ヒト腫瘍の発生と増悪に関わる分子病態の解析

文献情報

文献番号
199700510A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト腫瘍の発生と増悪に関わる分子病態の解析
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 利忠(愛知県がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 瀬戸加大(愛知県がんセンター研究所)
  • 高橋隆(愛知県がんセンター研究所)
  • 神奈木玲児(愛知県がんセンター研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト腫瘍の分子病態の研究は近年急速に進み、造血器腫瘍では転座関連遺伝子が、また、固型がんでは、がん遺伝子、がん抑制遺伝子が既に多く単離されてはいるが、現時点で未知の重要遺伝子の存在も予想されている。また、転移・浸潤に関する研究も進み、接着分子を含む多くの要因の関与が想定されているが、その制御に関する研究は、緒のついた所である。本研究では、ヒト腫瘍の診断・治療の向上を目指し、(a) 造血器腫瘍では (1)MLL等転座関連遺伝子のキメラ遺伝子としての腫瘍発生に於ける役割、及び (2)MALT型リンパ腫に見られる18q21染色体転座に関連する遺伝子の単離、(b) 肺がんでは (3)染色体17p領域に想定されるp53以外のがん抑制遺伝子の単離、及び(4)最近樹立したヒト末梢肺上皮細胞株を用いての腺がん発生機序の解析、(c) 浸潤・転移では (5)セレクチンと糖鎖リガンドの発現に関与する転写調節機構の解析、及び(6)糖鎖接着系に連動するインテグリン系接着に関わるサイトカイン、インテグリンの分子種の同定、を試みる。
研究方法
(1) 11q23に位置するMLL転座関連遺伝子の腫瘍発生における役割:MLLの転座相手遺伝子であるAF6(6q27)は細胞質に存在するRAS結合蛋白をコードしており、他のMLL転座相手遺伝子と性質が異なる。MLLキメラ遺伝子の機能を解析するために、MLL-AF6発現ベクターと特異抗体を用いて、白血病細胞におけるキメラ蛋白の細胞内局在について検討する。(2) MALTリンパ腫にみられる18q21転座に関連する遺伝子の単離:MALTリンパ腫に高頻度に認められるt(11;18)転座切断点を解析する第一歩とし、18q21領域に異常を有するBリンパ腫細胞株Karpas1106Pを対象にし、18q21-18q21.3領域に位置するYACクローンを用いてFISH解析を行い、切断点領域を含むクローンの同定を試みる。 (3) 肺がん症例における17p共通欠失領域の同定:肺がん症例の正常及び腫瘍組織より抽出したDNAと、17p上にマップされた 9個のマイクロサテライトマーカーを用いて、ヘテロ接合性喪失(LOH)に関する解析を行い、共通欠失領域の同定を行う。 (4) 正常末梢肺上皮細胞株の樹立とそれを用いた遺伝子異常の細胞生物学的な役割の解析:ヒト末梢肺の初代培養細胞にSV40 large T遺伝子を導入することによって、正常末梢肺上皮細胞の樹立を目指す。これまでに肺がんにおいて検出された遺伝子異常を組み込んだ発現コンストラクトを導入し、その形質の変化を検討する。(5) セレクチンと糖鎖リガンドの発現調節機構の解析:各種糖転移酵素遺伝子の発現を種々のがんで検索する。更にこれら遺伝子の5'調節領域を単離し、転写調節機構の検索を行う。(6) がん細胞と血管内皮細胞との接着機構の研究:腫瘍細胞の血行性転移及びリンパ節浸潤の機構を解明するため、in vitroの単層細胞接着実験系及びWoodruff-Stamperアッセイ系を用い、接着分子特異抗体による接着阻止実験を行う。判明した諸分子を患者検体を用いて検索し、in vivoでのこれらの分子の関与を評価する。
結果と考察
(1) 11q23に位置するMLL転座関連遺伝子の白血病発症における役割:MLL産物は核に、AF6産物は細胞質に局在したが、両者のキメラ蛋白であるMLL-AF6産物はMLL産物と同様に核に局在した。即ち、転座相手遺伝子が細胞質蛋白をコードしていても、MLLキメラ蛋白は他の相手転座遺伝子との産物と同様に核に局在する事が示され、正常MLLをドミナント・ネガティブに阻害する可能性が示唆された。また、キメラ遺伝子が形成される際、相手転座遺伝子と融合する領域であるMLL遺伝子のN端側を更に4つの領域に分けて検討することにより、核局在を規定するのは
AT hook領域であることを示した。(2) MALTリンパ腫にみられるt(11;18)転座に関連する遺伝子の単離・解析:YACクローンを入手し、der(18)t(X;13;18)(q28;q21;q21)並びにder(X)t(X;13;18)(q28;q21;q21)を有するKarpas 1106Pリンパ腫株の18q21領域を対象にFISH解析を行った。18q21.1領域でtrisomyからmonosomyに変化することを示し、更に本切断点を含むYACクローンを同定した。本結果により、18q21.3領域に存在するBCL2遺伝子を標的とした転座ではなく、新しい切断点であることが示唆された。(3)肺がん症例における17p共通欠失領域の同定: 17p13領域のマイクロサテライトマーカーのうち少なくともその1つにLOHを認めた症例は、小細胞がんでは93%と高率であり、全体で65%であった。17p13.3に位置するD17S5がもっとも高頻度の欠失を示し、17p13.1に位置するp53領域の欠失よりもむしろ高頻度であった。17p13.3領域に限局した欠失を示した症例を詳細に検討した結果、D17S5を含むD17S379とD17S695間の領域が共通欠失領域であることを明らかとした。(4) 正常末梢肺上皮細胞株の樹立とそれを用いた遺伝子異常の細胞生物学的な役割の解析:SV40 large T遺伝子を導入することにより樹立し得た細胞株は末梢肺上皮細胞(クララ細胞)のマーカーであるCC10のmRNA発現及び2型肺胞上皮細胞に特徴的な構造を示した。また、TGF-βによる増殖抑制やストレスファイバーの形成及びファイブロネクチンの産生の増加等を示し、正常上皮細胞の形質を備えていることが明らかとなった。c-myc遺伝子を導入したところ、予想に反し、血清濃度に関わらずコロニー数の有意な減少が観察された。(5) セレクチンのリガンドであるシアリルLex、シアリルLeaの合成調節機構の研究:成人T細胞性白血病の組織浸潤に関与するシアリルLexの合成は、?型フコース転座酵素Fuc-T?が、主要部分を担っている。HTLV-1ウイルスのp40tax蛋白質によるFuc-T?の著明な転写促進を観察し、次いで、染色体遺伝子の5'調整領域の解析を行い、転写因子Taxは主にCRE/ATF関連配列を介して転写活性化をひき起こしていることを示した。本研究により、Tax蛋白の発がん、糖鎖発現、浸潤、という一連の現象が分子レベルで明らかとなった。(6) がん細胞と血管内皮細胞との接着機構の研究: がん細胞はセレクチンを介して血管内皮細胞と接着し、次いでに内皮細胞が産生するHGF等のサイトカインによってインテグリンが活性化される。患者血中のHGFの測定を行った所、陽性率は食道がん患者等で高く、また遠隔転移例で有意に上昇を認めた。この他、リンパ節高内皮静脈(HEV)に発現するL-セレクチン・リガンド糖鎖が6-硫酸化シアリルLexであること、また、Fuc-T ?が血管形成に重要な役割を演じていることを示した。
結論
本研究では、(a)造血器腫瘍と(b)肺がんにおける遺伝子異常のがん発生に於ける役割、並びに(c)がん浸潤・転移に於ける細胞接着分子の役割を明らかにするため研究を進めている。本年度の主たる成果は以下の様である。 (a) (1) MLL遺伝子の相手転座遺伝子の 1つであるAF6は細胞質に存在するRAS結合蛋白をコードしいるが、MLLとのキメラ産物は核に局在しており、ドミナント・ネガティプに機能し、白血病発症に関与している可能性を示唆した。(2) MALT型B細胞リンパ腫に見られる18q21転座の標的遺伝子の単離を目指し、本領域に異常を持つリンパ腫株で解析を試みており、切断点を含むYACクローンを既に同定している。(b) (3) 17p13領域の欠失地図作成を行い、肺がん症例にはp53領域とは異なる共通欠失領域(17p13.3)が存在することを示し、未知の標的がん抑制遺伝子の存在を示唆した。(4) 世界に先駆けて樹立に成功した不死化末梢肺上皮細胞株はTGF-β添加による増殖抑制等の正常細胞形質を示し、悪性形質の獲得機序の解析に有用であることが示唆された。(c) (5) 成人T細胞性白血病のシアリルLex糖鎖の発現には?型フコース転移酵素が関与しており、HTLV-IウイルスのTax因子が本酵素遺伝子の転写活性を促進することを示した。(6) インテグリンを活性化するサイトカインHGFの濃度を測定した結果、食道がん等の患者血清中で上
昇していることを示し、 更に遠隔転移例では高値を示す症例が多いことを示した。

公開日・更新日

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