正常眼圧緑内障の疾患感受性遺伝子の同定および迅速遺伝子診断キットの開発に関する研究

文献情報

文献番号
200828004A
報告書区分
総括
研究課題名
正常眼圧緑内障の疾患感受性遺伝子の同定および迅速遺伝子診断キットの開発に関する研究
課題番号
H18-感覚器・一般-004
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
水木 信久(横浜市立大学大学院 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 猪子 英俊(東海大学 医学部)
  • 太田 正穂(信州大学 医学部)
  • 伊藤 典彦(横浜市立大学大学院 医学研究科)
  • 上本 理世(横浜市立大学大学院 医学研究科)
  • 西出 忠之(横浜市立大学大学院 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
緑内障は視神経に障害を来たす進行性の難治性疾患であり、本邦の失明原因の第1位を占める。緑内障では一度失った視野は回復することはないため、早期発見・早期治療が極めて重要である。緑内障は複数の遺伝要因が関与して発症する多因子疾患であると考えられており、緑内障の疾患感受性遺伝子を網羅的に同定し、それらをもとに迅速な遺伝子診断法を確立をすることは、緑内障の早期発見・早期治療へとつながり、医学的価値は非常に高いといえる。本研究では、全ゲノムの網羅的な相関解析により、本邦に最も多い正常眼圧緑内障(NTG)の疾患感受性遺伝子および疾患特異的変異を同定する。その後、得られた遺伝情報をもとにNTGの迅速遺伝子診断キットの開発を試みる。
研究方法
遺伝マーカーとして全染色体を網羅する約50万個のSNP(Affymetrix社GeneChip 500k Array set)を用いる。患者、健常者ともに300検体ずつを目標に相関解析を行い、NTGの疾患感受性遺伝子を網羅的に同定する。その後、得られた遺伝情報をもとにNTG発症リスクの算定を行い、迅速な遺伝子診断法を確立する。
結果と考察
GeneChip 500k Array setを用いたSNP解析が患者305検体および健常者355検体で全て完了した。解析データのSNP call率(解析が適切に行われたSNPの割合)は平均95%以上であり、良好な解析精度を示した。統計解析の結果、27個のSNPがP値0.0001未満の強い有意性を示した。それらの中で疾患とより顕著に相関する2個のNTG特異的なSNPを見出し、NTGの感受性遺伝子とほぼ確実と考えられる2つの遺伝子を特定した。NTGと強く相関(P値0.0001未満)するSNPの複数の保有はNTG発症リスクの有意な増大を示しており、これらSNPを利用した遺伝子診断が可能と考えられた。 
結論
DNAチップを用いて全ゲノムを網羅的に解析し、NTGと有意な相関を示す疾患感受性遺伝子をすべて同定した。それらの中で最も顕著に相関し、NTGの感受性遺伝子とほぼ確実と考えられた2つの遺伝子を特定した。また、複数のNTG感受性SNP(P値0.0001未満)の重複(組み合わせ)によりNTG発症の相対危険率が有意に増大することを見出し、遺伝子診断キットの雛型を完成した。今後、より詳細なSNP解析を行うことにより、精度の高いNTGの遺伝子診断キットを完成するとともに、NTGに対する有効な予防薬、治療薬(分子標的薬)を開発していきたい。

公開日・更新日

公開日
2009-04-07
更新日
-

文献情報

文献番号
200828004B
報告書区分
総合
研究課題名
正常眼圧緑内障の疾患感受性遺伝子の同定および迅速遺伝子診断キットの開発に関する研究
課題番号
H18-感覚器・一般-004
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
水木 信久(横浜市立大学大学院 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 猪子 英俊(東海大学 医学部)
  • 太田 正穂(信州大学 医学部)
  • 伊藤 典彦(横浜市立大学大学院 医学研究科)
  • 上本 理世(横浜市立大学大学院 医学研究科)
  • 西出 忠之(横浜市立大学大学院 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
緑内障は視神経に障害を来たす進行性の難治性疾患であり、本邦の失明原因の第1位を占める。緑内障では一度失った視野は回復することはないため、早期発見・早期治療が極めて重要である。緑内障は複数の遺伝要因が関与して発症する多因子疾患であると考えられており、緑内障の疾患感受性遺伝子を網羅的に同定し、それらをもとに迅速な遺伝子診断法を確立をすることは、緑内障の早期発見・早期治療へとつながり、医学的価値は非常に高いといえる。本研究では、全ゲノムの網羅的な相関解析および候補遺伝子解析により、正常眼圧緑内障(NTG)の疾患感受性遺伝子および疾患特異的変異を同定する。その後、得られた遺伝情報をもとにNTGの迅速遺伝子診断キットの開発を試みる。
研究方法
遺伝マーカーとしてマイクロサテライト(MS)およびSNPを用いた全ゲノム網羅的解析および候補遺伝子解析によりNTGの疾患感受性遺伝子の網羅的なスクリーニングを行う。その後、得られた遺伝情報をもとにNTG発症リスクの算定を行い、迅速な遺伝子診断法を確立する。
結果と考察
全染色体をカバーする23,465個のMSを対象にNTGと相関するMSのスクリーニングを行った。現時点で、NTGと有意に相関を示す陽性MSマーカーを527個検出している。今後追加検体を用いて解析を行い、陽性マーカーを絞り込んでいく。GeneChip 500k Array set(500,568個のSNP)を用いたSNP解析では、27個のSNPがP値0.0001未満の強い有意性を示した。それらの中で疾患とより顕著に相関する2個のNTG特異的なSNPを見出し、NTGの感受性遺伝子とほぼ確実と考えられる2つの遺伝子を特定した。NTGと強く相関(P値0.0001未満)するSNPの複数の保有はNTG発症リスクの有意な増大を示しており、これらSNPを利用した遺伝子診断が可能と考えられた。また、総計15個の遺伝子および遺伝子座を対象に候補遺伝子解析を行った結果、3遺伝子(SLC1A1、SLC1A3、TLR4)および3遺伝子座(GLC1B、GLC1F、GPDS1)の多型が本病と有意な相関を示した。
結論
本研究で同定したNTG感受性SNPの重複(組み合わせ)によりNTG発症のリスクが有意に増大したことから、本研究で同定された感受性遺伝子の情報はNTGの迅速診断に有効であるといえる。今後、日本人および他人種のNTG検体の収集を継続して行い、本研究で同定された感受性遺伝子の再現性を検証し、遺伝要因が多数重なることにより発症すると考えられるNTGの疾患感受性遺伝子を明確にしていきたい。

公開日・更新日

公開日
2009-04-07
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200828004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
私達は既にDNAチップによる網羅的解析を終了しており、正常眼圧緑内障(NTG)の感受性遺伝子とほぼ確実と考えられる複数の遺伝子を特定している。本研究を推進することにより、これらのNTG感受性遺伝子が直接的に証明・確定され、NTGの病態や発症機序の解明に大きく貢献すると考えられる。また、これらの責任タンパク反応系のいずれかを阻害するモノクローナル抗体、酵素阻害剤、結合ペプチドは、従来の眼圧下降を主としたNTG治療薬とは全く異なる治療薬の開発へとつながる可能性がある。
臨床的観点からの成果
緑内障は視神経に傷害をきたす進行性の難治性疾患である。放置すると視野狭窄が進行し、失明に至ることのある疾患で、本邦の失明原因の第1位を占めている。緑内障で失った視野は回復することはないため、その治療の基本は進行予防、進行抑制であり、早期発見、早期治療が非常に重要である。NTGの遺伝子診断キットが完成されれば、NTGの迅速な遺伝子診断が可能となる。また、生まれながらにして、自分が将来NTGを発症する相対危険率を知ることができるため、NTGの早期発見・早期治療の一助となる。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
私達が特定したNTG感受性遺伝子を対象とする遺伝子診断キットを用いたNTGの早期診断により、NTGの治療が早期に可能となるため、NTGの重症化による失明者や重度の視覚障害者を減少させることになり、患者本人のQOLの向上のみならず、患者が労務継続可能となることによる社会経済効果、また保健医療、社会保障のコスト削減など社会的にも経済的にも貢献度は大変高いと考えられる。
その他のインパクト
本研究の成果とともに、緑内障に関する最新の診断法や治療法の広い啓蒙を目的として平成19年度に市民公開講座を開催した。緑内障の概要、診断・治療法、病気の原因、手術法に関する発表を平易に行い、多くの市民より関心が寄せられた。特に、疾患の早期発見を目的とする遺伝子診断キット、疾患の根治治療へとつながるゲノム創薬の開発に対して多大な期待が寄せられた。講演終了後、市民からの公開質問、医療相談を行った。加えて、会場内で実施した初期緑内障検査への市民の積極的な参加があり、市民の健康意識の高まりを実感した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
31件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kamio M, Meguro A, Ota M, et al.
Investigation of the association between the GLC3A locus and normal tension glaucoma in Japanese patients by microsatellite analysis
Clinical Ophthalmology , 3 , 183-188  (2009)
原著論文2
Nakamura K, Ota M, Meguro A, et al.
Association of microsatellite polymorphisms of the GPDS1 locus with normal tension glaucoma in the Japanese population
Clinical Ophthalmology , 3 , 307-312  (2009)
原著論文3
Tomiyama R, Meguro A, Ota M, et al.
Investigation of association between TLR2 gene polymorphisms and Behçet's disease in Japanese patients
Human Immunology , 70 (1) , 41-44  (2009)
原著論文4
Nishizaki R, Ota M, Inoko H, et al.
New susceptibility locus for high myopia is linked to the uromodulin-like 1 (UMODL1) gene region on chromosome 21q22.3
Eye , 23 (1) , 222-229  (2009)
原著論文5
Meguro A, Ota M, Katsuyama Y, et al.
Association of the toll-like receptor 4 gene polymorphisms with Behcets disease
Annals of the Rheumatic Diseases , 67 (5) , 725-727  (2008)
原著論文6
Akiyama M, Yatsu K, Ota M, et al.
Microsatellite analysis of the GLC1B locus on chromosome 2 points to NCK2 as a new candidate gene for normal tension glaucoma
British Journal of Ophthalmology , 92 , 1293-1296  (2008)
原著論文7
Shibuya E, Meguro A, Ota M, et al.
Association of toll-like receptor 4 gene polymorphisms with normal tension glaucoma
Investigative Ophthalmology & Visual Science , 49 (10) , 4453-4457  (2008)
原著論文8
Mizuki N, Meguro A, Tohnai I, et al.
Association of major histocompatibility complex class I chain-related gene A and HLA-B alleles with Behçet’s disease in Turkey
Japanese Journal of Ophthalmology , 51 , 431-436  (2007)
原著論文9
Ito A, Ota M, Katsuyama Y, et al.
Lack of association of Toll-like receptor 9 gene polymorphism with Behcet’s disease in Japanese patients
Tissue Antigens , 70 (5) , 423-426  (2007)
原著論文10
Inamori Y, Ota M, Inoko H, et al.
The COL1A1 gene and high myopia susceptibility in Japanese
Human Genetics , 122 (2) , 151-157  (2007)
原著論文11
Itoh Y, Inoko H, Kulski JK, et al.
Four-digit allele genotyping of the HLA-A and HLA-B genes in Japanese patients with Behcet’s disease by a PCR-SSOP-Luminex method
Tissue Antigens , 67 (5) , 390-394  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-