角膜内皮機能不全に対する新しい治療方法の開発

文献情報

文献番号
200828006A
報告書区分
総括
研究課題名
角膜内皮機能不全に対する新しい治療方法の開発
課題番号
H18-感覚器・一般-006
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
山田 昌和(独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター 視覚研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 東城 博雅(大阪大学大学院医学系研究科生化学分子生物学生命機能研究科細胞ネットワーク)
  • 東 範行(国立成育医療センター)
  • 大橋 裕一(愛媛大学医学系研究科医学専攻高次機能制御部門・感覚機能医学講座視機能外科学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 角膜内皮機能不全は角膜疾患のなかで最も失明に至る頻度が高く,角膜移植を待機する患者の過半数を占める疾患である。本研究は角膜内皮機能不全に対する新しい治療法として,薬物療法と培養角膜内皮細胞移植による手術治療の開発を行うことを目的とした。
研究方法
 主任研究者の山田は、角膜内皮機能不全の薬物療法の開発を目的とした研究を行い、角膜内皮細胞のポンプ機能の担い手であるNa-K ATPaseの活性が、デキサメサゾン、インスリンによってどのように制御されているかを検討した。分担研究者の東はヒト角膜内皮細胞の培養技術の確立に関する研究を行った。分担研究者の東城は、角膜内皮細胞の機能や増殖の制御に関与する脂質バイオマーカーを網羅的に解析するための高速液体クロマトグラフィー/質量分析システムの開発を行い、角膜内皮機能やシグナル伝達機能を調節するガングリオシドの分析を行った。分担研究者の大橋は角膜内皮機能不全の主要原因の1つであるレーザー虹彩切開術に起因する水疱性角膜症の発症要因について培養角膜内皮細胞を用いた検討を行った。
結果と考察
 角膜内皮のNa-K ATPaseはデキサメサゾンとインスリンにより活性化された。ステロイドによるNa-K ATPase活性化は酵素蛋白合成によるNa-K ATPaseの発現量増加を介すると考えられた。これに対してインスリンによる角膜内皮のNa-K ATPase活性化はPKCを介し、Na-K ATPaseのαサブユニットの脱リン酸化によることが示された。インスリンの作用はcyclooxygenase阻害剤のindomethacinを添加することにより増強された。以上より、Na-K ATPaseの活性制御には異なる複数の経路が存在していると考えられ、これらの薬剤の組み合わせによって、水疱性角膜症を薬物で治療できる可能性があると考えられた。また、網膜芽細胞腫の患児より得られたヒト角膜内皮細胞に、組換えレトロウィルスを用い、不死化遺伝子 HPV16 E6E7、hTERT、cdk4、cyclinD1を単独あるいは種々の組み合わせで導入し、ヒト角膜内皮細胞株を作製することができた。
結論
 角膜内皮機能不全の新しい治療法として考えられる2つの方法、薬物療法と培養角膜内皮細胞移植による手術治療の基礎を作ることができた。臨床応用にはどちらもまだ多くの問題点、検討すべき点が残されているが、角膜内皮機能不全症例のうち,軽症例は薬物療法による機能維持を目指し,重症例は自己または同種の培養角膜内皮細胞移植による手術によって治療することを将来的に実現させたいと考えている。

公開日・更新日

公開日
2009-04-28
更新日
-

文献情報

文献番号
200828006B
報告書区分
総合
研究課題名
角膜内皮機能不全に対する新しい治療方法の開発
課題番号
H18-感覚器・一般-006
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
山田 昌和(独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター 視覚研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 東城 博雅(大阪大学大学院 医学系研究科生化学分子生物学生命機能研究科細胞ネットワーク)
  • 東 範行(国立成育医療センター 眼科)
  • 大橋 裕一(愛媛大学医学系研究科医学専攻高次機能制御部門・感覚機能医学講座視機能外科学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 角膜内皮機能不全は角膜疾患のなかで最も失明に至る頻度が高く,角膜移植を待機する患者の過半数を占める疾患である。本研究は角膜内皮機能不全に対する新しい治療法として,薬物療法と培養角膜内皮細胞移植による手術治療の開発を行うことを目的とした。
研究方法
 角膜内皮機能不全の薬物療法の開発を目的とした研究では、角膜内皮細胞のポンプ機能の担い手であるNa-K ATPaseの活性に影響を及ぼす薬剤のスクリーニング、作用機序の検討を行った。培養角膜移植による手術治療については、ヒト角膜内皮細胞の培養技術の確立に関する研究を行った。
結果と考察
 デキサメサゾンとインスリンが角膜内皮細胞のNa-K ATPase活性を亢進させることを見いだした。ステロイドによるNa-K ATPase活性化は酵素蛋白合成による発現量増加を介すると考えられた。インスリンによる角膜内皮のNa-K ATPase活性化はPKCを介し、Na-K ATPaseのαサブユニットの脱リン酸化によることが示された。インスリンの作用はcyclooxygenase阻害剤のインドメサシンを添加することにより増強された。以上より、Na-K ATPaseの活性制御には異なる複数の経路が存在しており、デキサメサゾンとインスリン、インドメサシンの組み合わせによって水疱性角膜症を薬物で治療できる可能性があると考えられた。
 培養角膜移植に関しては、網膜芽細胞腫の患児より得られたヒト角膜内皮細胞に組換えレトロウィルスを用い、不死化遺伝子 HPV16 E6E7、hTERT、cdk4、cyclinD1を単独あるいは種々の組み合わせで導入し、ヒト角膜内皮細胞株を作製した。このヒト角膜内皮細胞株は角膜内皮としての性質、機能を保持していることから、今後の角膜内皮研究や培養角膜移植の細胞源になる可能性があると考えられた。
結論
 これらの研究によって、角膜内皮機能不全の新しい治療法として考えられる2つの方法、薬物療法と培養角膜内皮細胞移植による手術治療の基礎を作ることができた。

公開日・更新日

公開日
2009-04-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200828006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 角膜内皮機能不全の新しい治療法として考えられる2つの方法、薬物療法と培養角膜内皮細胞移植による手術治療について検討した。薬物療法としてデキサメサゾン、インスリン、インドメサシンの3種類の薬剤の組み合わせによって角膜内皮機能を異なる機序で活性化できることを示した。培養角膜内皮移植に関しては、ヒト角膜内皮細胞に組換えレトロウィルスを用い、不死化遺伝子を導入してヒト角膜内皮細胞株を作製した。ヒト角膜内皮細胞株を樹立できたことは今後の基礎研究や臨床応用に向けて重要な細胞源となると考えられた。
臨床的観点からの成果
 角膜内皮機能不全の新しい治療法として考えられる2つの方法、薬物療法と培養角膜内皮細胞移植による手術治療の基礎を作ることができた。臨床応用にはどちらも問題点、検討すべき点が残されているが、今後も検討を続け、角膜内皮機能不全症例のうち,軽症例は薬物療法による機能維持を目指し,重症例は自己または同種の培養角膜内皮細胞移植による手術によって治療することを実現させたいと考えている。
ガイドライン等の開発
 特になし。
その他行政的観点からの成果
 角膜内皮機能不全は角膜疾患のなかで最も失明に至る頻度が高く,角膜移植を待機する患者の過半数を占める疾患である。角膜移植の待機期間は本邦で平均2年であり、角膜ドナーに頼らない新しい治療法が開発されれば、社会的・医学的価値は非常に高いと考えられる。
その他のインパクト
 特になし。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
21件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
43件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hatou S, Yamada M, Mochizuki M, et al.
Role of protein kinase C in regulation of Na+- and K+-Dependent ATPase activity and pump function in corneal endothelial cells.
Jpn J Ophthalmol (in press)  (2009)
原著論文2
Hatou S, Yamada M, Mochizuki M, et al.
The effects of dexamethasone on the Na,K-ATPase activity and pump function of corneal endothelial cells
Curr Eye Res (in press)  (2009)
原著論文3
Yamada M, Hatou S, Yoshida J.
In Vitro Susceptibilities of Bacterial Isolates from Conjunctival Flora to Gatifloxacin, Levofloxacin, Tosufloxacin, and Moxifloxacin.
Eye Contact Lens , 34 , 109-112  (2008)
原著論文4
Yamada M, Yoshida J, Hatou S, et al.
Mutations in the quinolone resistance determining region in Staphylococcus epidermidis recovered from conjunctiva and their association with susceptibility to various fluoroquinolones.
Br J Ophthalmol , 92 , 848-851  (2008)
原著論文5
Yamada M, Hatou S, Mochizuki H.
Conjunctival Fixation Sutures for Refractory Superior Limbic Keratoconjunctivitis.
Br J Ophthalmol (online first)  (2008)
原著論文6
Mochizuki H, Yamada M, Hatou S, et al.
Fluorophotometric Measurement of the Precorneal Residence Time of Topically Applied Hyaluronic Acid.
Br J Ophthalmol , 92 , 108-111  (2008)
原著論文7
Mochizuki H, Yamada M, Hatou S, et al.
Deposition of Lipid, Protein, and Secretory Phospholipase A2 on Hydrophilic Contact Lenses.
Eye Contact Lens , 34 , 46-49  (2008)
原著論文8
羽藤晋、山田昌和
角膜内皮機能不全の治療.
医療 , 62 , 451-457  (2008)
原著論文9
山上聡, 新家眞, 天野史郎, 他
眼の感染と免疫 拒絶反応のない理想的な角膜移植手術を目指して 全層角膜移植から内皮細胞移植へ.
日眼会誌 , 112 , 266-278  (2008)
原著論文10
山田昌和.
眼科領域の臨床疫学、効用研究.
医療 , 62 , 695-700  (2008)
原著論文11
Tatematsu-Ogawa Y, Yamada M, Kawashima M, et al.
The Disease Burden of Keratoconus in Patients’ Lives: Comparisons to a Japanese Normative Sample.
Eye Contact Lens , 34 , 13-16  (2008)
原著論文12
Joko T, Nanba D, Shiba F, et al.
Effects of promyelocytic leukemia zinc finger protein on the proliferation of cultured human corneal endothelial cells.
Mol Vis , 13 , 649-658  (2007)
原著論文13
Shiraishi A, Joko T, Higashiyama S, et al.
Role of Promyelocytic Leukemia Zinc Finger Protein in Proliferation of Cultured Human Corneal Endothelial Cells.
Cornea , 26 , 55-58  (2007)
原著論文14
Yamada M, Mochizuki H, Kawashima M, et al.
Phospholipids and Their Degrading Enzyme in Tears of Soft Contact Lens Wearers.
Cornea , 25 , 68-72  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-