生活習慣病予防のための教育教材開発

文献情報

文献番号
199700501A
報告書区分
総括
研究課題名
生活習慣病予防のための教育教材開発
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
岡山 明(滋賀医科大学福祉保健医学)
研究分担者(所属機関)
  • 太田壽城(国立健康・栄養研究所健康増進部)
  • 笠置文善(財団法人放射線影響研究所統計部)
  • 島本和明(札幌医科大学医学部内科学第2講座)
  • 高橋裕子(大和高田市立病院内科)
  • 中村正和((財)大阪がん予防検診センター調査課)
  • 中村好一(自治医科大学公衆衛生学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 疾病対策研究分野 長期慢性疾患総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
18,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣の改善が疾病の発症の予防にとって効果的であると考えられているが、従来の教材は単一の危険因子を対象とした教材のみであり、生活習慣病の概念に対応した教材は開発されてこなかった。我々は高血圧・高コレステロール・喫煙等の教材を開発し、健康教育の介入研究班の活動の中で活用してきた経験がある。これを活用し生活習慣病の一次予防のための総合的な健康教育教材を開発した。特に長期に介入効果を維持できるように配慮した教材の開発を行った。循環器ハイリスク集団の介入研究で使用した教材等、すでに蓄積したノウハウのある教材については、教材の改良により広く国民全体に普及可能なものを作成した。今回新たに作成した教材に関しては、研究者による基礎的検討を行ないプロトタイプを作成することを目的とした。
研究方法
生活習慣が影響を及ぼす慢性疾患に対しすでに確立した危険因子である高血圧、喫煙、高コレステロール血症、耐糖能異常の4つに対し使用可能な教材を体系的に開発した。その際、各疾患(習慣)に応じた独立した指導体系を整備するとともに、単独では網羅できない部分を区分して独立した教材として組織し、生活習慣病予防のための総合的な教材として体系化した。新規に開発する教材はプロトタイプの作成を目標とし、改良する教材は出版社と提携し出版物とした。基本的な教材の考え方は個人用の配布パンフレットとともに指導用の教材、さらに支援のための教材を組み合わせたものとすることであった。平成9年8月29日~31日の3日間教材開発のためのワークショップを開催し、教材開発の方向性を明らかにした。その後ワーキンググループが分担し教育教材を作成した。以下のごとく方針を定めた。高血圧、高コレステロール血症、耐糖能異常対象者の危険因子の保持状況についてのアセスメントは、1)栄養摂取状況、2)運動状況、3)身体状況、血圧・血液検査所見を統合した。すべての介入項目に共通する「運動・肥満」に関しては各疾患の中で疾患に特異的な教材を作成するとともに、重点的に指導を行う場合に使用可能な特化した教材を作成した。疾病に対応した具体的な知識や支援の方法を明らかにし、指導効果を維持しやすくするよう考慮した。特に禁煙教育で二次的な肥満傾向を来した場合等では、禁煙に伴う対象者の負担を軽減することができるようにした。また、健康教育の動機付けとして有効と考えられている健康度評価システム作成のためのデータセットとしてNIPPON DATAの解析を行い、生活習慣の改善点を説明する際、保健指導者が容易に使用できるようなコンピュータプログラムを作成した。個人用パンフ、個人用ヘルスパスポート(b6変形)およびリフィール、拡大資料、指導者記録保存用ファイル(A4)及びリフィール、対象者行動記録保存用ファイル(A4)及びリフィールを組み合わせ各基本教材とした。高血圧、高脂血症、糖尿病等の保健指導を必要とする疾病を持つ者に対し実物大のフードモデルを用いた栄養調査を実施し、生活状況調査、栄養調査結果、血液検査結果に基づき対象者の食生活や運動習慣等の問題点を明らかにする。さらに動機付けのため健康度評価を用いて改善の方向を自覚させる方針とした。さらに個人個人に適合した教材を用いて、6ヶ月間の指導を行うものとした。肥満、運動に関しては喫煙習慣も含め総合的なアプローチのため統一的な教材を作成し、重点的に使用する人に適用するものとして作成した。
結果と考察
1.高血圧・
耐糖能異常教材の開発高血圧の教材の改良を要する部分を明らかにし、長期の介入効果を証明するための教材を開発するとともに、現在体系的な教材のない耐糖能異常に対する教材の開発を行うことを目的とした。高血圧の4大要素である運動・肥満・塩分(カリウム)・飲酒の4本柱に対する支援方法を明確化した。対象となる高血圧者個人に対してどの因子について介入の重点を置くかを明らかにするとともに、それぞれ単独の因子について6ヶ月間の指導を行うことのできる教材を作成した。また従来糖尿病患者に用いられてきた、食品交換表中心の指導から食品の選択能力を重視した方向に転換した。必要な知識の獲得を促すために、クイズや種々の教材を作成した。同時に肥満・運動に関しても支援プログラムを作成した。教材は対象者の個人用パンフレット、食事バイキングテスト、クイズ、食事記録等で構成した。栄養調査(統一のもの使用)に基づいて、問題点の把握と実行を促すものとした。自己血糖測定を通じた評価により個人の自己評価を促し、また、わかりやすい拡大図版を作成した。指導経過用紙は全体の体裁に基づき、個人が持ち運び可能な手帳大のものに統一した。2.健康度評価システムHealth Risk Appraisalを健康増進活動における補助教材として使うため、単に「健康度評価」とした。NIPPON DATA 80は1980年に厚生省によって実施された循環器疾患基礎調査がもとになっている。この観察によりベースラインデータがその後の死亡やADLにどのような形で影響を及ぼしているのかが判明し、非喫煙者の死亡率に対する喫煙者の死亡率の比(相対危険度)を求めることができた。これらの解析結果をもとに、ある個人の情報(喫煙状況、血圧、血清コレステロール値など)を入力すると?理想的な状態と比較して死亡の相対危険度がどの程度高いか、?一般の人と比べて(例えば一般成人男では50~60%が喫煙者である)死亡の相対危険度がどの程度高いかの2点を明らかにするものを作成した。さらに、(1)喫煙者が喫煙を中断した場合にはどの程度の死亡率の改善が期待できるのか、(2)現在の血圧が180/100mmHgの者が160/90mmHgまで改善させた場合の改善を実際のデータに基づいて示すことができるものとした。3.支援センター方式による禁煙教育教材の開発禁煙教育の意欲があり実際の禁煙教育に取り組むに至っていない医療機関などでも気軽に禁煙教育に取り組むことができるように、複数の保健医療に関わる組織が連携し禁煙教育に取り組む方法として禁煙支援センター方式の禁煙教育教材を開発した。これにより従来、保健所・市町村が単独で実施していた禁煙教育に禁煙希望者を継続的に導入することで禁煙支援対象者を増加させることができる。既存の社会的資源を連携・融合させることで新たな負担が少なく効果を上げられる教育システムである。4.量頻度法による栄養調査方の開発今回開発した量頻度法は頻度法の問題点を解決するため、食品モデルを使用して量を把握する方法を採用した。最近の検討の結果、食習慣の世代差などもよく検出できることが明らかとなった。5.肥満運動指導用教材肥満や運動は個々の教材の中では対象者に十分な知識の提供や動機の提供は困難である。最も着目した点は、肥満や運動不足の対象者の問題点を定量的に把握するとともに、適切な支援を定期的に行うシステムの導入である。
結論
生活習慣病予防のための総合的な教材を作成した。個々の教材の特色を生かし、重複した部分を削減したことで、多様な危険因子を持つ集団に対し適用可能な教材群を組織できた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)