腎不全の病態と治療に関する研究

文献情報

文献番号
199700491A
報告書区分
総括
研究課題名
腎不全の病態と治療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
川口 良人(東京慈恵会医科大学内科学講座第2)
研究分担者(所属機関)
  • 下条文武(福井医科大学輪唱検査部)
  • 秋澤忠男(昭和大学藤が岡病院内科)
  • 菊地健次郎(旭川医科大学第一内科)
  • 野本保夫(東海大学内科7)
  • 平方秀樹(九州大学付属腎疾患研究部)
  • 秋葉隆(東京医科歯科大学第2内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 疾病対策研究分野 長期慢性疾患総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
28,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
透析療法は末期腎不全患者の生命維持のみならず社会復帰、QOLの向上に寄与しているが、まだ十分な成果を挙げるには至っておらず、5年生存率は約70% である。その理由は長期透析に随伴するまたは、透析継続中に新たに惹起される多くの合併症について発症機序、治療の方策が解明されていないからである。わが国における慢性腎不全対策の基本は、腎移植を受けられる機会の多い欧米諸国と大きく異なり、生涯透析療法に依存しなければならず、長期透析の合併症の対策は緊急の課題である。
研究方法
上に述べた背景から、長期透析合併症の重要かつ、未解決のものを選び、各研究員の得意な研究能力を提供することを前提に、テ-マごとにそれぞれの課題について分担研究者を班長面接の上、決定し、その指名を受けた分担研究者が複数の異なった施設に属する研究協力者を指定して分担研究班を編成した。研究課題は本年度が最終年度あることから過去3年間に渡って実施した本研究班のまとめをまず行い、さらに今後の研究課題の設定につながる内容を明確にするために分担研究者と協議を行った。
結果と考察
下条は透析アミロイドーシスに関して、少量副腎皮質ステロイドによる疼痛の緩解効果、β2吸着カラムの使用による臨床症状の改善について前向き評価を行い確認した。本症の骨・関節病変の発症に沈着したアミロイドがAGE化し、破骨細胞を活性化している病態生理を明らかにした。本症の診断にRI 標識アミロイド・イメージングが有用であることを試験的に確認した。今後の課題として治療の長期成績、骨関節以外のアミロイド沈着の病態生理の解明が必要である。副甲状腺機能低下症は果たして生命予後の危険因子となるか否かについて、本研究班においてその可能性を指摘してきたが、今年度の研究において、秋澤は各患者において透析量と同等の重みで予後決定の因子となっていることを確認した。また骨折の頻度も有意に高いことも明らかにした。2次性副甲状腺機能亢症にPEIT療法の有用性は既に示されているが、本研究班では1週間以内に3回のアルコール注入を行う、短期集中型のPEIT療法が、従来のものに比較して再発率の少ない、優れた方法であることを示した。今後の課題として、この方法の技術的普及と、安全に本治療法を行うためのhard systemの開発・改良が切望される。2次性副甲状腺機能亢進症の遺伝子治療を行うという極めて画期的な実験的試みがなされた。外科的切除、PEIT法以外の治療法となる可能性が開かれたと考えられる。菊池の研究成果は透析患者の死亡原因の多くを占める心事故の研究では明らかな虚血性心疾患、心臓弁膜症、心房細動、房室ブロックを除くと、心不全の発症機序として、まず左室拡張能の低下がおこり、ついで収縮能の低下が起こることを明らかにした。これらの病態の修飾因子として高血圧などに起因する左室肥大が指摘した。本研究は日常汎用される心エコー検査に基ずく結果であり、また本検査は被侵襲的検査法であるとともにいわゆるサテライト透析施設でも定期的に検査を実施出来るものであり慢性透析患者の日常管理プログラムとしての有用性を示したものである。今後、上記の所見を認めた後の時間的生命予後調査、薬物治療の可能性等についての検討が必要である。野本はCAPDに関する研究は長期例に合併する硬化性被嚢性腹膜炎(SEP)について症例の解析から定義、診断法、治療、予後について検討した。この結果は内外の専門誌に発表し、本治療を実施している施設で極めて利用度の
高い指針を作製することが出来た。今後の課題として策定した治療の妥当性についての長期間の検討が必要である。平方は透析患者の脳血管障害に関する研究を担当し、疫学的解析、危険因子の解明とともに透析操作中に起こる中枢神経系の異常を脳循環の面から検討した。心肥大、心臓弁の石灰化、低コレステロールが新たな危険因子として確認された。また今回の研究において透析操作実施中の脳循環測定法を開発することが出来た。この測定法を駆使して透析低血圧、過剰の除水を行う症例、透析液の組成による変化など多くの日常的な病態における脳循環異常についての解明が待たれる。在宅血液透析は患者の社会復帰、透析効率、合併症の軽減などの多くの利点があることは世界的に認知されており、我が国においても選択されるべき、血液浄化法の一体系である。しかしこのシステムの普及には安全な透析機器、モニター類、介助者の援助を僅少とするシステム、透析量の設定など解決しなければならない事項も多く存在する。秋葉は必要な透析液流量を確保するための安全な装置、遠隔操作を行うための透析監視装置通信プロトコールの作製を行った。しかしながら自己穿刺または、自己接続を可能とするブラッド・アクセス、フィルターの問題、頻回透析を行う為に生じる医療経済上の問題は未解決であり、更正医療として本治療法が確立されるためにはさらに学際的研究が必要である。
結論
3年間にわたり分担研究者はそれぞれの課題について一定の治療し指針の策定を行うことが出来た。しかしながら透析導入患者は年々ぞうかの一途をたどり、また長期生存患者患者数も増加している現在、長期透析にともなう合併症の克服は、その病態の不明なものも多くあり、臨床医学の研究者のみならず、社会医学、医療工学、厚生行政の学際的研究がなを求められている分野である。 

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)