「40歳以上の県民を対象とする虚血性心疾患検診の新システム」に関する研究 

文献情報

文献番号
199700502A
報告書区分
総括
研究課題名
「40歳以上の県民を対象とする虚血性心疾患検診の新システム」に関する研究 
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
平盛 勝彦(岩手医科大学第二内科)
研究分担者(所属機関)
  • 福田信夫(国立善通寺病院臨床研究部)
  • 斉藤友博(国立小児病院小児医療研究センター)
  • 横山光宏(神戸大学医学部第一内科)
  • 友池仁暢(山形大学医学部第一内科)
  • 山岸正和(国立循環器病センター内科心臓部門)
研究区分
厚生科学研究費補助金 疾病対策研究分野 長期慢性疾患総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
7,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
欧米諸国では減少しつつある虚血性心疾患による死亡が、わが国では増加傾向にある。心筋梗塞症(MI)による死亡の半数以上は発症直後の院外での急死である。虚血性心疾患の一次予防および救急救命システムの整備が必要である。しかし、すぐに大きな効果を期待できる対策は、致死的事態の前段階である虚血性心疾患の早期検出による早期治療である。効率の良い虚血性心疾患の検診法が必要である。しかし現行の検診での虚血性心疾患の検出感度は不十分である。現在、直接的あるいは間接的に冠動脈病変を非侵襲的に診断する検査法が国内外で提案されている。エコー図法による総頚動脈内膜中膜複合体(IMT)の肥厚の検出、超高速CT法による冠動脈石灰化の検出、新たに開発された経胸壁ドプラ冠動脈エコー図(TCE)法を用いる冠動脈血流の直接描出などである。これらのうち、TCE法によれば冠動脈「狭窄」病変の検出が可能であり、かつ簡便に多数例に適用できる。これらを住民検診に応用した新検診システムの開発を試みた。さらに虚血性心疾患発症率調査や発症に関わる新しい冠危険因子の解明を5組織の共同研究の一環として行う。なお当班には、研究課題の異なる5分担研究が含まれている。
研究方法
本研究では、TCE法および心血管エコー図法を導入して効率のよい虚血性心疾患検出新検診システムを考案した。1)MI発症前に受診した検診結果からみた現行検診の問題点の検討、2)当院に収容したMI例とコホート研究の対象とした一定地域の住民でのIMTの肥厚度の対比、3)超高速CT法による健常者と虚血性心疾患例での石灰化指数の算出と冠動脈病変との対比、4)TCE法(Acuson社製 Sequoia C256を使用)での拡張期平均血流速度の最大値と最小値の比(DMVR)による左前下行枝狭窄病変検出の感度の検討、5)人間ドック受診者を対象に、TCE法と心血管エコー図法を導入した新検診システムのパイロットスタディなどを行った。さらにTCE法および心血管エコー図法での有所見者では、運動負荷心筋 SPECT などの、リスクを伴いマンパワーを要する検索を段階的に行い、新検診システムの冠動脈病変検出効率を検討した。6)MI例および人間ドック受診者でDNAを抽出して虚血性心疾患発症に関わる遺伝的素因を検討した。
結果と考察
1)ロジスティック解析の結果では、HDLと高血圧症がMI発症群に関連する独立した冠危険因子であった。MI発症群で、いずれの冠危険因子も基準値以下であったのが5例(11%)であった。2)心筋梗塞症例の最大 IMT は、一般住民に比べて高値であった(0.93±0.18 vs 0.75±0.18, p<0.001)。3)健常者群の冠動脈石灰化指数は39±73であった。狭心症群では、病変枝数の増加に伴って石灰化指数は高値を示した(1枝病変 308±411, 2枝病変 996±1187, 3枝病変 1488±616)。3)拡張期平均血流速度のDMVR値による冠動脈狭窄病変の検出感度は76%、特異度77%であった。冠動脈狭窄病変のTCE法による非侵襲的な診断が可能であった。4)従来の基本健康診査に、TCE法および心血管エコー図法を導入して虚血性心疾患の検出を試みた結果、検診例の約8%に心血管系疾患が検出された。5)アンジオテンシン I 変換酵素とアポリポプロテインEの遺伝子多型は、虚血性心疾患発症に関わる遺伝的因子であった。なお、分担研究として、友池(山形大学)と斉藤(国立小児病院)は心筋梗塞症の発症と背景調査、横山(神戸大学)は虚血性心疾患の発症に関わる NADPH oxidaze p22 phox 遺伝子型、山岸(国立循環器病センター)は血管内エコー図法に
よる急性冠症候群の病態、福田(国立善通寺病院)は血栓・塞栓症の発症要因について検討した。TCE法および心血管エコー図法を導入した検診システムは、虚血性心疾患の早期検出に寄与し、突然死の予防対策として期待できる。また虚血性心疾患発症に関わる遺伝的因子の解明は、早期の予防対策を講ずる上で有用である。今後、検出効率を高めるため更に検討を加え、段階的な虚血性心疾患新検診システムを全県的に実施し(次年度ランダム化対象例4,000人規模を予定)、年次ごとに対象例を増やして長期追跡調査を行い、当システムによる心血管疾患検出の感度と特異度および費用、更に効率について検討する予定である。このような新しい検診システムは国内外に例を見ないもので、心血管疾患の効率的な治療および予防対策に大きく寄与するものと期待している。
結論
心血管エコー図法と新たに開発された経胸壁ドプラ冠動脈エコー図法を導入した検診システムは、虚血性心疾患の早期検出に寄与し、発症対策として期待される。今後、対象例を増やして長期追跡調査を行い、当システムによる心血管疾患検出の感度と特異度および費用、更に効率について検討する。

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