血友病の治療とその合併症の克服に関する研究

文献情報

文献番号
200830002A
報告書区分
総括
研究課題名
血友病の治療とその合併症の克服に関する研究
課題番号
H18-エイズ・一般-003
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
坂田 洋一(自治医科大学 医学部分子病態治療研究センター分子病態研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 小澤 敬也(自治医科大学 医学部分子病態治療研究センター遺伝子治療研究部)
  • 嶋 緑倫(奈良県立医科大学小児科学教室)
  • 小林 英司(自治医科大学 医学部分子病態治療研究センター臓器置換研究部)
  • 長谷川 護(ディナベック株式会社)
  • 天野 景裕(東京医科大学臨床検査医学講座)
  • 小田原 隆(東京大学医科学研究所附属病院感染免疫内科)
  • 瀧 正志(聖マリアナ医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
51,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血友病遺伝子治療臨床研究開始に向けた技術の確立と、安全性向上を求めた基礎研究、そして、血友病インヒビター対策、さらに、患者視点アンケートの解析を目的とした。
研究方法
アデノ随伴ウイルス(AAV)既感染により生じ、ベクター導入阻害因子となる中和抗体の測定法を改善した。抗体価に応じて、効率よくサルに血友病遺伝子を導入する方法の確立を目指した。九州大学眼科で遺伝子治療に利用予定の日本版サルレンチウイルス(SIV)ベクターを用いた血小板での血友病因子発現の安全性担保に向けたインシュレータ(INS)を検討した。インヒビター研究では、血友病Aマウスを用いた寛容誘導研究を展開した。調査研究は、アンケートの自由記載欄の解析を進めた。動物実験、臨床研究、疫学研究は文科省・厚労省の倫理指針、そして各施設の規約に従って施行した。
結果と考察
培養細胞へAAVベクター(AAVV)を感染させる際に糖類を培地に適量加えることで、中和抗体測定感度が著しく改善された。抗体陽性サルに、血液に接触せず、門脈から肝臓に凝固第IX因子(FIX)遺伝子搭載したAAVVを導入し、3頭に10-20%のFIX持続発現が得られた。抗体陰性サルでは末梢からのAAVV投与で同様の発現が得られた。副作用も見られていない。ヒト投与可能AAVV生産受託企業の目安も立った。臨床研究開始可能レベルに達したと考えている。安全性を高めたSIVベクターの安全性をさらに担保するINSとして,プロモータに利用するβ2GPI遺伝子特異的INSを探索し、候補領域を得た。探索研究として,血友病Aクローン豚の作製は最終段階に入り、相同組み換えによる遺伝子修復、血管内皮前駆細胞の利用などにも一定の成果が得られた。胸腺内凝固第VIII因子製剤投与により寛容誘導されたマウスのCD4+CD25+T細胞が、インヒビタ-産生を特異的に抑制することが明らかになった。ヒトITIモデルも血友病マウスで作製出来た。これらは、今後の解析と治療に資するところ大である。自由記載欄の解析は困難であったが、血友病への偏見や、医療費助成、生活不安、インヒビターなどのキーワードが確認された。
結論
血友病遺伝子治療はヒト投与可能AAVV準備が整えば、臨床研究開始可能な技術は確立した。インヒビタ-解析と治療に関して一定の成果が得られた。アンケート調査では、QOL改善のための得難い情報が集積した。

公開日・更新日

公開日
2009-05-18
更新日
-

文献情報

文献番号
200830002B
報告書区分
総合
研究課題名
血友病の治療とその合併症の克服に関する研究
課題番号
H18-エイズ・一般-003
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
坂田 洋一(自治医科大学 医学部分子病態治療研究センター分子病態研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 小澤 敬也(自治医科大学 医学部分子病態治療研究センター遺伝子治療研究部)
  • 吉岡 章(奈良県立医科大学)
  • 嶋 緑倫(奈良県立医科大学 小児科学教室)
  • 小林 英司(自治医科大学 医学部分子病態治療研究センター臓器置換研究部)
  • 長谷川 護(ディナベック株式会社)
  • 天野 景裕(東京医科大学臨床検査医学講座)
  • 小田原 隆(東京大学医科学研究所附属病院感染免疫内科)
  • 瀧 正志(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血友病遺伝子治療技術確立と、血友病インヒビター(INH)対策、そして、患者視点アンケート解析を目的とした。
研究方法
体内臓器直接遺伝子導入は、アデノ随伴ウイルスベクター(AAVV)を、体外で自己幹細胞に遺伝子導入し、移植する場合には日本版サルレンチウイルスベクター(SIVV)を用いた。マウスで臓器特異的AAVV血清型とプロモータを選択し、サルで確認した。サルでは血友病は存在しない。相同性の極めて高い発現ヒト血友病因子同定法の開発、AAV既感染による中和抗体の問題等の解決を図った。血液幹細胞遺伝子導入では、血小板特異的発現を検討した。SIVVの安全性担保にインシュレータ(INS)検索も進めた。INH研究では、血友病Aマウスを用いた寛容誘導研究を、調査研究は、患者視点アンケート解析を進めた。動物実験、臨床研究、疫学研究は文科省・厚労省の倫理指針、そして各施設の規約に従って施行した。
結果と考察
マウスで検討結果、骨格筋へは、AAV1V、肝臓にはAAV8Vを選び、それぞれに特異的プロモータを選択した。サルでは、サルとヒト凝固第IX因子(FIX)識別可能モノクロナル抗体を作製し、FIX発現実験を先行した。抗AAV中和抗体が微量でも遺伝子導入を阻害することを明らかにし、その測定法感度を改善した。抗体陽性サルに、血液に接触せず、門脈から肝臓にFIX遺伝子搭載AAVVを導入し、3頭に10-20%のFIX持続発現が得られた。ヒト投与可能AAVV生産受託企業の目安も立った。臨床研究開始可能レベルに達したと考える。SIVVを用いて血液幹細胞にFVIII,或いはFVIIa遺伝子を導入し、血小板に発現させると、INH存在血友病マウスでも止血効果が得られた。安全性を担保する特異的INSを探索し、候補領域を得た。胸腺内FVIII製剤投与による寛容誘導機序を明らかにし、臨床応用可能性も示した。ヒトITIモデルも血友病マウスで作製出来た。これらは、今後の解析と治療に資するところ大である。アンケートより、関節内出血がQOLに影響することや、血友病への偏見、医療費助成、生活不安、INHなどのキーワードが確認された。
結論
血友病遺伝子治療はヒト投与可能AAVV準備が整えば、臨床研究開始可能な技術は確立した。INH解析と治療に関して一定の成果が得られた。アンケート調査では、QOL改善のための情報が集積した。

公開日・更新日

公開日
2009-05-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2009-12-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200830002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
マウスで確立したアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた血友病遺伝子治療技術をサルに応用し、AAV中和抗体を持つ個体でも遺伝子導入と因子発現可能な技術を確立した。自己血液幹細胞に体外で血友病遺伝子導入後、移植し、血小板に発現させると中和抗体が存在しても止血効果が得られた。血友病Aマウスの 生下時に経静脈的、あるいは直接胸腺内へ第VIII因子製剤を投与することで誘導される免疫寛容の機序を明らかにした。患者視点アンケートの作成、解析が進み、QOL向上のための情報が得られた。
臨床的観点からの成果
サルで、AAVベクターを利用した遺伝子治療技術をほぼ確立し、ヒト投与可能AAVベクター生産依頼の目安もついた。著明な感度upに成功した血清中AAV中和抗体測定法を用いて、ベクター投与法選択が可能になり、臨床研究開始が近づいた。生下時因子製剤投与による免疫寛容誘導が胸腺内投与法により有効期間が4日間延びた。長期製剤投与による成熟マウス免疫寛容誘導モデルも作製できた。 ITIメカニズムの解析とITI法の改善が期待できる。調査研究の解析により、 関節内出血がQOLを左右することが明らかになった。
ガイドライン等の開発
血友病遺伝子治療臨床研究開始が近づきつつある。患者遺伝子解析や患者血中AAV中和抗体レベルに基づく遺伝子治療患者選択などのガイドラインが必要になると思われる。
その他行政的観点からの成果
遺伝子治療は成功すれば高価な因子製剤使用量を減らすことで、経済効果を生む。また、女性血友病キャリアの方々の精神的ストレスを多少とも軽減しうると思われる。インヒビター産生は、製剤がいかに改良されても残りうる問題である。免疫寛容誘導法のメカニズムを明らかにし、改良できれば、一人に時に1億円以上かかることもあるインヒビター治療には福音となる
その他のインパクト
主任研究者坂田が宇都宮で2006年に開催した第29回日本血栓止血学会学術集会に、血友病患者を招待し、血友病関連の発表セッションなどに参加していただいた。また、3年度目の当該研究班班会議には血友病患者代表の方にも参加していただき、忌憚ないご意見と希望を頂戴した。「血液凝固異常症のQOLに関する研究」のホームページ(http://www.b-qol.com/)を立ち上げ、調査報告書および関連サイトについて公開した。

発表件数

原著論文(和文)
35件
原著論文(英文等)
90件
その他論文(和文)
72件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
252件
学会発表(国際学会等)
54件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計8件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ohmori T, Mimuro J, Sakata Y, et al.
Efficient expression of a transgene in platelets using simian immunodeficiency virus-based vector harboring glycoprotein Ib-alpha promoter: in vivo model for platelet-targeting gene therapy.
FASEB J , 20 (9) , 1522-1524  (2006)
原著論文2
Ishiwata A, Mimuro J, Sakata Y,et al.
Phenotype correction of hemophilia A mice with adeno-associated virus vectors carrying the B domain-deleted canine factor VIII gene.
Thromb Res , 118 (5) , 627-635  (2006)
原著論文3
Mizukami H, Sakata Y, Ozawa K, et al.
Adipose tissue as a novel target for in vivo gene transfer by adeno-associated viral vectors.
Hum Gene Ther , 17 (9) , 921-928  (2006)
原著論文4
Urabe M, Xin KQ, Ozawa K, et al.
Removal of empty capsids from type 1 adeno-associated virus vector stocks by anion-exchange chromatography potentiates transgene expression.
Mol Ther , 13 (4) , 823-828  (2006)
原著論文5
Ogura T, Mizukami H, Ozawa K, et al.
Utility of intraperitoneal administration as a route of AAV serotype 5 vector-mediated neonatal gene transfer.
J Gene Med , 8 (8) , 990-997  (2006)
原著論文6
内田泰斗、天野景裕、福武勝幸 他
血友病A患者に認められた第Ⅷ因子A1ドメイン内のミスセンス変異Asp116Asnの分子病態.
東京医科大学雑誌 , 64 (4) , 380-387  (2006)
原著論文7
Ohmori T, Sakata Y.
Platelet-directed gene therapy.
Transfus Med Hemoth , 34 (6) , 429-439  (2007)
原著論文8
Ohmori T, Kashiwakura Y, Sakata Y, et al.
Silencing of a targeted protein in in vivo platelets using a lentiviral vector delivering short hairpin RNA sequence.
Arterioscler Thromb Vasc Biol , 27 (10) , 2266-2272  (2007)
原著論文9
Ito T, Okada T, Ozawa K, et al.
Adenoassociated virus-mediated prostacyclin synthase expression prevents pulmonary arterial hypertension in rats.
Hypertension , 50 (3) , 531-536  (2007)
原著論文10
Takeyama M, Kasuda S, Yoshioka A, et al.
Factor VIII-mediated global hemostasis in the absence of von Willebrand factor.
Int J Hematol , 85 (5) , 397-402  (2007)
原著論文11
高 明志、天野景裕、福武勝幸 他
血友病Bを引き起こす4種の新しいミスセンス変異
日本血栓止血学会誌 , 18 (2) , 166-174  (2007)
原著論文12
Hosoya N, Miura T, Odawara T, et al.
Comparison between Sendai virus and Adenovirus vectors to transduce HIV-1 genes into human dendritic cells.
J Med Virol , 80 (3) , 373-382  (2008)
原著論文13
瀧 正志、大平 勝美、小島 賢一 他
「血液凝固異常症のQOLに関する研究」
平成19年度調査報告書(厚生労働省エイズ対策研究事業 血友病の治療とその合併症の克服に関する研究班(主任研究者 坂田洋一)分担研究.(血液凝固異常症QOL調査運営委員会発行)  (2008)
原著論文14
Ohmori T, Hasegawa M, Sakata Y, et al.
Phenotypic correction of hemophilia A by ectopic expression of activated factor VII in platelets.
Mol Ther , 16 (8) , 1359-1365  (2008)
原著論文15
Tatsumi K, Ohashi K, Shima M, et al.
Therapeutic effects of hepatocyte transplantation on hemophilia B.
Transplantation , 86 (1) , 167-170  (2008)
原著論文16
Tatsumi K, Ohashi K, Shima M, et al.
Reference gene selection for real-time RT-PCR in regenerating mouse livers.
Biochem Biophys Res Commun , 374 (1) , 106-110  (2008)
原著論文17
Kasuda S, Kubo A, Shima M, et al.
Establishment of embryonic stem cells secreting human factor VIII for cell-based treatment of hemophilia A.
Thromb Haemost , 6 (8) , 1352-1359  (2008)
原著論文18
Tatsumi K, Ohashi K, Shima M, et al.
Successful in vivo propagation of factor IX-producing hepatocytes in mice: potential for cell-based therapy in haemophilia B.
Thromb Haemost , 99 (5) , 883-891  (2008)
原著論文19
瀧 正志、大平 勝美、小島 賢一 他
「血液凝固異常症のQOLに関する研究」
平成20年度調査報告書(厚生労働省エイズ対策研究事業 血友病の治療とその合併症の克服に関する研究班(研究代表者 坂田洋一)分担研究.(血液凝固異常症QOL調査運営委員会発行)  (2009)
原著論文20
Madoiwa S, Kobayashi E, Sakata Y,et al.
Induction of factor VIII-specific unresponsiveness by intrathymic factor VIII injection in murine hemophilia A.
J Thromb Haemost  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-