腎不全の基礎:進行因子の解明と対策

文献情報

文献番号
199700492A
報告書区分
総括
研究課題名
腎不全の基礎:進行因子の解明と対策
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
浅野 泰(自治医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 堀江重郎(東京大学医学部)
  • 木村玄次郎(国立循環器病センター)
  • 林末彦(慶應義塾大学医学部)
  • 清水不二雄(新潟大学医学部腎研究施設)
研究区分
厚生科学研究費補助金 疾病対策研究分野 長期慢性疾患総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
17,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性腎不全にて透析療法に導入される患者数ならびに維持透析療法を受けている患者数はともに相変わらず年々増加し続けている。このことは国民医療および経済の両面から、腎不全に至らせないための予防・治療法の確立が急務となっていることを示すものである。そのためには、腎不全の主要原因疾患でその腎障害発症の原因・機構を明確とし、その予防、対策をたてる必要がある。一方、腎疾患の原因は何であり、一旦、腎障害が発生すると、更に腎障害を進行させることが知られている。その要因として、糸球体血行動態因子、免疫学的異常、糸球体内凝固異常、脂質代謝異常、糖代謝異常、一酸化窒素代謝異常、活性酸素やサイトカインの関与などが挙げられる。そこでこれらの腎障害進展機構と、その相互関与を明らかとし、治療的手段を計ることも重要で、本研究の目的とするところである。
研究方法
(1)腎疾患の発症・進行に関与する遺伝子の解析:最も頻度の高い遺伝性腎疾患である多発性嚢胞腎を対象とし検討を行った。国内外の嚢胞腎患者の遺伝子異常部位を検討し、疾患促進因子の探索と病態の進展のモニター法とを探った。(2)腎疾患の発症・進行に関与する血行動態因子の解析:腎障害に伴う糸球体高血圧は、糸球体硬化を誘発し、ますます腎障害の進行を加速させるという悪循環を形成している。そこで、圧─利尿曲線を利用して臨床的に糸球体血行動態を定量的に算出する方法を検討し、さらに食塩感受性の違いから食塩摂取量を変動させ、腎血行動態に及ぼす影響を検討した。(3)腎疾患の発症・進行に関与する代謝性因子の解析:高血圧発症や動脈硬化性因子として着目されているインスリン抵抗性について、腎炎患者でも検討した。また、糖尿病や動脈硬化において重要な役割を果たすAGEの結合蛋白であるAGE受容体をクローニングし、疾患における役割を検討した。さらに、難治性ネフローゼ患者にLDLアフェレーシスを施行し、消失蛋白バンドの分析を行った。(4)腎疾患の発症・進行に関与する免疫性因子の解析:単クローン抗体(mAb)を応用することにより分子レベルでの検討を行った。片腎摘出ラットに抗Thy-1mAb 1-22-3を静注し、高度の持続性蛋白尿を伴った不可逆性硬化症モデルを確立することを計画した。次いで、この不可逆性モデルを用い、進行に関与する免疫性因子の検討を行った。さらにこの進行性病変を阻止する因子や治療の方法に関する検討を行った。(5)腎不全進行予防対策:43万都市である宇都宮市の基本健診対象者の約8万人を対象とし、受診率、腎障害者の数、年間上昇率等を3年間に亙って調査し、その実体を把握して、今後の対策を検討した。
結果と考察
(1)多発性嚢胞腎の家系調査を行い、PKD1はPKD2、 3より予後が悪いことが分かり、遺伝子異常の部位により差のあることが示された。また、遺伝子異常に加え、何らかの疾患促進因子の存在が想定され、疾患への感受性遺伝子としてclass II、ACE遺伝子多型、Neuropeptide Y受容体遺伝子の重要性が指摘された。また、病態の進展をモニターする手段としてマトリックスメタロプロテアーゼ(MMpq)の活性測定が有用と思われ、MMpqは尿蛋白濃度とよく相関した。(2)過去数年間に亙り、圧─利尿曲線を応用して臨床的に糸球体血行動態を定量的に算出する方法を開発し、血圧の食塩感受性が糸球体高血圧のマーカーとなり得ることを明らかにした。さらに、食塩制限の持つ意義を深く検討したところ、食塩感受性の高い、すなわち腎障害者に食塩摂取量を制限すると、全身の血圧が低下し、尿蛋白排泄量は減少し、血圧の日内変動パターンも正常化し、最終的には
腎障害の進行を抑制すると考えられる結果が得られた。(3)インスリン抵抗性について、腎炎患者でも検討したところ、腎炎患者では腎障害の結果であり、進行因子としては小さいことが示唆された。また糖尿病や動脈硬化において重要な役割を果たすAGEの結合蛋白であるAGE受容体をクローニングし、疾患における役割の検討を開始したが、AGEのメサンギウム細胞内情報伝達にNuclear Factor kBが関与していることが示された。さらに、難治性ネフローゼ患者にLDLアフェレーシス施行後に消失する蛋白バンドが存在することが明らかとなった。この物質が難治性の原因となる物質である可能性が示唆された。(4)単クローン抗体(mAb)を応用することにより分子レベルでの検討を行った。片腎摘出ラットに抗Thy-1mAb 1-22-3を静注し、高度の持続性蛋白尿を伴った不可逆性硬化症モデルを確立することができた。この不可逆性モデルと両腎可逆性腎障害モデルとを比較検討することにより、進行に関与する因子として、補体の活性化、接着分子の発現増強、活性化マクロファージ並びにOX-8陽性細胞の浸潤、a-平滑筋アクチン陽性細胞への転換と同細胞の間質への浸潤、TGF-b、collagen I、III等の発現増強等を指摘することができた。これらを基に、治療予防法確立への道を検討し、補体活性化を阻止する可溶性補体受容体、L-P-selectin阻害剤である硫化ヒアルロン酸、抗繊維化剤、漢方薬、ACE阻害薬等が病変進行を阻止することを明らかにした。(5)43万都市である宇都宮市の基本健診対象者は約8万人であるが、過去3年間で受診率は上昇してきたものの40%と未だ十分とはいえない。また、腎障害が存在することを指摘されても、腎臓病であると自覚しているのは32%に過ぎず、継続受診している者はさらに半数のみであった。この腎障害指摘者数も過去4年間で約2倍に増加しており、腎不全進行の予防対策が急務であり、受診率の向上、異常者への継続受診のすすめ等の広報活動、さらには具体的な食事指導など、保健婦や栄養士の協力を得た総合的な方策の確立が必要と考えられた。
結論
増加し続ける腎不全患者に対して、国民医療および経済の両面からその対策の必要性が高まっている。そこで、本研究では、腎疾患障害の出現、進展悪化の機序を、遺伝子の解析、血行動態因子の解析、代謝因子の解析、免疫性因子の解析の4つの面より検討を行った。その結果、いまだ研究途上の項目も存在はするものの、それぞれの解析において、腎障害の出現機序、進展悪化の機序の一部が明かとされた。また一般国民の腎障害に対する認識を高めて、継続的に治療を行うことの必要性も示された。

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