文献情報
文献番号
199700504A
報告書区分
総括
研究課題名
非A非B型肝炎の病原体の検索・同定・病態把握法の確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 宏(山梨医科大学)
研究分担者(所属機関)
- 吉澤浩司(広島大学医学部衛生学)
- 飯野四郎(聖マリアンナ医科大学内科・臨床検査医学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 疾病対策研究分野 非A非B型肝炎研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
85,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
わが国の慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌の20%はB型肝炎に起因するものであるが、残りの70%以上がC型肝炎に起因することが明らかにされている。また、正常人のなかにも約1~1.5%のC型肝炎ウイルス(HCV)持続感染者(キャリア)が存在することが認められ、とくに40才以上では約4%と高率である。肝炎の慢性化、肝硬変への進展、さらには肝硬変の合併には肝炎ウイルスの持続感染が重要な役割を占めていることが明らかにされているが、その機序についてはまだ不明の点が多く残されている。献血者に対するHCV抗体によるスクリーニングの導入により、輸血後肝炎の発生頻度は0.1%以下となり、また、感染予防対策の実施により新規感染者も激減している。したがって予防ワクチンの必要性はわが国では減少しているといえる。一方、C型慢性肝炎の約30%はインターフェロン(IFN)治療により完全寛解する成績が得られているが、無効例が半数以上に認められ、その対策が重要な課題となっており、その観点から治療ワクチンの必要性も考慮されている。
基礎的研究ではHCワクチンの開発を目的として、HCVの構造と機能について検討を行なうとともに肝炎発症の機序についても検討を行なう。臨床的研究ではC型肝炎のわが国の実態を検討し、感染経路を明らかにするとともに、HCVキャリアの自然経過についても検討を行なう。さらに、C型慢性肝炎のIFN治療について、無効例への対策を検討するとともに、肝細胞癌発生抑制効果について検討し、より良い治療法の確立を目的とする。
GBV-C/HGVについては全塩基配列が確立し、3つの亜型の存在することを認めているが、わが国の実態を明らかにするとともに、臨床的意義を明らかにする。さらに、新しい肝炎ウイルスの発見についても研究を進める。
基礎的研究ではHCワクチンの開発を目的として、HCVの構造と機能について検討を行なうとともに肝炎発症の機序についても検討を行なう。臨床的研究ではC型肝炎のわが国の実態を検討し、感染経路を明らかにするとともに、HCVキャリアの自然経過についても検討を行なう。さらに、C型慢性肝炎のIFN治療について、無効例への対策を検討するとともに、肝細胞癌発生抑制効果について検討し、より良い治療法の確立を目的とする。
GBV-C/HGVについては全塩基配列が確立し、3つの亜型の存在することを認めているが、わが国の実態を明らかにするとともに、臨床的意義を明らかにする。さらに、新しい肝炎ウイルスの発見についても研究を進める。
研究方法
病態研究班(班長・鈴木宏)、分子疫学研究班(班長・吉澤浩司)、臨床研究班(班長・飯野四郎)の3つの分科会に分れて研究を行なった。
病態研究班では、1. HCVの構造と機能を明らかにする目的で、遺伝子工学的手法を用いて、E2、NS5AおよびNS5B領域について検討した。2. HCVの液性抗体および細胞性免疫について、 HVRI蛋白の交差反応抗体およびT細胞応答エピトープについて検討するとともに、3. HCVの肝炎発症機序をHLAハロタイプ、TAP2遺伝子、およびIgMHBc抗体の面から検討した。4. 新しい肝炎ウイルスの発見のために非A-C型輸血後肝炎血清を用いて検討した。
分子疫学研究班では、1.健常献血者集団を対象として、HCVの新規発生率を算出した。
2. HCVキャリアの追跡調査により、肝発癌率を算出した。3. HCV抗原陽性母親からの出生児を対象として、母児感染率を算出した。4. HCV持続感染と肝外病変を痒疹および角化症の面から検討した。
臨床研究班では、1. IFN治療例の長期予後をアンケート調査により行なった。2. IFN効果の予測因子について検討するとともに難治例への対策を検討した。3. G型肝炎の臨床的意義とくにE2抗体の意義について検討した。4. TTVの非A-G型肝疾患における感染率を検討した。
病態研究班では、1. HCVの構造と機能を明らかにする目的で、遺伝子工学的手法を用いて、E2、NS5AおよびNS5B領域について検討した。2. HCVの液性抗体および細胞性免疫について、 HVRI蛋白の交差反応抗体およびT細胞応答エピトープについて検討するとともに、3. HCVの肝炎発症機序をHLAハロタイプ、TAP2遺伝子、およびIgMHBc抗体の面から検討した。4. 新しい肝炎ウイルスの発見のために非A-C型輸血後肝炎血清を用いて検討した。
分子疫学研究班では、1.健常献血者集団を対象として、HCVの新規発生率を算出した。
2. HCVキャリアの追跡調査により、肝発癌率を算出した。3. HCV抗原陽性母親からの出生児を対象として、母児感染率を算出した。4. HCV持続感染と肝外病変を痒疹および角化症の面から検討した。
臨床研究班では、1. IFN治療例の長期予後をアンケート調査により行なった。2. IFN効果の予測因子について検討するとともに難治例への対策を検討した。3. G型肝炎の臨床的意義とくにE2抗体の意義について検討した。4. TTVの非A-G型肝疾患における感染率を検討した。
結果と考察
HCV、GBV-C/HGVおよびTTVに分けて報告する。
1)HCVについて
HCVの構造と機能に関する研究として、E2蛋白上のER retention signalの検討を行ない、E2蛋白は細胞内にとどまり、HCVの粒子形成はERで起ることを認めた。また、NS5B蛋白がRNA依存RNAポリメラーゼとしての機能を有すること、NS5Aとリン酸化およびタンパク質キナーゼ(PKR)の関連を検討し密接な関連があることを示した。これらの成績はRNAポリメラーゼ測定系がHCV阻害剤のスクリーニングに、またNS5Aリン酸化阻害剤およびNS5Aの会合阻害剤は抗ウイルス剤として期待される。
HCVに対する免疫反応に関する研究として、HVR1に対して交差反応抗体の存在すること、また、HCV感染チンパンジーにJCC-2抗原に対する免疫応答を認め、このエピトープがHCVコア抗原81-100アミノ酸中に散在することを明らかにした。
C型肝炎の発症機序について、HLA抗原のハロタイプ、TAP2遺伝子、可溶性補体(SCR1)およびサイトカイン誘導能薬について検討したが、明確な結論は得られなかった。
HCVの新規感染率を健常献血者集団で検討し、持続感染成立は人口10万人当り3.42人と算出された。また、HCVキャリア2,134人中5年間に19人が発癌していた。成人でのHCV新規感染はひじょうに少ないとともに、HCVキャリアでの発癌が高いことを示している。
IFN治療の長期追跡例についてのアンケート調査では、5.3%に肝発癌を認め、その危険因子として、年令、治療効果および肝病変が関与していることを明らかにした。また、この成績は自然経過より有意に発癌が抑制されていることを示すもので、HCV感染と発癌を考える上でも重要な所見である。また、IFN効果の予測因子について検討し、1bで107Meq以上の高ウイルス血症例で、難治例が多いことを認めるとともに、難治性に対して、SNMCまたはウルソデオキシコール酸投与により、ALTを正常値以下で持続させることにより、発癌抑制の効果があることを認めた。
HCV感染による肝外症状の1つとして、口腔内病変、口腔癌との密接な関連性が示唆された。
2)GBVC/HGVについて
ヒトlymphoblastoidのDaudi細胞にHCVおよびHGV陽性血漿(No.53)を接種、これらウイルスの培養を検討し、HGVRNA接種から3ヵ月間持続して検出されたが、HCVRNAは21日目以降消失した。これはHGVの細胞培養が可能であることを示すもので、今後、ワクチンの作用および抗ウイルス剤の開発に有用であると考えられる。
チンパンジー2頭について、GT230血漿を接種材料として接種実験を行ない、それぞれ16週および18週の潜伏期を経て感染が成立し、現在まで感染が持続している。なお、発症はみられていない。今後、感染血清を用いて、HGVのウイルス学的検討を行なう予定である。
献血者集団についてGBV-C/RNAの検討を行なったが年令に関係なく1%前後であった。また関節リュウマチとの関係があるとの報告がみられていたが、今回再検討を行ない、関連のないことを明らかにした。母児感染および輸血後感染についても検討したが、HCVとの重感染例から母子感染の多いことを認めた。さらに、性行為感染があるかどうかをHCV高度汚染地域で調査したが、その証拠は得られなかった。また、E2抗体についても調査を行なったが、GBVC/HGVRNA 陰性例にも検出が認められ、疫学的調査にはE2抗体の測定を加える必要性を認めた。E2抗体測定には問題が残されており、今後さらに検討する必要がある。
GBVC-RNAのみ陽性の慢性肝疾患はひじょうに少なく、HCVの重感染例が多くみられた。これはGBVC/HGV感染が肝炎に関与する可能性は少ないことを示している。
3)新しい肝炎ウイルス(TTV)について
非AーG型輸血後肝炎の血清中から、清水の報告したH株、吉澤らの報告したNANB2株に相当する新しい肝炎ウイルス(TTV)の発見に成功した。非A-G型輸血後肝炎5例中3例に検出され、持続性または一過性の経過を示した。ウイルス学的検討により、Envを持たない単鎖DNAウイルスで、3.7kbの塩基配列を決定した。また、保存性の高い領域の塩基配列に合せて、高感度の検出系を確立し、これを用いて肝臓で増殖している可能性および糞便中にも検出され、経口感染の可能性を示唆する成績を得た。また、非A-G型急性肝炎で7/25(28%)、慢性肝疾患で20/51(39%)、献血者で34/290(12
%)にみられたが、劇症肝炎でも9/19(47%)に陽性であったのが注目された。今後、強力にTTVについての研究を進める必要がある。
1)HCVについて
HCVの構造と機能に関する研究として、E2蛋白上のER retention signalの検討を行ない、E2蛋白は細胞内にとどまり、HCVの粒子形成はERで起ることを認めた。また、NS5B蛋白がRNA依存RNAポリメラーゼとしての機能を有すること、NS5Aとリン酸化およびタンパク質キナーゼ(PKR)の関連を検討し密接な関連があることを示した。これらの成績はRNAポリメラーゼ測定系がHCV阻害剤のスクリーニングに、またNS5Aリン酸化阻害剤およびNS5Aの会合阻害剤は抗ウイルス剤として期待される。
HCVに対する免疫反応に関する研究として、HVR1に対して交差反応抗体の存在すること、また、HCV感染チンパンジーにJCC-2抗原に対する免疫応答を認め、このエピトープがHCVコア抗原81-100アミノ酸中に散在することを明らかにした。
C型肝炎の発症機序について、HLA抗原のハロタイプ、TAP2遺伝子、可溶性補体(SCR1)およびサイトカイン誘導能薬について検討したが、明確な結論は得られなかった。
HCVの新規感染率を健常献血者集団で検討し、持続感染成立は人口10万人当り3.42人と算出された。また、HCVキャリア2,134人中5年間に19人が発癌していた。成人でのHCV新規感染はひじょうに少ないとともに、HCVキャリアでの発癌が高いことを示している。
IFN治療の長期追跡例についてのアンケート調査では、5.3%に肝発癌を認め、その危険因子として、年令、治療効果および肝病変が関与していることを明らかにした。また、この成績は自然経過より有意に発癌が抑制されていることを示すもので、HCV感染と発癌を考える上でも重要な所見である。また、IFN効果の予測因子について検討し、1bで107Meq以上の高ウイルス血症例で、難治例が多いことを認めるとともに、難治性に対して、SNMCまたはウルソデオキシコール酸投与により、ALTを正常値以下で持続させることにより、発癌抑制の効果があることを認めた。
HCV感染による肝外症状の1つとして、口腔内病変、口腔癌との密接な関連性が示唆された。
2)GBVC/HGVについて
ヒトlymphoblastoidのDaudi細胞にHCVおよびHGV陽性血漿(No.53)を接種、これらウイルスの培養を検討し、HGVRNA接種から3ヵ月間持続して検出されたが、HCVRNAは21日目以降消失した。これはHGVの細胞培養が可能であることを示すもので、今後、ワクチンの作用および抗ウイルス剤の開発に有用であると考えられる。
チンパンジー2頭について、GT230血漿を接種材料として接種実験を行ない、それぞれ16週および18週の潜伏期を経て感染が成立し、現在まで感染が持続している。なお、発症はみられていない。今後、感染血清を用いて、HGVのウイルス学的検討を行なう予定である。
献血者集団についてGBV-C/RNAの検討を行なったが年令に関係なく1%前後であった。また関節リュウマチとの関係があるとの報告がみられていたが、今回再検討を行ない、関連のないことを明らかにした。母児感染および輸血後感染についても検討したが、HCVとの重感染例から母子感染の多いことを認めた。さらに、性行為感染があるかどうかをHCV高度汚染地域で調査したが、その証拠は得られなかった。また、E2抗体についても調査を行なったが、GBVC/HGVRNA 陰性例にも検出が認められ、疫学的調査にはE2抗体の測定を加える必要性を認めた。E2抗体測定には問題が残されており、今後さらに検討する必要がある。
GBVC-RNAのみ陽性の慢性肝疾患はひじょうに少なく、HCVの重感染例が多くみられた。これはGBVC/HGV感染が肝炎に関与する可能性は少ないことを示している。
3)新しい肝炎ウイルス(TTV)について
非AーG型輸血後肝炎の血清中から、清水の報告したH株、吉澤らの報告したNANB2株に相当する新しい肝炎ウイルス(TTV)の発見に成功した。非A-G型輸血後肝炎5例中3例に検出され、持続性または一過性の経過を示した。ウイルス学的検討により、Envを持たない単鎖DNAウイルスで、3.7kbの塩基配列を決定した。また、保存性の高い領域の塩基配列に合せて、高感度の検出系を確立し、これを用いて肝臓で増殖している可能性および糞便中にも検出され、経口感染の可能性を示唆する成績を得た。また、非A-G型急性肝炎で7/25(28%)、慢性肝疾患で20/51(39%)、献血者で34/290(12
%)にみられたが、劇症肝炎でも9/19(47%)に陽性であったのが注目された。今後、強力にTTVについての研究を進める必要がある。
結論
本年度の研究により得られた成果は次の通りである。
1. HCVの構造と研究に関する研究を主として遺伝子工学の面から検討し、抗ウイルス剤の開発に資する成績を得た。
2. HCVのHVR1蛋白に対する交差抗体およびコア抗原領域に細胞性免疫に対するエピトープの存在を認めた。
3. HCVの年間新規感染率は人工10万当たり3.42人と低いこと、またHCVキャリアにおける肝発癌率の高いことを認めた。
4. IFN治療例の長期追跡例の検討から、有効例における肝発癌が有意に低いこと、また、IFN効果の予測の検討から、1bで107Meq/ml以上の高ウイルス血症では難治例が90%以上と高率であった。
5. GBVC/HGVのDaudi細胞への継代培養に成功するとともに、チンパンジーに潜伏期4ヵ月後に感染が成立し、持続感染することを認めた。
6. 新しい肝炎ウイルス(TTV)を発見し、単鎖のDNAウイルスで血液感染だけでなく経口感染することを認めた。
1. HCVの構造と研究に関する研究を主として遺伝子工学の面から検討し、抗ウイルス剤の開発に資する成績を得た。
2. HCVのHVR1蛋白に対する交差抗体およびコア抗原領域に細胞性免疫に対するエピトープの存在を認めた。
3. HCVの年間新規感染率は人工10万当たり3.42人と低いこと、またHCVキャリアにおける肝発癌率の高いことを認めた。
4. IFN治療例の長期追跡例の検討から、有効例における肝発癌が有意に低いこと、また、IFN効果の予測の検討から、1bで107Meq/ml以上の高ウイルス血症では難治例が90%以上と高率であった。
5. GBVC/HGVのDaudi細胞への継代培養に成功するとともに、チンパンジーに潜伏期4ヵ月後に感染が成立し、持続感染することを認めた。
6. 新しい肝炎ウイルス(TTV)を発見し、単鎖のDNAウイルスで血液感染だけでなく経口感染することを認めた。
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