循環器疾患ハイリスク集団への生活習慣改善によるリスク低下のための介入研究

文献情報

文献番号
199700499A
報告書区分
総括
研究課題名
循環器疾患ハイリスク集団への生活習慣改善によるリスク低下のための介入研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
上島 弘嗣(滋賀医科大学福祉保健医学)
研究分担者(所属機関)
  • 飯田稔(大阪府立成人病センター集検一部部長)
  • 大島明(大阪府立成人病センター調査部部長)
  • 岡山明(滋賀医科大学福祉保健医学助教授)
  • 中川秀昭(金沢医科大学公衆衛生学教授)
  • 日下幸則(福井医科大学環境保健学教授)
  • 中村保幸(滋賀医科大学第1内科学講師)
  • 田中平三(東京医科歯科大学難治疾患研究所教授、初年度のみ)
研究区分
厚生科学研究費補助金 疾病対策研究分野 長期慢性疾患総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
52,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
循環器疾患をはじめとする生活習慣病の発症予防のためには、喫煙・高血圧・高コレステロール血症などの危険因子をコントロールすることが重要である。1990年循環器疾患基礎調査によれば、危険因子の中でも軽症高血圧症1500万人、高コレステロール血症2300万人、喫煙者は2800万人に上ると考えられる。こうした人たちには、生活習慣の改善による危険因子の是正が最も適している。生活習慣による危険因子の改善効果を検討した研究として、少人数を対象としての無作為割付比較対照試験の先駆的研究がある。しかし、既存の保健医療従事者の人材を生かして実施した場合の、実行可能性やその効果に関する研究はない。そこで、本研究では上記の3大危険因子を対象に、比較的軽症で薬物療法の対象とならないハイリスク集団を対象として、生活指導の効果を無作為割付け比較対照試験により実施し明らかにする。あわせて、効果的な健康教育教材の開発を行うこととした。
研究方法
対象は、地域・職域・医療現場での一次スクリーニングを終えた未治療の境界域高血圧、高コレステロール血症、喫煙者である。参加者は20-69歳の男女とした。地域・職域・医療現場からそれぞれ26、46、10ケ所の協力センターを得た。医療施設10カ所はいづれも喫煙がテーマであった。地域及び職域では喫煙・高血圧・高コレステロール血症のいづれか2つをもつものをそれぞれのセンターで募集し、1センター当たりの対象者は20名とした。スクリーニングにより1カ所あたり軽症高血圧・高コレステロール血症を同時に持つ者、あるいは軽症高血圧・喫煙をもつもの、あるいは高コレステロール血症・喫煙をもつもの20名を募集し、二つの危険因子のうち互いの危険因子をコントロールとした個人ごとの無作為割り付けによる喫煙、高血圧または高コレステロール血症の健康教育を行った。各担当地区では二つの危険因子のうちどちらか一つについて10名づつ指導した。一地区あたり1名以上の、現場の保健婦、看護婦、栄養士、医師などの保健・医療従事者が担当した。指導方針、実施計画をそろえて実施するために、共通の教材の開発を行い、それを用いた研修を実施した。血圧、コレステロールともに指導期間は6ヶ月とし、ベースライン調査からの低下の度合いを対照群と比較検討した。血清総コレステロールはベースライン、2ヶ月後、4ヶ月後、6ヶ月後にCDCの外部精度管理下の単一の検査会社を使用し測定したが季節変動の補正は行わなかった。血圧測定は実務研修会での方法に基づき、指導群対照群ともにベースライン、指導開始時、1ヶ月後、2ヶ月後、4ヶ月後、6ヶ月後に同一の自動血圧計を用いて測定した。地域・職域の禁煙指導プログラムとしては、検診の事後指導用に開発したものを用いることとし、今回の介入研究のプロトコールにあわせて必要な改変を加えることとした。1996年2月に鎌倉と京都において、禁煙指導の意義と指導方法の概要など介入研究を準備するに当たって必要な知識の習得に重点を置いた第1回目の研修会を開催した。1996年7~8月には滋賀医大において、教材の使用方法の詳細な説明やビデオを用いた禁煙指導方法の紹介、さらに口一ルプレイ実習等の禁煙指導に必要な知識と技術の習得に重点を置いた第2回目の研修会を開催した。医療機関での禁煙指導は、介入群への登録後は、その患
者への禁煙指導は禁煙支援センターより禁煙支援教材を送付することにより実施した。生活指導の効果判定は、6ヵ月の時点で血圧値、血清総コレステロール値、禁煙率を従来の指導方法である対照群と比較した。また、生活習慣の変化についても比較した。6ヵ月以降は、対照群であった者にも本研究で実施した方法に基づく指導を任意に付加し、1年後の状況について、参加希望センターには危険因子軽減の持続効果を検討することとした。今回の報告では、平成9年10月までにすべての介入を終了したものを解析対象とした。従ってすべての実施センター72のうち43センターを解析対象とした。 医療機関では10センターすべてを解析対象とした。指導群93名、対照群123名に対して3ヶ月後の禁煙率を比較した。
結果と考察
高コレステロール血症では無作為割付の対象となり、6ヶ月目の検査成績のあるもの607名(指導群302名、対照群305名)を解析対象とした。血清総コレステロール値、年齢、HDL-コレステロール値、中性脂肪、肥満度に両群間に差はみられなかった。指導群では血清総コレステロールは指導開始から2ヶ月間で平均9mg/dl低下し、その後この値を維持した。対照群ではほとんど変化しなかった。指導群と対照群の最終的な差は8mg/dlで有意であった。高血圧における介入では477 名を対象とした。割付時の介入群245名、対照群232名の年齢、最大血圧、最小血圧、肥満度には差はみられなかった。ベースライン時の血圧は139/85mmHgであった。指導群、対照群ともに最大血圧は低下したが、指導群の方が2.8mmHgより大きく有意に低下した。拡張期血圧では介入群の血圧が2ヶ月目で有意に1.6mmHgより大きく有意に低下したが、6ヶ月目では対照群も低下し差が消失した。指導群と対照群の生活習慣の差では塩分摂取・カリウム摂取に関連した項目で有意な差がみられ、指導群の方が望ましい方向に変化していた。飲酒、BMI、歩行数については指導群と対照群との間には差を認めなかった。スポット尿から推定した塩分摂取量、カリウム摂取量は指導群の方が望ましい変化を示していた。喫煙ではベースライン時点で既に禁煙していた7人を除外した496人を禁煙指導の効果判定の対象とした。指導群は256人、対照群は240人であった。 指導群と対照群との問には、ベースライン特性に差はなく、無作為割付は成功していた。指導6ケ月後の禁煙者割合をみると、自己申告による禁煙者は、指導群では19.5%、対照群では2.5%で、呼気中CO濃度測定に基づく禁煙者は、指導群で13.7%、対照群では2.5%で、いずれも有意差が認められた。医療機関における禁煙に対する介入研究では、介入群の3ヵ月後の禁煙成功率は17.3%、対照群は4.6%であり、その差は有意であった。この結果は、従来の外来での禁煙指導による禁煙率(約5%)よりも高かった。外来での禁煙指導に禁煙支援センター方式は有用と考えられた。
結論
本研究は、わが国で最初の循環器疾患をはじめとする「生活習慣病」の発症予防のための、第一線の保健医療従事者による、喫煙・高血圧・高コレステロール血症などの危険因子に介入する大規模な無作為割付の計画共同研究となった。全国より、市町村、事業所、保健所から72センターが参加し、1500余名に及ぶ対象者に介入研究を実施できた。6ヵ月間の介入研究期間中における途中脱落者は、5%以下であった。また、医療機関における禁煙指導参加機関は10ヶ所、216名の患者さんが参加した。本介入研究の結果、生活習慣の改善により血圧値、血清総コレステロール値、禁煙率が対照群に比し有意に改善できることが明らかとなり、第1線の保健医療従事者が生活指導を実施することの有用性が明らかになった。生活指導による血圧や血清総コレステロール値の低下の度合は薬物治療に比して大きなものではない。しかし、薬物治療の対象とならない血圧の軽度の上昇と血清総コレステロール値の上昇を多くの国民が示しており、生活習慣の適正化によりこれらの値を低下させることの意義は大きい。

公開日・更新日

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