重度身体障害を補完する福祉機器の開発需要と実現可能性に関する研究

文献情報

文献番号
200827016A
報告書区分
総括
研究課題名
重度身体障害を補完する福祉機器の開発需要と実現可能性に関する研究
課題番号
H19-障害・一般-010
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
森 浩一(国立身体障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 剛伸(国立身体障害者リハビリテーションセンター 研究所)
  • 丸岡 稔典(国立身体障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害保健福祉総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
1,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、筋肉の活動を介さずに、脳信号から直接意図にかかわる情報を抽出して、文字入力・伝達や機器制御を可能にする技術(脳インターフェース)が進歩し、重度身体障害者(例えば筋萎縮性側索硬化症ALSが進行した患者)にも社会参加が容易になろうとしている。本研究では、先端技術を重度身体障害者が日常的に使えるための条件を調べ、また、それが障害者やその家族・介助者の真の要求に合うのかを明らかにし、今後の福祉機器開発の方向性を決定するのに役立つ資料と考え方を提供することを目的とした。
研究方法
1)ALS患者の24時間の介助記録を追加した。
2)頸髄損傷者の福祉機器開発に関する質問紙調査の結果を解析した。
3)脳インターフェースの研究・開発動向を調査した。
4)ALS患者を被験者とし、音声刺激による脳インターフェースの開発を進めた。
結果と考察
1)重度身体障害者の24時間の介助記録をモデルとして、福祉機器の効果を、介助の低減効果として定量的に評価できることを示した。
2)頸髄損傷者は、過半数が月に100時間以上の介助サービスを使用し、日常生活活動(ADL)が自立する機器の開発を希望していた。福祉機器の情報が不十分との不満があった。
3)脳内に電極を埋め込む方式の脳インターフェースは、ヒトでの実用化にはまだ距離がある。脳表面の電極で5指の運動を別々に検出でき、電極埋込手術が必要ではあるが、高性能な脳インターフェースが比較的安全に実現できる。非侵襲的な脳波による方法は長期安定して使用でき、就労も可能にすることが示されている。本格的な普及には試用制度、サポート要員の育成などの制度的・技術的支援が必要である。
4)視覚が使えない重度障害者のため、聴覚のみによる脳インターフェースを開発した。任意文字の伝達に5分程度かかり、改良余地がある。
結論
1)脳インターフェース技術等の最先端福祉技術の開発状況(シーズ)と重度身体障害者の要求(ニーズ)を調査し、その結果を解析した。これらが整合するために下記のような評価が有用である。
2)重度障害者の24時間調査データを利用して,新規開発福祉機器の介助低減効果を定量的に予測できる。QOLについては信頼性が確立された心理評価尺度を使用する。
3)支援技術の適合方法として、定量的な性能(文字伝達速度等)で選択肢を狭めた上で、自立やプライバシー確保等の効果を考慮するのが合理的である。

公開日・更新日

公開日
2009-04-07
更新日
-

文献情報

文献番号
200827016B
報告書区分
総合
研究課題名
重度身体障害を補完する福祉機器の開発需要と実現可能性に関する研究
課題番号
H19-障害・一般-010
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
森 浩一(国立身体障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 剛伸(国立身体障害者リハビリテーションセンター 研究所)
  • 丸岡 稔典(国立身体障害者リハビリテーションセンター 研究所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害保健福祉総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、筋活動を介さずに、脳信号から直接意図に関る情報を抽出し、意思伝達や機器制御を可能にする技術(脳インターフェース)が進歩し、四肢が十分に使えず、意思伝達に障害を有する重度身体障害者(例えば筋萎縮性側索硬化症ALSが進行した患者)にも社会参加が容易になろうとしている。本研究では、先端技術を重度身体障害者が在宅で使えるための条件を調べ、また、それが障害者やその家族・介助者の真の要求に合うのかを明らかにし、福祉機器開発の方向性を決めるのに役立つ資料と考え方を提供する。
研究方法
1)頸髄損傷者とALS患者の24時間の介助を記録した。
2)重度身体障害者から福祉機器の開発希望を聴取した。
3)頸髄損傷者の福祉機器の使用状況と満足度、開発に関する質問紙調査を行った。
4)重度障害者のQOLに最も影響する意思伝達について、市販装置と最先端の研究・開発動向を調査した。
5)ALS患者を被験者とし、音声刺激による脳インターフェースの開発を進めた。
結果と考察
1)重度身体障害者の24時間の介助記録から、1日に12時間から22時間の介助が必要であった。
2)開発希望機器として、QOLがADLに優先する傾向があった。
3)頸髄損傷者は、過半数が1ヶ月100時間以上ヘルパーを使用し、日常生活活動(ADL)が自立する機器の開発を希望していた。福祉機器の情報が不十分との不満があった。
4)脳内に電極を刺入する脳インターフェースは実用化にまだ距離がある。脳表面の電極で5指別々の運動を検出でき、高性能な脳インターフェースが比較的安全に実現できる。脳波による方法は長期安定使用でき、就労も可能にすることが示されている。本格的な普及には試用制度、サポート要員の育成などの支援が必要である。
5)視覚不要の聴覚のみによる脳インターフェースを開発した。任意文字の伝達に5分程度かかり、改良余地がある。
結論
1)最先端福祉技術の開発状況(シーズ)と重度身体障害者の要求(ニーズ)を調査した。これらが開発と使用において整合するためにそれぞれ下記のような評価が有用である。
2)重度障害者の24時間調査データを利用して、新規開発福祉機器の介助低減効果を定量的に予測する。QOLについては信頼性が確立された心理評価尺度を使用する。
3)支援技術の適合方法として、定量的な性能(文字伝達速度等)で選択肢を狭めた上で、自立やプライバシー確保等の効果を考慮するのが合理的である。

公開日・更新日

公開日
2009-04-07
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200827016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1)音声のみの刺激による誘発脳波脳インターフェースを開発し,文字伝達が可能であることを示した。
2)重度障害者(頸髄損傷と筋萎縮性側索硬化症)の詳細な24時間介助記録を作成し,介助の種類,回数,時間,時間帯数を報告した。被験者は重症度に応じて1日に12~22時間の介助が必要であった。
3)頸髄損傷者の福祉機器と介助サービスの利用状況と開発希望,不満点を調査した。過半数が月に100時間以上の介助サービスを利用していた。
臨床的観点からの成果
1)非侵襲な脳波による脳インターフェースがすでに実用段階にあり、視覚が使えて技術的サポートがあれば他の意思伝達手段が利用できない重度の身体障害者でも、過半数が意思伝達可能になることが調査から判った。
2)頸髄損傷者はADLがより自立するような機器を希望しているが,現実には介助者が使う機器が多く,改善余地がある。
3)在宅で人工呼吸を使用している障害者では,気道内の痰吸引が介助の回数と時間帯数を大きくしている主なものであることが,数字で裏付けられた。
ガイドライン等の開発
1)重度身体障害者24時間介助記録により,福祉機器の介助低減効果が予測でき,新規開発においては,この効果と,QOL改善の心理的効果の両面から妥当性を判断すべきである。
2)福祉機器の適合方法を1つ提案した。定量的な性能(意思伝達装置であれば文字伝達速度)によって与えられた障害状況で最高の性能が出るものを選ぶのが原則であり,プライバシーの確保や自立の向上による効果は性能差としては2倍程度以下に相当するので,その範囲で状況に応じて速い方法(介助者による方法など)と選択可能にするのが望ましい。
その他行政的観点からの成果
1)重度身体障害者の24時間介助記録を使うと,福祉機器や介助が個々に,あるいは組み合わせて,全体に占める割合が評価でき,介助者の派遣時間数も計算できる。
2)脳インターフェース技術の一部は意思伝達装置として実用段階にあり,障害者の期待も大く,意思疎通ができることで過剰介助を減らす効果も期待できるが,広く普及させるには装置費用の低減と試用制度、技術サポートが必須であり,サポート要員と介助者の訓練も必要になる。
その他のインパクト
平成20年11月1日に公開シンポジウム「脳インターフェース(BCI/BMI)が拓く重度障害者の未来の生活」を開催し,49名の重度障害者と関係者らが出席した。講師として筋萎縮性側索硬化症で生体電気信号でのみ意思伝達が可能な方のビデオ出演があり,厚生労働省から支援制度が変わりつつあることの解説と,米国で脳インターフェースを長期間在宅使用する研究の成果の発表があった。
このシンポジウムは,月刊誌「難病と在宅ケア」2008.12月号(Vol.14, No.9, p.22-23)に写真入りで報道された。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
平成20年11月1日公開シンポジウム「脳インターフェース(BCI/BMI)が拓く重度障害者の未来の生活」

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
井上剛伸,田中久弥,豊原昂,他
聴覚刺激由来事象関連電位を利用した意思伝達装置の開発
バイオメカニズム , 19 , 197-209  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-