糖尿病の治療に関する研究

文献情報

文献番号
199700494A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病の治療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
赤沼 安夫(朝日生命糖尿病研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 安部隆三(太田西丿内病院)
  • 笈田耕治(福井医科大学)
  • 井藤英喜(東京都老人医療センター)
  • 大橋靖雄(東京大学医学部)
  • 河原玲子(東京女子医科大学)
  • 菊池方利(朝日生命成人病研究所)
  • 岸川秀樹(熊本大学医学部)
  • 小堀祥三(国立熊本病院)
  • 斎藤康(千葉大学医学部)
  • 難波光義(大阪大学医学部)
  • 松岡健平(東京都済生会中央病院)
  • 村勢敏郎(虎の門病院)
  • 山崎義光(大阪大学医学部)
  • 矢島義忠(北里大学)
  • 山下英俊(東京大学医学部)
  • 山田信博(東京大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 疾病対策研究分野 長期慢性疾患総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では糖尿病医療の進歩にもかかわらず慢性合併症を持つ糖尿病患者数の増加が著しい。糖尿病医療に課せられた問題は、これら合併症の発症の抑制、進展の阻止を成し遂げることである。米国ではIDDMに対して既にDCCTが完了し、多くの重要なインフォーメイションが提供され、世界の糖尿病患者の治療に多大な貢献をなしてきた。NIDDMに関しては英国においてUKPDSが現在進行中である。本研究(JDCS)では患者教育を介入手段として生活習慣の変容を求め、もって合併症の低減化を計ろうとするものである。各個研究<A>、米国の生活環境が日系人のNIDDMを著増させるている可能性がある。インスリン抵抗性は糖尿病発症の重要な環境因子である。それゆえ、本研究はインスリン抵抗性の環境要因を明らかにすることを目的とし、遺伝的要因を同一とする条件下でNIDDM発症と環境因子の関連について日米間の差異を検討する。<B>では合併症発症あるいは進展などのエンドポイントを対象とした糖尿病薬の評価のためには、長期かつ大規模な臨床試験が必要である。このような研究を継続する上で必要となるコンピュータシステムの構築を本研究の目標とした。<C>では糖尿病教育スペシャリスト研修ガイドラインの作成を目標とした。糖尿病治療はその管理チームの能力に負うところが大きい。法的規制の範囲内で糖尿病療養指導者の専門性を生かし、より質の高い教育を患者に供給できる能力を修得しなければならないので、本ガイドラインは有用と考える。
研究方法
<JDCS>初年度に中央事務局を東京本郷に設置、電話機5台、ファックス1台、コンピューターを設置し、5人の保健婦を採用して糖尿病の研修を終了し、電話介入を続ける。即ち、登録症例は全て中央管理し、患者には糖尿病手帳を渡し、HbA1c値、食事量、体重、運動量などを記録させ中央から2週間に一度、保健婦が一回に約15分間電話をかけ患者を指導する。生活習慣を積極的に管理する介入群と通常の外来管理の非介入群で、血管合併症の発症進展にいかに影響があったかを検討する。介入においては治療目標値を設定する。<A>先行する米国の調査と可及的同一の評価法を東京近郊在住の日本人に実施し、同一の評価項目について彼我の糖尿病あるいは大血管症発症に対する貢献度の差を比較する<B>DCCT研究の統計センターとして効能したGeorge Washington大学統計センターと連絡をとり統計センターの体制づくりを行う。統計手法については、試験のモニタリングのための方法論を検討する。<C>患者教育担当医師・コメディカルを集め、患者教育におけるコメディカルの役割について討論する。セミナー終了後参加者に「コンプライアンスを向上するために大切なこと」などについてアンケート調査を実施する。次いで、ガイドライン作成の作業に入る。
結果と考察
<JDCS>全国の60施設の積極的参加を得て、糖尿病の管理を行う群と通常治療群とに分けて介入試験が進められている。登録症例数は2548名に達し、その内、平成10年3月9日現在コンピューターへの入力を終了したものは2129症例である。登録症例の内、介入群と非介入群の基礎的臨床データは2群間に有意差をみなかった。そして、3年度に報告された介入1年後の成績についてみると、1年後までで集計されている調査項
目のいずれにおいても介入群と非介入群との間では有意差をみとめなかった。1年目の検査値の相関係数行列をみると、罹病期間と強く関係するものは網膜症と神経障害であり、血清コレステロールや中性脂肪は罹病期間とは逆相関を示していた。一方、血糖値やHbA1cは血中脂質と正相関、網膜症、腎症、神経障害など糖尿病性合併症とは正相関を示していた。また、介入群別にみた諸指標の経時的変化をみると、介入群では僅かではあるがHbA1cが有意に低下した。BMIは両群ともに僅かではあるが有意に低下した。介入群におけるより良い血糖コントロールを得るために、コントロール不良群を抽出してより強い介入を行う予定である。<A>情報ネットワークを構築し、測定値の標準化のための予備試験を行った。米側の資料点検により、血中性ホルモンおよび血清脂質の測定は合致したが、膵ホルモン測定と頚動脈エコーの不一致が指摘された。第2回予備試験では食物摂取頻度調査が行なわれ、1日当たり糖尿病の男性女性とも脂肪比がより高く、食物繊維がより低い傾向を示し、男性被験者ではコレステロール、食塩がより高く、女性被験者ではコレステロール、カルシウムがより低い傾向を示した。今後は大規模な研究に拡大する必要がある。<B>新しく構築した統計解析システムでJDCS1年目迫跡調査結果のまとめとして、1.回収状況は96.5%と良好ではあるが、提出の遅滞は大きな問題である。返却の遅滞による入力の遅れを避けるため入力後問い合わせを行った。本年度から、対象期間内に必ず指定回数の検査を行い、2年目の追跡調査票にもれなく記入するよう徹底する必要があると思われる。集計結果はJDCSの項で報告したが、群内での大きな偏りのある項目は存在しないことが分かった。<C>「糖尿病教育スペシャリスト研修ガイドライン」の作成を終了し、その検討セミナー後のアンケート調査の結果は、全体として、受け入れやすいガイドラインであるという意見が多かった。心理的アプローチに関して、教育理論がどのように応用されるのか具体的記述と位置づけを明確にすることへの要望が多かった。本ガイドラインが療養指導士の教育の向上に役立つことが期待される。
結論
本研究班では、わが国においては、これまでの糖尿病に関する無作為前向き臨床試験のなかでは最も大規模なJapan Diabetes Complications Study(JDCS)を進行させている。症例の無作為割付け後、2群間には諸因子データにおいて差異は認めなかったので、介入をスタートさせた。しかし、保健婦には統一された具体的な指導用ガイダンスを提供して患者への介入を進めた。3年度に報告した1年目の追跡結果では対照群ではHbA1cに変化はみられなかったが、試験群では僅かではあるがHbA1cの有意な低下を認めた。今後は介入群の約三分の一に相当するコントロール不良症例を抽出し、主治医からの介入も強めてより徹底した介入を行ない代謝状態の改善を計る予定である。B研究においては、Feasibility studyの段階を済せ、いよいよ症例の登録の段階に入ってところである。研究経費の大きい研究であるので、その募集方法などは今後に残された課題である。C研究においては、教育理論は重要であり、研修ガイドラインに分かり易く記載すべきであること指摘された。この研究により作製した糖尿病療養指導士のためのマニュアルは広く活用されることが期待される。

公開日・更新日

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