慢性関節リウマチの総合治療に関する研究

文献情報

文献番号
199700496A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性関節リウマチの総合治療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
市川 陽一(聖マリアンナ医科大学内科学・臨床検査医学)
研究分担者(所属機関)
  • 山中寿(東京女子医大・膠原病リウマチ痛風センター)
  • 西本憲弘(大阪大学健康体育部)
  • 吉野慎一(日本医大リウマチ科)
  • 近藤正一(国立九州医療センター整形外科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 疾病対策研究分野 長期慢性疾患総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
16,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性関節リウマチ(RA)は慢性に進行し、激しい疼痛、関節破壊はQOLの低下をきたす。また、患者数が数十万人に及ぶことから、社会的ならびに経済的な損失が問題になっている。そこで、新しい治療法の開発については、諸外国でも報告のない抗IL-6R抗体およびCentocor社の抗TNFα抗体の作用機序および臨床効果を検討する。将来の治療法として期待される遺伝子治療についても動物実験を行う。また、生物学的製剤を含む薬物評価のためにはモデル動物の種族特異性が問題になる。そこでRA滑膜組織を用い、構成細胞の混合培養によるin vitro RAモデルおよび免疫不全マウスの関節にこれを移植したin vivo RAモデルの開発を行う。一方、現有治療法を体系化し、現在における最善の治療方法を確立するために「RA治療のガイドライン」を作成する。また、prospective studyにより早期治療の効果およびRA予後因子を明らかにする。さらに、メトトレキサート(MTX)の投与量を増量することにより、抗リウマチ作用の強化と関節破壊抑制を試みる。一方、外科治療に関しては、手術療法の体系化と従来結論の出ていなかった滑膜切除術の有用性を追求する。
研究方法
上述の諸研究を効率よく行うため、いくつかの研究グループに分かれて、また、必要ある分野では協力して行うこととした。このため、研究課題を下記の如く分類した。1.新しい治療法の開発(1)生物学的製剤を中心とした先進的治療の開発、(2)生物学的製剤を含む薬物評価のためのRAモデルの開発とその応用、(3)今後検討すべき新たな治療標的の解析2.現有の治療法の体系化(1)早期RAに対するprospective study から得られたRA予後因子の解析、(2)現時点で最も有効性が高い抗リウマチ薬メトトレキサート使用指針の作成、(3)RAの治療体系における外科治療の位置づけ。
結果と考察
1.新しい治療法の開発 抗IL-6R抗体は我が国で初めて開発されたヒト化モノクローナル抗体であり、しかも炎症性サイトカイン受容体に対する抗体である点、極めて特徴的である。従来の抗リウマチ薬に抵抗性症例において、臨床症状、免疫学的異常の著明な改善、QOLの改善を認めた。このことは、本抗体がRA治療薬として期待されるとともに、IL-6が病態形成に重要な役割を果たしていることを示す(西本)。抗TNFαキメラ抗体はTNFαがRAの病態形成におけるサイトカインカスケードの上流に位置することから、その有効性が期待される。難治性RA2例に試みたところ、投与翌日に臨床症状、検査所見が著明に改善した。本剤は即効性であるが、効果持続期間がやや短く、長期連用時の副作用は今後の問題と考えられた(天野、西本)。滑膜組織で産生されるPGE2は炎症性メデイエーターと考えられてきたが、in vitro RAモデルにおいて、細胞内cAMPを介して抗炎症、抗リウマチ作用を呈することを明らかにした。さらに、lipo-PGE1はコラーゲン関節炎マウスの関節炎ならびに関節破壊防止に有効であった(市川)。これらの成績はPGEの治療薬としての可能性を示すとともに、PGE合成阻害薬であるNSAID投与の再検討を示唆する。IL-10 DNAを組み込んだplasmidをコラーゲン関節炎マウスの皮下に注射したところ、関節炎の程度は明らかに低下し、抗タイプIIコラーゲン抗体産生も抑制された(宮田)。本研究は比較的簡便に遺伝子を導入し、目的とする蛋白を産生し得た点が注目される。抗リウマチ薬の検討には動物モデルなどが用いられてきたが、必ずしもRA患者に対する有効性を正確に予測できなかった。特に生物学的製剤においては、種族特異性のため動物
モデルを使用し得ない。RA患者滑膜構成細胞の混合培養により、in vitroでパンヌス様組織を形成することを見出した。このモデルは多くの抗リウマチ薬が薬理学的濃度でパンヌス形成を阻害した。本モデルは生物学的製剤である抗TNFα抗体、抗CD4抗体においても十分ヒトに対する効果を予測することが出来た(市川)。また、混合培養細胞をSCIDマウスあるいはRAG2Dマウスの膝関節腔に注入したところ、滑膜細胞増殖と骨破壊を来し、in vivo RAモデルとしての可能性が示された(市川)。CD4+細胞表面抗原CD40LはRA滑膜組織に発現され、RA患者関節液中にも可溶性CD40Lが検出された。さらに、in vitroで可溶性CD40LがTNFα、IL-1βの分泌を促進することから、CD40/CD40L系はRA治療の標的となる可能性が明らかになった(山中)。2.現有の治療法の体系化柏崎前班長を中心として、患者教育から始まり、治療方針作成のための疾患活動性を始めとする情報の収集、病期、病態による治療法の選択、薬物療法としてNSAIDs、DMARDs、ステロイドの選択、効果、副作用を明らかにした。また、手術療法の適応、術式の選択、期待される効果について、各障害関節ごとに明確にし、さらにリハビリテーションの実際についてまとめた。これらはRA治療のガイドラインとして、日本リウマチ財団から小冊子として全国に配布された。RA患者141例を対象としたprospective studyを分析した結果、2年後の骨びらんスコアの予測因子は女性、若年、初診時に診断基準を満たすこと、リウマトイド因子陽性、治療薬投与開始までの時間であった。HLA-DR遺伝子の関与は有意ではなかった(山中)。MTX投与量を最大の効果を得るまで最大15mg/日をめどに増量した。その結果、CRP値を2.0mg/dl以下にした症例では関節破壊の進行が少なかった。また、MTX投与の前後36時間以上をあけて1-3日間葉酸を投与すると、治療効果にほとんど影響しなかったにもかかわらず、GOT、GPTの上昇を抑制し、消化器症状のほとんどを改善した。一方、生命に危険を及ぼす副作用として急性間質性肺炎があり、早期発見、早期治療が不可欠である。これらの成績を基本を将来のMTX投与法のガイドライン作成に役立てたい。外科治療に関し、RAにおける単関節滑膜切除術を手関節、肘関節、膝関節に行って良好な結果を得ている(西林)。また、頸椎病変に対する外科的治療の意義について、中長期予後より分析した(米延)。一方、RAの多関節滑膜切除の効果については未だ結論が得られていない。この点について、外科手術における対照研究の行い方、症例の評価方法について検討した(吉野、安田)。
結論
新しい治療法の開発と現有の治療法の体系化を目的に研究を続けた。前者としては抗IL-6R抗体および抗TNFα抗体療法、遺伝子治療、PGEの作用機序、RAモデル作成などの成果をあげることが出来た。また、治療法の体系化についても、RA予後因子、早期治療効果、MTX投与法、外科治療法の体系化について検討し、これらの成果も含めてRA治療のガイドラインを作成、リウマチ財団を通じて配布した。

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