診断・治療機器の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199700489A
報告書区分
総括
研究課題名
診断・治療機器の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
松田 武久(国立循環器病センター研究所生体工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本信夫(国立循環器病センター病院脳神経外科)
  • 井街宏(東京大学医学部医用電子研究施設)
  • 小川彰(岩手医科大学脳神経外科)
  • 中沢一雄(国立循環器病センター研究所疫学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 疾病対策研究分野 長期慢性疾患総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
14,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
21世紀の前半に我国に確実に到来する高齢化医療に対応するために、従来にない革新的な医療技術の創製が不可欠になる。このためには、省力化、低侵襲化、高速化、微小化の概念を複合的に組み込んだ診断・治療技術の強く望まれる。循環系医学では、これらの技術をとり入れて冠動脈および脳動脈の狭窄、閉塞、シャント形成を正常化させて血管としての恒常性を発現させることが急務である。これをin situで診断したり、修復・代替するマイクロマシンの開発はこの分野の治療技術を大幅に変えるものと期待される。本研究では、心臓血管及び脳血管系の経皮的診断治療技術の中核技術としての機能的マイクロデバイス及び診断システム及び頻拍・細胞に関する生理学的問題のすうり的解析を新しい概念と技術でもって開発し、これらによって循環器病の日本発の独自のデバイスと医療を創出する基盤を構築する。具体的に、診断方法、診断機器及び治療機器として本研究班で対象としたものは、1)高機能ステント(松田武久)、2)経皮的心補助装置の開発(井街 宏)、3)生体塞栓材料の開発(橋本信夫)、4)頭部頚部血流音検出システムの開発(小川 彰)、5)コンピュータシミュレーションによる頻拍・細動のメカニズムの解析(中沢一雄)
研究方法
高機能ステントに関しては、前年度に開発したエキシマレーザ技術を拡張して多孔質化高分子フィルムの表面機能化を行い、これをステントに組み込むことによる新しいカバードステントの開発について検討した。 PUフィルム表面にエキシマレーザを照射するとミクロンレベルの均質な微細孔が形成された。孔径(10~100μm)はフォトマスクを用いて照射面積を規制することにより、孔配置はコンピュータ制御により調節した。PUフィルム表面に光架橋型ゼラチンとヘパリンをコーティングした後、紫外光を照射し、水洗した。経皮的補助装置については、毎分1~3リットル程度の拍出が可能な簡易補助循環の開発が求められている。経皮的左心補助循環装置(Heart Ranger-L)の開発を進めているが、それに加えて経皮的右心補助循環装置(Heart Ranger-R)を開発した。生体材料塞栓材料については、犬から採取した皮下組織由来線維芽細胞を培養、増殖させ牛由来atelocollagen microspheresの表面に増殖させ(hybrid FC beads)、更にそれを細い血管カテーテルを介して同一個体の腎動脈の閉塞に用いた結果、音響ホログラフィー法を応用した病変位置推定法については、前年度で開発した装置を用いて、臨床例に試み有用性を検討した。対象は、既に脳血管撮影により頭蓋内動脈に血管病変が証明されている症例38例及び、正常群21例。独自に開発した頭蓋内血流音検出装置を用い、前額部に4個の加速度センサを装着後、3分間測定した。4個のセンサ中2個の組み合わせ毎に求めたクロススペクトルの位相の変化率の理論値と、この組み合わせ毎の位相変化率の実測値とから、推定音源位置を導くアルゴリズムを開発し症例に適用した。コンピュータシミュレーションによる頻拍・細動のメカニズムの解析については、FHNモデルの2次元媒質におけるspiral waveは、中心に核と呼ばれる非興奮領域があり、その周囲を興奮波の先端が旋回するが、APD(Action Potential Duration) など、モデルの活動電位波形を変えることによって、spiral waveの核の大きさの変化や多様なドリフト現象(ミアンダリング)を検討した。
結果と考察
高機能ステントの開発は、エキシマ照射したPUフィムルをステント外側に巻き、数カ所を縫合固定した後、フィルム端々に少量のDM
Fを塗布すると、フィルムは互いに融和し、乾燥すると接着し、ステント外面をチューブ状に被覆できた。接着後のフィムル破断強度は弾性率で約半分に減少した。しかし、ステントの拡張により約4倍に延伸しても破断することはなかった。この際、ゼラチン層は剥離せず、フィルムの延伸に追従した。また、バルーンの縮小後もステントは拡大を維持した。水接触角測定による表面物性評価およびX線光電子スペクトル測定による表面元素分析により、PU表面の照射領域のみへのゼラチン層の固定化が示された。また、トルイジンブルーを作用させると青く染色されたことよりゼラチン層内へのヘパリンの包埋を示した。ヘパリンはin vitroで経時的に放出された。ゼラチン層は熱水で激しく洗浄しても剥離することなく強固に接着していた。犬頚動脈への経カテーテル的移植では、経壁的組織構築がおこった。薬物療法に不感の重症の心不全患者に対する補助手段としては第一選択に大動脈バルーンパンピング法(IABP)が第二選択として補助心臓が用いられているが、患者装着手技の煩雑さ、患者への肉体的負担、経済的側面などから両者の中間の拍出能力即ち毎分1~3リットル程度の拍出が可能な簡易補助循環の開発が求められている。経皮的左心および右心装置の最大流量はH Ra-Lは2.7 l/min, H Ra-Rは0.8 l/minであった。解剖学的適合性については術中エコーを使用しMAD-L,Rの流入弁,流出弁,カニューレの作動状態を検討したがいずれも良好に作動し安定した循環補助が行われていた。ヒト剖検例ではH Ra-Lの刺入点での鎖骨下動脈とカニューレとの径の適合性も良好で流入弁,流出弁と心大動脈内での解剖学的適合性も良好であった。Heart Ranger-L補助にHeart Ranger-R補助を追加することにより有効な両心補助が得られた。塞栓材料については、今年度は中長期の閉塞効果を確認した。犬から採取した皮下組織由来線維芽細胞を培養、増殖させ牛由来atelocollagen microspheresの表面に増殖させ(hybrid FC beads)、更にそれを細い血管カテーテルを介して同一個体の腎動脈の閉塞に用いた結果、移植線維芽細胞が血管内に生着、増殖することを前年度確認した。。このことにより従来固体粒子による閉塞は閉塞後再開通が多いと言われてきたがこれにより確実な閉塞効果が期待できるものと思える。単なるcollagen microbeadsのみの機械的な閉塞に比べて、Hybrid FC beadsによる閉塞は増殖した線維芽細胞とそれにより産生されたcollagenにより血管内が創傷治癒における現象であるはん痕形成により密に閉塞されていた。頭蓋内血流音検出装置については、推定位置と実際の病変位置の誤差の平均は16.3mmであった。本法は、従来の音響学的診断で困難であった音源の頭蓋内存在を明らかにし得る点で新しく、病変の局在診断法として臨床応用も可能であると考えられる。頻拍・細胞メカニズムの解析については、APD(Action Potential Duration) など、モデルの活動電位波形を変えることによって、spiral waveの核の大きさの変化や多様なドリフト現象(ミアンダリング)が見られた。3次元媒質では、たとえ均質であっても、2次元では見られないspiral waveの分裂・消滅が確認された。2次元媒質におけるspiral waveは、中心に核と呼ばれる非興奮領域があり、その周囲を興奮波の先端が旋回する。3次元の心臓あるいは心室形状データを取り入れたシミュレーションでも、基本的には単純形状の場合と同様の結果を示し、心室細動時の心臓には、多数のspiral waveが発生していると推測された。媒質が十分大きい場合、spiral waveは消滅や分裂することなく、ずっと継続した。一方、不均質性が入ることによって、spiral waveが容易に分裂し細動に移行した。そして、この特性は、2次元におけるミアンダリングの性質とよく対応し、3次元のspiral waveにおける核(Vortex Filament)の様子から容易に評価することができた。
結論
いずれのシステムについても、初期の目的どおり、臓器工学の新しい概念、技術によって循環器病の診断・治療の基礎を構築した。人工材料および加工技術等の工学的手法によって、高度に複合化した機能
を付与するマイクロデバイスのプロトタイプが作製でき、動物実験によってその機能発現が検討できた。。これらの技術はいずれも国内外にその例をみないもので世界に発信しうる技術の基盤になり得ると考えている。循環系医学へ大きく寄与できるものと期待している。限られた医療分野であるが、高齢社会を先取りする循環器系の医用技術(診断機器及び治療機器)のプロトタイプが構築できた。

公開日・更新日

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