見られるように、一般検査に加えてのHIV検査勧奨による感染者捕捉の重要性が喚起される。最新のデータ解析技術がアジアでの流行形成メカニズムの理解を深化させる上で重要な手がかりを与えることが示された。
結論
1.我が国におけるHIV感染症拡大の背景を理解する
には、国外とりわけ近隣アジア諸国における動向を絶えず注視する必要がある。東アジアでのIDU流行の時間的・空間的伝播の様相や、国内外で新たな組換えウイルスが新生している状況が明らかにされた。
2.我が国におけるHIV感染症の広がりは決して一様
ではなく、地域によっては異性間性感染が主要なルートとなっていて、しかも東南アジアに起源をもつウイルスが広がっている実態がはじめて明らかにされた。これらの事実は、各地域の実情・発生動向に即したHIV対策の必要性を示すものである。

公開日・更新日

公開日
2009-05-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200830015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
我が国におけるHIV感染症の広がりは決して一様ではなく、東京・大阪など大都市圏では、欧米起源のサブタイプBによる男性同性愛者を中心とする感染拡大が主体であるのに対して、長野・茨城に代表される地域の中には異性間性感染が主要なルートとなっていて、しかも東南アジアに起源をもつウイルス (CRF01_AE) が広がっている実態をはじめて明らかにした。これらの知見は、各地域の実情・社会風土・流行動態に即したHIV対策の必要性を示すものであり、学術的・公衆衛生学的観点からみて、その意義は大きいと考えられる。
臨床的観点からの成果
大都市圏と長野・茨城に代表される地域を分けるもう一つの特徴が、後者でのいわゆる「いきなりエイズ」率の高さである。このことは、地域でのHIV感染者の捕捉が十分でなく、病期が進行してから医療機関を訪れる実態があることを示唆している。本研究班におけるHIV-2日本人症例の発見の経緯に示されるように、あらゆる機会、とりわけ医療/臨床現場において、一般検査の一環としてHIV検査を積極的に行うこと、またパートナー検査のより積極的な勧奨により、感染者の捕捉率を高める対策がとられる必要を喚起するものである。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
14件
学会発表(国内学会)
23件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計6件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tee, K. K., Li, X.-J., Takebe, Y. et al
Identification of a novel circulating recombinant form (CRF33_01B) disseminating widely among various risk populations in Kuala Lumpur, Malaysia.
J. AIDS , 43 (5) , 523-529  (2006)
原著論文2
Takebe, Y. and Telesnitsky, A.
Evidence for the acquisition of multidrug resistance by an HIV clinical isolate via human sequence transduction.
Virology , 351 , 1-6  (2006)
原著論文3
Shimizu, S., Takebe, Y., Komano, J. et al
Inhibiting lentiviral replication by HEXIM1, a cellular negative regulator of the CDK9/cyclin T complex.
AIDS , 21 , 575-582  (2006)
原著論文4
Han, X., Zhang, M., Takebe, Y., Shang, H. et al
Genotypic resistance mutations to antiretroviral drugs in treatment-naive HIV/AIDS patients living in Liaoning Province, China: baseline prevalence and subtype-specific difference.
AIDS Res Hum Retroviruses , 23 (3) , 357-364  (2007)
原著論文5
Utsumi, T., Uenishi, R., Kusagawa, S., Takebe, Y. et al
An HIV-2-infected Japanese man who was a long-term nonprogressor for 36 years.
AIDS , 21 (13) , 1834-1835  (2007)
原著論文6
Xiao-Jie, Huanan, Liao., Tee, Kok-Keng., Yutaka, Takebe et al
HIV/AIDS in Asia: The shape of epidemics and their molecular epidemiology.
Virologica Sinica , 22 (6) , 426-433  (2007)
原著論文7
Tee, K. K., Pybus, OG.,Li, X-J., Takebe, Y. et al
Chronology of the HIV-1 CRF07_BC expansion in Taiwan.
AIDS , 22 , 156-158  (2007)
原著論文8
Liu, P., Xiang, K., Takebe, Y., Yang, R.
Molecular epidemiology of human immunodeficiency virus type 1 and hepatitis C virus in former blood donors in central China.
AIDS Res Hum Retroviruses. , 24 (1) , 1-6  (2008)
原著論文9
Takebe, Y. Uenishi, R., and Li. X-J.
Global molecular epidemiology of HIV: Understanding the genesis of AIDS pandemic. “HIV-1: Molecular biology and pathogenesis”
Advances in Pharmacology , 56 , 1-25  (2008)
原著論文10
Xia, X., Lu, L., Tee, K. K., Takebe, Y. et al
The unique HCV genotype distribution and the discovery of a novel subtype 6u among IDUs co-infected with HIV-1 in Yunnan, China.
J. Med Virol. , 80 (7) , 1142-1152  (2008)
原著論文11
Tee KK., Pybus, OG., Li, XJ., Takebe, Y. et al
Temporal and spatial dynamics of human immunodeficiency virus type 1 circulationg recombinant forms 08 BC and 07 BC in Asia.
J Virol. , 82 (18) , 9206-9215  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-