NeuroAIDSの発症病態と治療法の開発を目指した長期フォローアップ体制の構築

文献情報

文献番号
200830008A
報告書区分
総括
研究課題名
NeuroAIDSの発症病態と治療法の開発を目指した長期フォローアップ体制の構築
課題番号
H18-エイズ・一般-009
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
中川 正法(京都府公立大学法人 京都府立医科大学 大学院・医学研究科 神経内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 出雲 周二(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 難治ウイルス病態制御研究センター 分子病理病態研究分野)
  • 岸田 修二(都立駒込病院 神経内科)
  • 白阪 琢磨(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター HIV/AIDS先端医療開発センター)
  • 古川 良尚(鹿児島大学病院輸血部)
  • 向井 栄一郎(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 神経内科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
3,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HAART導入によりHIV感染症は慢性感染症へと変貌したが,このことはエイズ脳症を含むHIV感染による神経合併症(以下,NeuroAIDS)の増加と臨床病態の変化を予測させる.本研究は,神経内科医,感染症科医,臨床心理士,神経病理医などとの学際的な協力のもとHIV感染者を長期フォローアップする体制の構築とNeuroAIDSの臨床的,病理学的解明を目指す.
研究方法
1)HIV感染者のフォローアップ体制の構築:都立駒込病院,大阪医療センター,名古屋医療センター,鹿児島大学病院において、HIV感染者の早期フォローアップを継続する.2)各施設のNeuroAIDSに関する検討会を行う.3)NeuroAIDS関連死亡例,サルエイズモデルの分子病理学的解析を行う.
結果と考察
今年度は、本研究班で作成したプロトコールによるHIV感染者の神経内科的フォローアップを継続した。古川班員、近藤研究協力者らは、脳血流SPECT上相対的な血流低下がみられること、HAARTにより認知機能改善がみられた症例があることを報告した。白坂班員はPML10症例の検討を行い、HIV感染者の頭部MRI、脳血流シンチ、髄液中ウイルス検査の重要性を指摘した。向井班員は、HIV感染関連脳原発リンパ腫(PCNSL)と進行性多巣性白質脳症(PML)を検討し、PCNSLはHAARTと放射線照射の併用が有効であること、PMLはHAARTにより長期生存可能な例もあることを報告した。岸田班員は、HAART中でも脳症が発症すること、不完全なウイルス抑制は脳症を発症する危険性があり、ウイルスモニター、認知機能の観察、薬剤選択の重要性を指摘した。白阪班員、向井班員、新宅研究協力者より、HHV6 脳脊髄炎剖検例、AIDS関連びまん性B大細胞型リンパ腫例、進行性多巣性白質脳症例が報告された。出雲班員らは、サルエイズモデルとヒトHIV脳症の神経病理学的検討を行い、アクアポリン4(AQP4)とEAAT-2の発現パターンがよく一致しており、AQP4もエイズ脳症に関与している可能性を指摘した。第22回日本エイズ学会でNeuroAIDSに関するシンポジウムを行った。
結論
今年度は、HIV感染者の長期フォローアップの経年変化に関する若干の知見とサルエイズモデルに関する知見を得た。その結果、HAART開始前後の高次脳機能の評価が重要であり、NeuroAIDS早期発見により社会的損失をある程度防ぐことが可能であること、AQP4がアストロサイト機能の指標となる可能性が示唆された。NeuroAIDSに関する継続的な研究が必要である。

公開日・更新日

公開日
2009-05-18
更新日
-

文献情報

文献番号
200830008B
報告書区分
総合
研究課題名
NeuroAIDSの発症病態と治療法の開発を目指した長期フォローアップ体制の構築
課題番号
H18-エイズ・一般-009
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
中川 正法(京都府公立大学法人 京都府立医科大学 大学院・医学研究科 神経内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 出雲 周二(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科・難治ウイルス病態制御研究センター 分子病理病態研究分野)
  • 岸田 修二(都立駒込病院 神経内科)
  • 白阪 琢磨(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター HIV/AIDS先端医療開発センター)
  • 古川 良尚(鹿児島大学病院輸血部)
  • 向井 榮一郎(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 神経内科)
  • 鈴木 直人(同志社大学文学部心理学科)
  • 船田 信顕(都立駒込病院病理科)
  • 藤田 直久(京都府立医科大学大学院 臨床検査医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、神経内科医、感染症科医、神経病理医などとの学際的な協力のもとNeuroAIDS早期発見の観点からHIV感染者を神経内科的に長期フォローアップする体制の構築と分子病理学的解明を目指すものである。
研究方法
平成18年度は、5施設にて神経内科医、免疫内科医、臨床心理士との協力体制を構築し、高次脳機能検査を含むHIV感染者の長期フォローアッププロトコールを作成した。AIDS関連死亡例について症例検討を行った。平成19年度は、HIV感染者の高次脳機能検査、MRI検査等を含むフォローアッププロトコールの実用性の検証、受診環境の整備等を行った。また、NeuroAIDS関連死亡例について分子病理学的検討を行った。最終年度は,作成したプロトコールに基づいてHIV感染者の神経内科的フォローアップを継続した.2008年11月の第22回日本エイズ学会でNeuroAIDSに関するシンポジウムを行った.
結果と考察
古川班員,近藤研究協力者らは,HIV感染者では初期より,脳血流シンチ上相対的な血流低下がみられること,HAART開始後に認知機能の軽度改善がみられた症例があることを報告した.白坂班員らはPML10症例の検討を行い,HIV感染者の頭部MRI,脳血流SPECT,髄液中ウイルス検査を積極的に行うことの重要性を指摘した.向井班員らは,HIV感染症に合併した脳原発リンパ腫(PCNSL)と進行性多巣性白質脳症(PML)の臨床的,神経病理学的特徴を検討し,PCNSLはHAARTと放射線照射の併用が有効であること,PMLはHAARTにより免疫不全からの回復を果たした症例では長期生存可能であることを報告した.岸田班員は,HAART中でも脳症が発症すること,HAARTで延命しても不完全なウイルス抑制は脳症を発症する危険性があり,ウイルスモニター,HAART治療中患者の認知機能の観察,薬剤選択の重要性を指摘した.AIDS関連死亡例の検討では,白阪班員,向井班員,新宅研究協力者より剖検例の神経病理学的報告が行われた.出雲班員らは,サルエイズモデルの神経病理学的検討を行い,アクアポリン4(AQP4)の発現低下のパターンがEAAT-2の染色低下とよく一致しており,AQP4とエイズ脳症の関連を指摘した.
結論
長期フォローアップ体制の構築により、NeuroAIDSの発現の前向き調査、分子病理学的解析による発症機序の解明に貢献したと考える.

公開日・更新日

公開日
2009-05-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200830008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HAART中でも脳症が発症すること、不完全なウイルス抑制は脳症を発症する危険性があり、ウイルスモニター、認知機能の観察、薬剤選択などが今後の主要な課題であると考える。サルエイズモデル研究では、アクアポリン4(AQP4)の発現低下のパターンがEAAT-2の染色低下ときわめてよく一致しており,AQP4もエイズ脳症の発症病態に関与している可能性を指摘した.
臨床的観点からの成果
本研究で、HIV感染の初期より脳血流低下が見られること、われわれが作成した高次脳機能評価バッテリーが有用であることが示唆された。HAART中でも脳症が発症すること,HAARTで延命しても不完全なウイルス抑制は脳症を発症する危険性があり,末梢でのウイルスモニター,HAART治療中患者の認知機能の観察,薬剤選択を考慮する必要があることを指摘した.
ガイドライン等の開発
研究班が作成したHIV感染者を神経内科的に長期間フォローアップするための高次脳機能検査,MRI検査等を含むフォローアッププロトコールは研究報告書として関連施設に配付した.3年間の研究で明らかになったNeuroAIDS関連死亡例についても研究報告書としてまとめた.
その他行政的観点からの成果
HAART開始前後の高次脳機能の評価が重要であり、NeuroAIDS早期発見により社会的損失をある程度防ぐことが可能であることが示唆された。
その他のインパクト
2008年11月の第22回日本エイズ学会でNeuroAIDSに関するシンポジウムを行った.

発表件数

原著論文(和文)
16件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
42件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
報告書の作成と配付

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Xing HQ, Hayakawa H, Izumo K, et al.
In vivo expression of proinflammatory cytokines in HIV encephalitis: an analysis of 11 autopsy cases.
Neuropathology  (2009)
原著論文2
Xing HQ, Moritoyo T, Mori K, et al.
Expression of proinflammatory cytokines and its relationship with virus infection in the brain of macaques inoculated with macrophage-tropic simian immunodeficiency virus.
Neuropathology , 29 (1) , 13-19  (2009)
原著論文3
Xing HQ, Mori K, Sugimoto C, et al.
Impaired astrocytes and diffuse activation of microglia in the cerebral cortex in simian immunodeficiency virus-infected Macaques without simian immunodeficiency virus encephalitis.
J Neuropathol Exp Neurol , 67 (6) , 600-611  (2008)
原著論文4
Xing HQ, Hayakawa H, Gelpi E, et al.
Reduced expression of excitatory amino acid transporter 2 and diffuse microglial activation in the cerebral cortex in acquired immunodeficiency syndrome cases with or without human immuno- deficiency virus encephalitis.
J Neuropathol Exp Neurol , 68 (2) , 199-209  (2009)
原著論文5
中川正法,出雲周二,岸田修二.
わが国におけるNeuroAIDSの現状と今後の課題
Neuroimmunology , 15 (2) , 203-207  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
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