インフルエンザ脳症の発症因子の解明とそれに基づく発症前診断方法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200829005A
報告書区分
総括
研究課題名
インフルエンザ脳症の発症因子の解明とそれに基づく発症前診断方法の確立に関する研究
課題番号
H18-新興・一般-006
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
森島 恒雄(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 祐輔(東京大学医科学研究所)
  • 岡部 信彦(国立感染症研究所)
  • 田代  眞人(国立感染症研究所)
  • 横田  俊平(横浜市立大学医学部)
  • 山口 清次(島根大学医学部)
  • 布井 博幸(宮崎大学医学部)
  • 水口 雅(東京大学大学院医学系研究科)
  • 市山 高志(山口大学大学院医学研究科)
  • 田中 輝幸(東京大学大学院医学系研究科)
  • 宮崎 千明(福岡市立西部療育センター)
  • 長谷川 秀樹(国立感染症研究所)
  • 浅井 清文(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 伊藤 嘉規(名古屋大学医学部附属病院)
  • 丸山 秀彦(岡山大学医学部・歯学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
40,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
インフルエンザ脳症は、無治療では致死率が約30%、神経後遺症は約25%となるなど、予後不良の疾患である。本症の病態の解明・発症因子、および予防方法の確立は、重要な課題である。また、本研究で解明する病態を基に考えられる重症インフルエンザの治療は、「新型インフルエンザ」の治療にも応用しうる可能性がある。
研究方法
1.インフルエンザ脳症における先天代謝異常の関与について、タンデムマスによるスクリーニングを実施した。2.けいれん重責型急性脳症の病態について患児の血清・髄液中の炎症性サイトカイン、ケモカイン、MMP-9を測定した。3.遺伝子多型解析では、全ゲノム領域を対象とした一塩基多型(SNP)解析により検討を加えた。4.NSAIDsによる脳症の予後悪化について培養アストロサイトに対するIL-1β、TNF-α、IFN-γの影響およびジクロフェナクNaの影響を調べた。5.インフルエンザ脳症ガイドラインについて、外部評価委員会を組織し、ガイドラインの改訂を実施した。
結果と考察
1.先天代謝異常は2.9%、疑い例は9.6%であった。2.けいれん重責型急性脳症では、血清と髄液でサイトカインプロフィールが異なり、脳内の炎症反応は弱いことが示唆された。3. SNPs解析に日本人小児インフルエンザ脳症患者と日本人一般集団を対象とし、約55万SNPsによる関連分析を実施した。最も関連の強いSNPはオッズ比=3.65、p=4.7×10*7を示した。4.ジクロフェナクNaは、炎症性サイトカインの存在下で、NOxの産生が促進されることを示した。5.現在、インフルエンザ脳症ガイドラインの改訂中であり、原案を報告書にまとめた。
結論
1.インフルエンザ脳症における発症因子としての代謝異常の存在が明らかになった(2.9%)。2.インフルエンザ脳症の中で、けいれん重積型は脳の炎症反応は弱いことが明らかとなり、本臨床型でのステロイドパルス療法の効果が良くないことと一致していた。3.インフルエンザ脳症の発症因子の解析が進んだ。今後、症例を増やし、解析を続けていく。4.本症における予後悪化因子としてのNSAIDsの神経障害機序が明らかになった。5.新たなエビデンスを含めてインフルエンザ脳症ガイドラインを改訂中である。

公開日・更新日

公開日
2010-01-12
更新日
-

文献情報

文献番号
200829005B
報告書区分
総合
研究課題名
インフルエンザ脳症の発症因子の解明とそれに基づく発症前診断方法の確立に関する研究
課題番号
H18-新興・一般-006
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
森島 恒雄(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 祐輔(東京大学 医科学研究所)
  • 岡部 信彦(国立感染症研究所)
  • 田代 眞人(国立感染症研究所)
  • 横田 俊平(横浜市立大学 医学部)
  • 山口 清次(島根大学 医学部)
  • 布井 博幸(宮崎大学 医学部)
  • 水口 雅(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 市山 高志(山口大学 大学院医学研究科)
  • 田中 輝幸(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 宮崎 千明(福岡市立西部療育センター)
  • 浅井 清文(名古屋市立大学 大学院医学研究科)
  • 長谷川 秀樹(国立感染症研究所)
  • 伊藤 嘉規(名古屋大学 医学部附属病院)
  • 丸山 秀彦(岡山大学 医学部・歯学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
インフルエンザ脳症は、毎年100-500例の発症があり予後不良の疾患である。本研究の目的は、インフルエンザ脳症の病態の解明および宿主側発症因子を明らかにし、それを通じて新たな治療法の確立および発症予防方法の確立を目指すことである。また、新たなエビデンスに基づく本症の診療ガイドラインの改訂を目指した。
研究方法
1.インフルエンザ脳症発症因子の解明のためにSNPsの解析を行った。2.神経障害メカニズムの解明のためMMP-9の神経障害機序をマウスで検討した。3.NSAIDsがインフルエンザ脳症の予後に悪化機序についてin vitro(アストロサイトに対する炎症性サイトカインおよびNSAIDsの影響)で検討した。4.平成17年11月インフルエンザ脳症ガイドラインについて、新たに明らかになったエビデンスも含め、ガイドラインの改訂作業を実施した。5.インフルエンザ脳症の疫学について各シーズンごとの変動について調べた。
結果と考察
1.アミノ酸関連酵素のプロモーター領域に変異が認められるSNPが明らかになりつつあるが、最終結果を得るためにはさらに症例数を増やし解析する必要がある。2.MMP-9はサイトカインの中で、特にTNF-αにより発現が増強し、脳血液関門や神経細胞障害に関与することが示された。3.ジクロフェナクNaは、炎症性サイトカイン存在下でアストロサイトでのNFκ-Bの発現を増強した。このメカニズムは、NSAIDsによるインフルエンザ脳症悪化の機序をよく説明している。4.ガイドラインの改訂にあたり、特にけいれん重責型がステロイドパルス療法に対して治療効果が低いことなどが明らかとなった。
結論
インフルエンザ脳症の発症因子の解析と病態の解明が進んだ。特にTNF-αを中心としたサイトカインとMMP-9など各因子の相互作用が明らかとなった。MMP-9発現増強を促すTNF-αの作用は、全身よりも脳内で早期に認められ、神経障害から発症するインフルエンザ脳症の病状をよく反映していた。NSAIDsによる神経障害機序がin vitroでも明らかにされた。一方、インフルエンザ脳症の病型の中にサイトカインストームを起こさない病態(けいれん重責型や代謝異常症など)の存在も明らかになり、病型により異なる治療法の必要性が示唆された。以上のエビデンスを基に、現在インフルエンザ脳症ガイドラインの改訂を進めている。

公開日・更新日

公開日
2010-01-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200829005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
インフルエンザの重篤な合併症であるインフルエンザ脳症について、疫学・臨床像・病態・治療法・発症因子の解明・ガイドラインの改訂について総合的な検討を行う研究班は無く、これらについて重要な知見が得られた。すなわち、本症の発症因子の解明が進み、炎症性サイトカインによる脳障害のメカニズム(MMP-9の関与など)などが明らかになった。
臨床的観点からの成果
インフルエンザ脳症予後悪化におけるNSAIDsの作用機序を解明することができた。また、インフルエンザ脳症の中にサイトカインストームを起こさない臨床型(けいれん重責型、先天性代謝異常症など)が存在することが明らかになり、新たな治療法を検討することとなった。
ガイドライン等の開発
平成17年の厚生労働省研究班によるガイドラインは今、全国で用いられている。その結果、致死率が30%から8%へと低下し、予後が大幅に改善された。しかし、さらに予後を改善するためには新しい知見を含めたガイドラインの改訂が必要と考えられ、現在、新しい知見を含めて改訂作業を進めている。その後、2009年インフルエンザ脳症ガイドラインが改訂されることとなった。
その他行政的観点からの成果
インフルエンザ脳症におけるNSAIDsの予後悪化について本研究の中で、その機序を明らかにすることができた。従来、臨床データから危険性が明らかになり行政施策に反映されたが、その詳細なメカニズムは不明であった。今回の研究成果はそのメカニズムを示したが、この結果は従来の施策をサポートするものであった。
その他のインパクト
インフルエンザ脳症の現状および対策については、多くのメディアに取り上げられた。NSAIDsが炎症性サイトカインの存在下で、脳細胞を障害する機序がメディア(新聞)で注目を集めた。

発表件数

原著論文(和文)
14件
原著論文(英文等)
29件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
30件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamanouchi H,et al.
Acute infantile encephalopathy predominantly affecting the frontal lobes(AIEF) A nobel clinical category and its tentative diagnostic criteria
Epilepsy Research , 70 , 263-268  (2006)
原著論文2
Kobayashi H,et al.
ESI-MS/MS study of acylcarnitine profiles in urine from patients with organic acidemias and fatty acid oxidation disorders
J Chromat B , 855 , 80-87  (2007)
原著論文3
Kobayashi H,et al.
A retrospective ESI-MS/MS analysis of newborn blood spots from 18 symptomatic patients with organic acid and fatty acid oxidation disorders diagnosed ininfancy or in childfood
J InheritedMet Dis , 30 , 606-  (2007)
原著論文4
Mizuguchi M,et al.
Acute encephalopathy associated with influenza and other viral infections
Acta Neurol Scand , 115 , 45-46  (2007)
原著論文5
Ichiyama T,et al.
Cysteinyl leukotrienes enhance TNF-α-induced matrix metalloproteinase-9 in human monocytes/macrophages
Clin Exp Allergy , 37 , 608-614  (2007)
原著論文6
Ichiyama Y,et al.
Matrix metalloproteinase-9 and tissue inhibitors of metalloproteinases 1 in influenza-associated encephalopathy
Pediatr Infect Dis J , 26 , 542-544  (2007)
原著論文7
Ichiyama T,et al.
Serum and CSF levels of cytokines in acute encephalopathy following prolonged febrile seizures
Brain Dev , 30 , 47-52  (2008)
原著論文8
Suenaga N,et al.
Roles of matrix metalloproteinase-9 and tissue inhibitors of metalloproteinases 1 in acute encephalopathy following prolonged febrile seizures
J Neurol Sci , 266 , 126-130  (2008)
原著論文9
Yamanouchi H,et al.
Acute infantile encephalopathy predominantly affecting the frontal lobes
Pediatric Neurology , 34 (2) , 93-100  (2006)
原著論文10
Nagao T,et al.
Prognostic factors in influenza-associated encephalopathy
Pediatr Infect Dis J , 27 , 384-389  (2008)
原著論文11
Ichiyama T,et al.
Cerebrospinal Fluid levels of cytokines in non-herpetic acute limbic encephalitis comparison with herpes simplex encephalitis
Cytokine , 44 , 149-153  (2008)
原著論文12
Ichinohe T,et al.
Protection against influenza virus infection by intranasal vaccine with Surfclam Powder as amucosal adjuvant
J Med Virol , 78 , 954-963  (2006)
原著論文13
Kakita H,et al.
Diclofenac enhances proinflammatory cytokine-induced nitric oxide production through NF-κB signaling in cultured astrocytes
Toxicology and Applied Pharmacology  (2009)
原著論文14
Hasegawa H,et al.
Deveropment of a mucosal vaccine for inflienza viruses preparation for a potential influenza pandemic
Expert Review of Vaccines , 6 (2) , 193-201  (2007)

公開日・更新日

公開日
2016-05-26
更新日
2016-06-27