疫学とトータルマネージメントに関する研究

文献情報

文献番号
199700503A
報告書区分
総括
研究課題名
疫学とトータルマネージメントに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
居村 茂明(国立加古川病院)
研究分担者(所属機関)
  • 古野純典(九州大学)
  • 松田剛正(鹿児島赤十字病院)
  • 村澤章(新潟県立瀬波病院)
  • 塩沢俊一(神戸大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 疾病対策研究分野 長期慢性疾患総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性関節リウマチは、患者本人はもとよりその家族のQOLを著しく障害する難病であるが、その実態は十分に明かでなく、従って社会の本症にたいする認識も正確とはいえない。我々は、この疾病にたいする社会の関心を喚起するために、最近の本邦における患者数、障害された患者QOLの実態を明かとしすると共に、新たに発足する介護保険法に基ずく患者支援の具体策を提案する目的で、以下の調査研究を行った。
研究方法
1.疾患遺伝子座位の検索:患者、患者、健常同胞を1家系とし、蛍光プライマーを標識に10.8cM間隔、heterozygosity0.79の条件下に、前染色体385ケ所のマイクロサテライトマーカーDNAをPCR法で増幅し、ABI337型シークエンサーで泳動、ジーンスキャン及びジェノタイパー解析ソフトを用いて遺伝子サイズを決定した。2.有病率調査:種子島中種子町(鹿児島県)、加古川市野口町及び飾磨郡家島町(兵庫県)、中伊豆町(静岡県)、山北町(新潟県)及び鳴子町(宮城県)の5ケ所でそれぞれ約1万名の人口を対象に有病者の調査を行った。調査方法は、先ず往復書簡によるアンケート(町内会経由)調査を行い、抽出された陽性者を呼び出して直接健診した。診断には1987年のアメリカリウマチ学会の診断基準を適用し、別に1958年の基準で3、4項目を満足するものを疑い症例とした。3.患者実態調査:斑員・協力者併せて9施設に、平成9年9、10月中の任意の1週間に訪れた患者(外来、入院)全員を対象に、患者の経済的、物的・人的損失、重症度、身体障害者手帳、かかりつけ医等について実態調査を行った。重症度判定のために、16項目より成るADL判定基準を作成した。なおこの調査結果は、平成元年の国立病院共同研究および平成5年厚生省リウマチ調査研究外科治療斑の調査結果と比較し、実態の変遷を検討した。
結果と考察
1.遺伝子座位:第1染色体D1S214、第8染色体D8SおよびX染色体DXS1047ーDXS1227のLod値がそれぞれ3.27、3.33および3.76ー3.71と有意の値をしめした。遺伝子頻度と発症率の計算から、各個人の発症には三つの中の二つの遺伝素因が必要と判断された。これらは、新知見である。現在、同部位に位置する遺伝子レベルでの疾患遺伝子を同定中である。2.有病率調査:調査対象地区の総人口は、51、470名、アンケートへの回答率は90%以上、人口1000対の有病率は、3.3(女性5.2、男性1.1)で、疑い症例を含めると本邦におけるRA患者の有病率は、全人口のほぼ0.5%(約60万人)と見込まれる。調査が全国平均に比べてやや高齢者の多い地域を対象とすることになった(平均老年人口20.5%)ことを差し引くにしても、これまでに信じられて来た0.3ー0.4%より増加しており、今後の人口高齢化を考慮すると、RA患者有病率は漸増するものと推測される。3.患者実態調査:表記の期間に9施設で扱った患者総数は、2、179名(入院420名、外来1、759名)であった。患者の平均年齢は、59.7歳、平均罹病期間は13.1年で、上記前2回の調査結果に比べていずれも約2年長く、患者寿命の延長傾向がみられた。二次医療圏外からの受診者が、外来で55.2%、入院で67.1%あり、外来受診に平均6時間をかけている。通院が自立していない者が30.3%にみられた。平均入院期間は5.2ケ月で、これらの値は前2回の調査結果とほぼ同値であった。[身近で専門医の治療を受けたい]という患者の願いには、この10年間、答えられていないようである。頚椎障害のある者は348名(16.0%)、この内36名(1.7%)は頚椎手術をうけている。人工関節置換者は560名(25.7%)、この内4関節以上の置換を受けているものは70名(3.2%)であった。この調査のために作成した16尺度より成るADL調査表は、頚椎障害度や
置換人工関節数とよく相関した。常用される厚生省特定疾患神経・筋疾患リハビリテーション調査研究斑による基準とは異なるが、今後の地域あるいは在宅での介護医療・患者支援には、かような観点が必要と考えられる。経済的損失では、1ケ月の平均保険請求点数が、外来2、212点、入院64、482点で、いま、有病率を人口の0.5%、入院患者数と外来患者数の比を1:20乃至1:15とすれば、平成9年度にRAの治療に使用された医療費は、推定年間総医療費29億円のほぼ1.33ー1.58%と試算される。この割合は、平成元年並びに平成5年に行われた調査結果とほぼ等しく、RA治療に消費される医療費が、総医療費に占める割合は、毎年ほぼ一定と推定される。RAの主婦は健常な主婦に比べ、家事労働に多くの時間をかけている。この多くかかる時間を金額に換算して評価すると、1人年間約61万円と推算された。本邦の患者数を60万人、その内家事労働を自分でしなければならない者を70%と見積もれば、損失額の総計は、年間約2、575億円となり、平成9年度推定国民所得385兆円の0.07%にあたる。この測定手段は、京都大学経済学部の西村省三教授の助言により我々が開発した方法で、RA主婦のQOL測定や治療、疾病経過等の判定に有用な者とかんがえている。ちなみにこの方法で測定した平成元年度の損害額は、一人年間63万円であった。以上が平成8、9年度におこなった当斑の調査研究結果である。ただ、これらの値は、リウマチ病専門の施設を訪れた患者を対象とした結果であり、患者全体像からは、多少偏ったものである可能性は否定出来ないが、社会的な患者支援には、必要なデータであろうと考えている。
結論
1.本邦におけるRA患者の有病率は増加しているようで、疑い症例を加えるとほぼ0.5%となり、患者総数は、約60万人と考えられる。2.人口老齢化と共に、有病率はなお漸増すると思われる。3.患者の半数以上が、二次医療圏外からの受診であり、専門医療施設の増設や適正配備が急がれる。4.平均入院期間が5ケ月である。受け入れ場所のない患者が多い結果であろう。5.在宅でのケアが困難な患者を重度の頚髄障害(1.5%)に限っても、全国でおよそ9000床の専門病床が必要と推定される。人口500万あたり約350床である。6.3級以上の身体障害者手帳の所持者は、35%であった。7.かかりつけ医のある患者は、43.6%あったが、そこでリウマチの治療が受けられると思う者は、14.8%にすぎない。8.平成9年度の保険請求点数は、一人1ケ月平均、外来2、212点、入院67、445点で、年総額3、900億円乃至4、600億円が使われている。この値は、同年度推定国民医療費29兆円の1.3ー1.6%である。9.介護・ケアの指標にとして適切なADL調査基準を作成した。とくにRAの場合家庭の主婦のADLといった観点に立つ判定基準が必要である。これを基に[RAの日常生活自立度判定基準]を案出した。10.家庭の主婦である患者が、家事労働において失う時間を金額で表現すると、一人年間約61万円であり、全RA主婦が平成9年度に受けた損害額は、平成9年度推定国民所得385兆円の0.07%にあたる。

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