文献情報
文献番号
199700498A
報告書区分
総括
研究課題名
腎不全の疫学とシステムに関する研究
研究期間 (年度)=1995-1997
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
前田 憲志(名古屋大学大幸医療センター)
研究分担者(所属機関)
- 福原俊一(東京大学医学部国際交流室)
- 三浦靖彦(国立佐倉病院)
- 三木隆己(大阪市立大学医学部)
- 新里徹(名古屋大学大幸医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 疾病対策研究分野 長期慢性疾患総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
35,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
わが国の慢性腎不全の進行を抑制し、最適な治療システムを構築するために、透析患者や移植患者の Quality Of Life(QOL)に関する研究、透析患者の Advanced Directive(AD)についての研究、高齢透析患者に関する研究、保存期腎不全患者のデ-タベ-ス構築に関する研究、在宅血液透析に関する研究を目的とした。
研究方法
I. a. 透析の種類とQOLの関係について418名の血液透析患者と102名のCAPD患者について、腎不全患者のQOLの国際尺度であるKDQOL (日本語版)を用いてQOLと背景因子と関係を検討した。b. 外来通院腎移植患者の疾病経験に影響する外的因子を聴取した後にKDQOLの調査を行い、内容の妥当性を検討した。c. QOLの国際尺度である SF-36とKDQOLの両者を用いて腹膜透析、血液透析、腎移植各患者のQOLを比較した。II. a. 全国20カ所の透析施設の透析患者、医師、家族の透析患者の延命に関する意識を調査した。b. 全国臨床研修指定病院の日本脳卒中学会評議員317名に対して、成人遷延性植物状態患者の医療について調査した。c. Endeの Autonomy Preference Index(API)を改変した質問を用いて上記調査施設の透析患者に対して、透析患者の自立性および情報希求度を調査した。III. 日本透析医学会の統計調査データ及び大阪、愛知県地区データから高齢透析患者の予後関連因子をロジスティック回帰分析で検索した。IV. a. 日本透析医学会の認定施設、教育関連施設の計1,233施設に対して血清クレアチニン濃度が2.0mg/dl以上の慢性腎不全症例のデータベースへの登録を依頼し、且つ既登録症例を追跡調査した。b. 11,311人の追跡デ-タを基に比例ハザードモデルによって保存期腎不全患者の腎機能低下関連因子を解析した。c. 降圧薬の腎機能保持効果について検討した。d. 昨年全国抽出調査によって推計したわが国の保存期腎不全症例総数を、毎年の透析導入症例数から推計し、昨年の推計数と比較検討した。V. a. b. わが国の慢性透析実施施設 (3,135施設) を対象に在宅血液透析に関するアンケ-ト調査を実施した。c. 日本透析医学会の調査報告結果から現行の施設内透析の改良点を抽出し、対策を取りまとめた。
結果と考察
I. a. 透析の種類とQOLの関係:KDQOLによる調査結果では、透析患者のQOLの各指標の値は、役割機能 (身体)、役割機能 (精神)、全体的健康感などを中心に国民標準値よりも低く、血液透析患者の身体機能の得点はCAPD患者より著しく低かった。社会機能では血液透析患者がCAPD患者より著しく高い得点を示した。b.腎移植患者のQOL:インタビューから、慢性拒絶反応に対する恐れ、不安、内服薬の副作用に対する恐れ、不安、moon faceなどの外見上の問題、社会生活における孤独感、疎外感、自己管理での圧迫感、将来への不安、結婚の問題が抽出された。そこでKDQOLに不安、外見上の調査項目を加え、透析に関する項目を除外した調査用紙を作成して本調査を実施した。以上より、わが国の慢性透析療法にはQOLの面からの改善も必要であることが示された。従来の血液透析療法は間欠治療であることが最大の欠点であり、これを補うために症例による CAPD、在宅血液透析、腎移植などがさらに自由に選択できることが大切である。II. a. 透析患者の延命治療に対するADの意識調査:透析患者343名の回答が得られ、心停止時延命処置を希望しない46.8%、重症アルツハイマー病発症時透析治療を希望しない61.0%、この状態で心停止時延命処置を希望しない79.8%であった。末期癌では透析継続を希望しない38.2%、この状態で停止時延命処置を希望しない79.8%であった。b. 成人遷延植物状態患者の医療に関する調査:回答率65%、医師の93%が遷延植物状態患者の診療経
験を有し、18%のADの経験を有していた。家族では経管栄養の中断、肺炎時の抗生物質の不使用、呼吸不全時の人工呼吸器不使用の順に治療を差し控えるとする回答が多かった。c. 透析患者の自立性および情報希求度:520名の回答があり、APIの希求スコアは国民調査の数値より有意に高かった。ADについての3年間に亘る検討から腎不全患者の終末期の延命について患者、家族、特に医師の考え方が明らかにされてきたと考えられる。III. 高齢者透析症例の予後規定因子の値は65歳未満の対照群に比べてアルブミン濃度は94.7%、蛋白異化率は93.0%、1回透析時間は97.3%、Kt/Vは98.7%、ヘマトクリット値は99.2%といずれも低かった。週3回の高齢血液透析患者では4.5時間以上の透析時間、1.6以上のKt/Vで死亡危険度は低下した。CAPDは血液透析に比べ死亡危険度が高いが、positive selection 群では血液透析群より死亡危険度は低かった。6%以上の体重減少率は高齢者群の死亡危険因子であった。以上の解析結果は治療法の改善により、高齢透析患者の予後に改善の余地が大きく残されていることを示している。一般高齢者に共通する問題も指摘されており、至適治療条件をさらに検討する必要がある。IV. a. 保存期腎不全患者のデータベ-スの作成:1997年度の新規登録症例数は1,643人であり、原疾患は慢性糸球体腎炎37.7%、糖尿病腎症24.7%であった。今までに登録された総症例数は11,311名となった。'96年までに登録された9,546人のうち6,337人については1年目までの予後が追跡された。b. アンギオテンシン変換酵素阻害剤服用群の透析導入の危険度は非服用群の0.59倍と低かった。一方、カルシウム拮抗薬服用群では非服薬群に比べ透析導入の危険度が高かった。c. そこでカルシウム拮抗薬の世代別検討が行われた。慢性糸球体腎炎患者2,959人のみについてカルシウム拮抗薬の各世代間の透析導入危険を性、年齢、血清クレアチニン濃度分の1、および平均血圧で数学的に調整した上で比較検討した。何らかの降圧薬を服用しているがカルシウム拮抗薬は服用していない症例を対照群とし、その群の透析導入に対する相対危険を1.000とすると第1世代カルシウム拮抗薬投与群の透析導入に対する相対危険は1.775倍であり、対照群に比べ有意に高い値を示した。同様に第2世代では1.553倍と同様に有意に高く、第3世代でも1.89倍と有意に高い値を示した。これらの結果からカルシウム拮抗薬は何らかの機序により腎機能の低下を促進する可能性が指摘された。また、毎年の透析導入者数と本データベースから算出される透析導入率からわが国の保存期腎不全症例数は142,000人と推計された。この値は昨年の全国抽出調査による推計値154,000人にほぼ一致する。Evidence Based Medicine を実践するためにもデ-タベ-スがさらに充実することが重要である。V. 在宅血液透析に関する検討:a.アンケート回収1,750通、回収率55.8%、在宅血液透析を必要とするもの81.7%、必要理由は施設内治療に比べて自己管理能力が改善する、医学的にも優れた結果が得られている、社会復帰に有利49.9%、QOLの点で優れている41.7%など積極的に効果を認める意見が多かった。透析回数も週3.5~4.0回が望まれている。また、容易に扱える装置、洗浄・消毒の自動化、急激な血圧低下に対する対応機能、開始準備の自動化、運転状況の管理センタ-との通信機能、夜間就眠中の治療についての希望も多く見られた。b. 現行の施設血液透析療法の問題点は、至適透析条件を満たしている症例が少ないことである。この理由として週末には日曜日のために2日間治療を行わないことが挙げられた。1回5 時間以上の治療が出来ない理由として、1日3シフトでの治療を行うため不可能であるなどの社会的条件によって充分な治療が行われていないのが現状である。これらの社会的障害を取り除いて充分な治療を選択する方法として在宅血液透析の制度化は是非とも必要であると考えられる。
験を有し、18%のADの経験を有していた。家族では経管栄養の中断、肺炎時の抗生物質の不使用、呼吸不全時の人工呼吸器不使用の順に治療を差し控えるとする回答が多かった。c. 透析患者の自立性および情報希求度:520名の回答があり、APIの希求スコアは国民調査の数値より有意に高かった。ADについての3年間に亘る検討から腎不全患者の終末期の延命について患者、家族、特に医師の考え方が明らかにされてきたと考えられる。III. 高齢者透析症例の予後規定因子の値は65歳未満の対照群に比べてアルブミン濃度は94.7%、蛋白異化率は93.0%、1回透析時間は97.3%、Kt/Vは98.7%、ヘマトクリット値は99.2%といずれも低かった。週3回の高齢血液透析患者では4.5時間以上の透析時間、1.6以上のKt/Vで死亡危険度は低下した。CAPDは血液透析に比べ死亡危険度が高いが、positive selection 群では血液透析群より死亡危険度は低かった。6%以上の体重減少率は高齢者群の死亡危険因子であった。以上の解析結果は治療法の改善により、高齢透析患者の予後に改善の余地が大きく残されていることを示している。一般高齢者に共通する問題も指摘されており、至適治療条件をさらに検討する必要がある。IV. a. 保存期腎不全患者のデータベ-スの作成:1997年度の新規登録症例数は1,643人であり、原疾患は慢性糸球体腎炎37.7%、糖尿病腎症24.7%であった。今までに登録された総症例数は11,311名となった。'96年までに登録された9,546人のうち6,337人については1年目までの予後が追跡された。b. アンギオテンシン変換酵素阻害剤服用群の透析導入の危険度は非服用群の0.59倍と低かった。一方、カルシウム拮抗薬服用群では非服薬群に比べ透析導入の危険度が高かった。c. そこでカルシウム拮抗薬の世代別検討が行われた。慢性糸球体腎炎患者2,959人のみについてカルシウム拮抗薬の各世代間の透析導入危険を性、年齢、血清クレアチニン濃度分の1、および平均血圧で数学的に調整した上で比較検討した。何らかの降圧薬を服用しているがカルシウム拮抗薬は服用していない症例を対照群とし、その群の透析導入に対する相対危険を1.000とすると第1世代カルシウム拮抗薬投与群の透析導入に対する相対危険は1.775倍であり、対照群に比べ有意に高い値を示した。同様に第2世代では1.553倍と同様に有意に高く、第3世代でも1.89倍と有意に高い値を示した。これらの結果からカルシウム拮抗薬は何らかの機序により腎機能の低下を促進する可能性が指摘された。また、毎年の透析導入者数と本データベースから算出される透析導入率からわが国の保存期腎不全症例数は142,000人と推計された。この値は昨年の全国抽出調査による推計値154,000人にほぼ一致する。Evidence Based Medicine を実践するためにもデ-タベ-スがさらに充実することが重要である。V. 在宅血液透析に関する検討:a.アンケート回収1,750通、回収率55.8%、在宅血液透析を必要とするもの81.7%、必要理由は施設内治療に比べて自己管理能力が改善する、医学的にも優れた結果が得られている、社会復帰に有利49.9%、QOLの点で優れている41.7%など積極的に効果を認める意見が多かった。透析回数も週3.5~4.0回が望まれている。また、容易に扱える装置、洗浄・消毒の自動化、急激な血圧低下に対する対応機能、開始準備の自動化、運転状況の管理センタ-との通信機能、夜間就眠中の治療についての希望も多く見られた。b. 現行の施設血液透析療法の問題点は、至適透析条件を満たしている症例が少ないことである。この理由として週末には日曜日のために2日間治療を行わないことが挙げられた。1回5 時間以上の治療が出来ない理由として、1日3シフトでの治療を行うため不可能であるなどの社会的条件によって充分な治療が行われていないのが現状である。これらの社会的障害を取り除いて充分な治療を選択する方法として在宅血液透析の制度化は是非とも必要であると考えられる。
結論
腎不全患者全般でのQOLの測定結果から、その全貌が明らかになってきており、幾つかのsubscaleで改善が必要である。腎不全症例の終末期に対する考え方についても大略明らかにな
り、ADの適応についても問題点が明らかにされてきている。高齢者透析は多くの問題を含んでいるが従来改善が不可能と考えられていた指標についても改善が可能となり、老化および高齢者問題のモデルとして多くの情報が期待される。わが国の保存期腎不全症例の全貌が明らかになりつつあり、透析への移行をかなり抑制出来ると考えられる。在宅血液透析治療が制度化され、自己管理の向上の下に充実した治療が選択可能になることが望まれる。
り、ADの適応についても問題点が明らかにされてきている。高齢者透析は多くの問題を含んでいるが従来改善が不可能と考えられていた指標についても改善が可能となり、老化および高齢者問題のモデルとして多くの情報が期待される。わが国の保存期腎不全症例の全貌が明らかになりつつあり、透析への移行をかなり抑制出来ると考えられる。在宅血液透析治療が制度化され、自己管理の向上の下に充実した治療が選択可能になることが望まれる。
公開日・更新日
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