骨・関節破壊病態解明に関する研究

文献情報

文献番号
199700493A
報告書区分
総括
研究課題名
骨・関節破壊病態解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
越智 隆弘(大阪大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田保典(慶應義塾大学医学部)
  • 北島勲(鹿児島大学)
  • 須田立雄(昭和大学医学部)
  • 高橋栄明(新潟大学医学部)
  • 岩本幸英(九州大学医学部)
  • 藤井克之(東京慈恵会医科大学)
  • 伊藤恒敏(東北大学医学部)
  • 三森経世(慶應義塾大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 疾病対策研究分野 長期慢性疾患総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
48,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性関節リウマチ(RA)の病態解明の研究に関しては骨の軟骨破壊機序に的を絞って行われた。内容的には以下の二つに大別された。(I)骨の軟骨破壊の全身性病態として骨髄病態の解明と(II)骨・軟骨局所における組織破壊機序の解明の二つである。(I)RAの骨髄病態の解明の研究では、腸骨骨髄において造血系全般が機能亢進の状態となり、そこで組織破壊に関連する細胞の分化・機能の亢進機序である。(II)骨・軟骨局所における組織破壊機序はRAの骨・関節部位におけるものである。骨・軟骨形成の抑制・骨・軟骨吸収の亢進に関し、細胞のアポトーシス抑制分解酵素(MMPなど)産生亢進などの解明である。RA関節の炎症は薬物治療で抑制できるが、骨・関節破壊を抑えていない。即ちRAによる炎症と組織破壊とは別機序である。まだ未解明の骨・軟骨破壊機序を解明することにより、有効な治療薬を開発し医療上でも社会的にも大きな問題である骨・関節破壊の進行を抑えることを目的とする。
研究方法
RAの病態解明の研究班としては骨・関節破壊機序解明に的を絞り、関節周辺の局所の病態と、それを発症させる全身性の骨髄病態との二項目を絞った研究を進めた。RA患者の骨髄病態は越智班長に、RAの骨破壊機序は高橋班員、北島班員、岩本班員、須田班員、伊藤班員に、軟骨破壊機序は藤井班員、岡田班員、三森班員にお願いした。
結果と考察
・RA患者の骨髄病態:平成2年に厚生省リウマチ研究班が発足して以来、RA患者の基本病巣は骨髄にあるという仮説で研究を進めている。腸骨などの全身性の造血系において各血球細胞系の機能亢進が誘発されるのが基本的な病態と考えている。軽疾病型ではリンパ球系を主体にした機能亢進により免疫反応が前景にでる。重症病型では骨髄球系や単球系の組織破壊に関連する細胞系の機能亢進が前景にでる。軽症でも重症でも病的な機能亢進細胞を維持させる間質細胞(ナース細胞)の存在が病巣形成のキーとなっている。本年の研究報告は越智班長、鈴木研究協力者、広畑研究協力者、内山研究協力者らによるもので、(A) ナース細胞の特性とそこに生じる細胞増殖機序としてのapoptosisの病態、(B) ナース細胞に特異的に反応するT細胞とB細胞クローンの樹立とその特性、(C) RA骨髄由来の単球系細胞によるBリンパ球活性化の特性についてのものである。またRA患者特異的にみられ,骨・関節破壊に関連する因子としての骨髄中のNOの上昇が認められることを土井田研究協力者が報告した。・骨・関節局所病態:a) RA患者の骨破壊病態;骨破壊機序として形成抑制と吸収亢進がおきていることが高橋班員によって示された。ラットのコラーゲン関節炎モデルにおいて成長期では骨形成の低下と骨吸収の亢進が、成熟期ラットでは著名な骨形成低下を認めた。RA患者でも関節炎ラットでも骨髄中のAlp陽性CFU-F数の減少を認め、骨芽細胞の減少は明瞭であった。関節周辺の骨稜にもRA病変が関連する骨萎縮が生じて、関節破壊の原因になっている病態が示された。骨形成の抑制機序解明の研究は北島班員、久保研究協力者によるもので骨芽細胞のapoptosis亢進機序を中心に進められた。TNF-a刺激による骨芽細胞のapoptosis誘導は転写因子NF-kBの抑制により更に強く誘導された。しかしこの誘導はAP1を特異的に抑制することによって阻止可能であった。臨床的に興味深いことに、50PMa以上の静水圧負荷によってもapoptosisが誘導され、荷重負荷と骨形成抑制という現象が示された。 骨吸収については破骨細胞機能亢進を中心に研究
が進んだ。破骨細胞の未分化細胞からの分化亢進は骨髄レベルで越智班長によって示されていたが、関節の滑膜組織からも破骨細胞が分化してくることが岩本班員によって示された。そしてこの破骨細胞の骨吸収機能はアレンドロネートによって抑制されること、LFA-1/ICAM-1 blocking peptideが破骨細胞様多核細胞の分化を抑え治療に応用可能であることなどを示した。また破骨細胞の分化、機能を抑制するビスフォスフォネートは同時に疼痛をも抑制することが西角研究協力者によって報告された。破骨細胞による骨吸収機序としては、サイトカインによるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)産生亢進がある。炎症性骨吸収において作用するMMPに関して須田班員によって報告された。骨吸収に関与し得るもう一つの重要な細胞系として、多形核白血球の骨破壊機能についての組織学的解明が伊藤班員によって報告された。骨破壊に関与する活性因子としての種々の因子が言われているが、織田研究協力者は塩基性細胞増殖促進因子(basic fibroblast growth factor: bFGF)濃度がRA患者特異的に増し関節破壊と関連していることを報告した。b)軟骨破壊病態軟骨破壊機序としてRA患者の軟骨組織そのものにc-fosが発現して能動的な分解機序が誘導されて自壊しているらしいことが示され、この現象は変形性関節症には認められないRA特有のものであることが藤井班員によって示された。関節軟骨そのものがRA患者の関節炎の増悪因子になっている可能性が、コラーゲン特異的分子シャペロンHSP47様蛋白の研究を通して滝川研究協力者に報告された。また、軟骨及び軟骨下組織には免疫複合体の沈着と種々の白血球系細胞の集積が認められ軟骨破壊が関節面からのみでなく、軟骨下からも起きていることが藤井班員により報告された。軟骨破壊機序の重要な活性因子としてのMMPはすでに多種類見い出されている。岡田班員はRA滑膜にMMP-1,2,3,8,9およびTIMP-1,2産生細胞があり関節液中に放出されていること、およびRA関節軟骨にもMMP-1,2,3,7,9,13が局在し軟骨破壊に関与しているらしいことを報告した。また、軟骨破壊に関与する中性プロテアーゼの一つカルパインの特異的阻害物質であるカルパスタチンに対する自己抗体がRA患者に高頻度に産生されて、関節炎の持続と軟骨破壊の原因になりうることが三森班員によって示唆された。c) 関節炎発症との関連滑膜細胞によって産生されるグリオスタチンがRA患者の血清中および関節液中に上昇して関節炎発症と関連するらしいことが加藤研究協力者によって報告された。また尾崎研究協力者は滑膜細胞で産生され自己抗原になっていると思われる蛋白としてホリスタチン関連蛋白のクローニングに成功し、その産生量がRAによる炎症反応の強さと関連していることを報告した。竹内研究協力者はRA滑膜細胞に組織選択的トラッフィングに関与するaEb7発現細胞が増加し、その接着機能も亢進していることを示した。そしてそのリガンドが局在する滑膜表層細胞において炎症の慢性化に関与していることを示唆した。箕田研究協力者はヒトT細胞の血管内皮細胞接着後のtransmigrationを特異的に阻止するモノクロナル抗体4C8抗原を得てRAの病態との密接な関連を示した。松野研究協力者はRA患者の病態としてTNF-a, IL-6が重要な意義をもつことからそれぞれの抗体を用いての治療法開発の一環として、SCIDマウスを用いての治療研究を報告した。
結論
RAの骨髄病態:腸骨骨髄中のリンパ球の増加はFas抗原の抗Fas抗体に対する感受性の低下に起因していた。骨髄中の造血系細胞を特徴的に活性かするのはナース細胞でありナース細胞は骨髄、滑膜由来ともほぼ類似した機能を有し共通の機序で病巣形成に関与していると考えられた。T細胞クローンはHLA-DR拘束性にRA滑膜ナース細胞に反応するとともに、RA滑膜ナース細胞由来の50/25kDaのタンパクに反応性を示した。一方、B細胞クローンは滑膜ナース細胞依存性に増殖すると共に、培養上清中に免疫グロブリンを産生した。RA患者骨髄より得たBMMNC(CD34+細胞)から誘導されたCD14+HLA-DR+細胞がenrichされたpopulationは、ヒト末梢血Bリンパ球を
刺激してIgG産生を誘導することが明かになった。RAの骨破壊には、NOが骨芽細胞や破骨細胞の代謝調節に関与し、重要な役割を演じていることが示唆された。RA患者の骨破壊病態:RAの発症時および病勢増悪時には、骨芽細胞数が減るあるいは機能低下がおこること、TNF-α刺激による骨芽細胞のアポトーシス誘導は、転写因子NF-kBの抑制によりさらに強く誘導されること、骨細胞形成阻害作用によるLFA-1/ICAM-1blocking peptideの慢性関節における骨関節破壊抑制効果の可能性、骨に親和性を有するビスフォスソネートは非ステロイド性抗炎症剤よりも効率的に除痛作用を示すこと、MMPsが炎症性骨吸収における骨吸収の進展とマトリックスの分解に関与すること、RAにおいて顆粒球の造血亢進で増加した未熟顆粒球が骨破壊に直接関与すること、関節液中のbFGFがRAの骨破壊に最も大きく関与していることが示唆された。軟骨破壊病態:RAにおいては、深層に存在する軟骨細胞と軟骨下骨髄との相互作用が、関節炎の初期病変とII型コラーゲンに対する免疫応答の発現に極めて重要であること、RA関節軟骨破壊には滑膜に由来するMMPだけでなく、関節軟骨細胞自身が産生するMMPが重要であること、カルパスタチンに対する自己抗体の産生がRAの病因病態と関与する可能性が示唆された。関節炎発症との関連:抗FRP抗体はRAの治療予後の指標となる可能性、末梢血単球と4C8抗原の発現とRAの病態に密接な関係があること、抗サイトカインmAb療法は、RAの関節炎症を鎮静化させうる新しいRAの治療法として期待されることが示唆された。

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