認知神経科学的アプローチによる精神神経疾患に対する偏見の実態調査と偏見軽減に関する研究

文献情報

文献番号
200827031A
報告書区分
総括
研究課題名
認知神経科学的アプローチによる精神神経疾患に対する偏見の実態調査と偏見軽減に関する研究
課題番号
H20-障害・一般-011
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 英彦(独立行政法人 放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 大久保 善朗(日本医科大学 精神神経科)
  • 加藤 元一郎(慶應義塾大学 精神神経科)
  • 松浦 雅人(東京医科歯科大学 保健衛生学科)
  • 竹村 和久(早稲田大学 文学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害保健福祉総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
9,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
偏見の調査は質問紙などを用いて被験者自身の態度を報告するものが主流であった。しかしこれらの顕在評価では、社会的に望ましい回答に偏ってしまうことが指摘されていた。このバイアスを除去するため開発されたImplicit Association Test(IAT)や描画法を用いて、統合失調症への態度を調査し、さらにIATを用いて精神分裂病から統合失調症に呼称が変わったことによる本疾患に対するネガティブなステレオタイプへの影響を調べた。
研究方法
大学生を対象に潜在評価であるIATを用いて、統合失調症患者は犯罪傾向にあるというステレオタイプを検討した。ターゲット概念には「精神分裂病」と「統合失調症」を用い、「糖尿病」をコントロールとした。属性概念は「犯罪者」と「被害者」を用いた。精神分裂病版と統合失調症版の2回のIATを試行した。また、ロシアと日本の大学生を描画法の対象とした。A4用紙4枚とBの濃さの鉛筆を渡し、「日本人、ロシア人、精神疾患者についてのあなたのイメージを1枚ずつ描いてください。」と教示した。描かれた人物画をデジタル画像として取り込み、画像特徴は、8ビットで表される画素値で表現される濃度を用いた「濃度平均」、「重心」、濃度2次モーメントから作られた「人物画の大きさ指標」とした。
結果と考察
「精神分裂病」版IATではIAT効果が見られ、「統合失調症」版IATではIAT効果は見られなかった。このことは、精神分裂病と犯罪者の結びつきが強く、統合失調症となってその連合が弱まった。つまり、呼称の変更により、統合失調症患者は犯罪に結びつきやすいというネガティブなステレオタイプが減少したと解釈できる。顕在評価とIAT効果に相関が見られず、顕在評価だけで、偏見を研究するには限界があり、潜在評価を併用することが有用と考えられた。描画法を定量的に解析することにより日本人は描画対象に対する特徴付けが大きい事が示された。
結論
偏見研究にIATや描画法といった潜在評価が有用であることが示された。潜在評価を用いることによって、「精神分裂病」から「統合失調症」への呼称変更は、ネガティブなイメージを緩和させることが示された。今後、脳活動や潜在評価を用いることによって、偏見の認知神経メカニズムを検討し、さらに比較文化的研究や教育などの社会・環境要因も検討し、偏見を軽減する新たな試みに応用したい。

公開日・更新日

公開日
2009-04-07
更新日
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