再生医学的アプローチによる難治性中耳炎からの完全治癒戦略と臨床応用

文献情報

文献番号
200828019A
報告書区分
総括
研究課題名
再生医学的アプローチによる難治性中耳炎からの完全治癒戦略と臨床応用
課題番号
H20-感覚器・一般-006
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
金丸 眞一(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
研究分担者(所属機関)
  • 平海 晴一(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 )
  • 中村 達雄(京都大学大学院再生医科学研究所臓器再建医学)
  • 平野 滋(京都大学医学部医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
  • 田村 芳寛(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
17,540,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人工蜂巣骨の移植治療による慢性中耳炎の根本的治療法の開発ならびに組織工学的手法による鼓膜再生医療の開発
研究方法
1.チンチラ乳突腔の削開部位に人工乳突蜂巣(アテロコラーゲン被覆β‐TCP)移植。術前、術後3か月、6か月でのCT撮影により乳突蜂巣骨の構造再生の確認と6か月後の組織学的検討による安全性の評価
2.治性慢性中耳炎の患者15名に自家小骨片移植による乳突蜂巣再生を施行。術後10か月にCT撮影。乳突蜂巣骨の構造再生の確認が確認できた5名に対して第2段階手術時に笑気ガスによる中耳圧の変化をマノメーターで測定し、ガス交換能の再生の評価を行った。また、正常コントロールとして顔面神経減荷術(3名)、人工内耳埋め込み術(2名)の患者と比較した。
3.31名の鼓膜穿孔を有する患者で、鼓膜穿孔縁の上皮を全周性に除去し、bFGF浸潤ゼラチンスポンジ塊を鼓膜穿孔部位を十分覆うように留置しフィブリン糊で固定。3週後に鼓膜再生を評した。


結果と考察
1.術後3か月で移植蜂巣骨周辺に軟部組織陰影が一部残存。6か月ではこれらは消失し蜂巣構造の再生が確認できた。組織学的には移植蜂巣骨と周囲の組織とに同化が認められ、同素材の移植による有害事象は観察されなかった。以上のことから、コラーゲン被覆β-TCPの安全性に問題はなく、β-TCPを被覆したコラーゲンが鼓室ないし乳突腔の正常粘膜細胞を誘導するのに十分な効果を発揮しているものと考えられた。
2.難治性中耳炎患者15名中12名で乳突蜂巣再生が確認され、笑気ガススタディを施行した5名全員のガス交換機能の再生も確認できた。ただ、再生したガス交換能は、正常コントロールと比較して、笑気導入後の中耳圧の上昇速度および最大値などで比較しても、1/3?1/2程度であったことは、術式の改が良などの必要性があると考えられる。
3.閉鎖率は100%で処置回数は最大4回までですべて閉鎖し、目立った有害事象はなかった。成功の要因は、良好な再生環境の創設にあると考えられた。
結論
1.コラーゲン被覆β-TCPは人工蜂巣骨として安全かつ有効である。
2.自家小骨片移植による乳突蜂巣再生を試み、蜂巣構造のみならず中耳ガス交換機能の再生も可能であった。
3.組織工学的鼓膜閉鎖療法は、従来の手術療法に代わる新しい治療になりうる。

公開日・更新日

公開日
2009-10-13
更新日
-