胃上部癌手術における脾合併切除の意義に関する研究

文献情報

文献番号
200824043A
報告書区分
総括
研究課題名
胃上部癌手術における脾合併切除の意義に関する研究
課題番号
H19-がん臨床・一般-016
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
佐野 武(財団法人癌研究会有明病院 消化器外科)
研究分担者(所属機関)
  • 大下 裕夫(岐阜市民病院)
  • 木下 平(国立がんセンター東病院)
  • 齋藤 俊博(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター)
  • 高金 明典(函館五稜郭病院)
  • 田中 洋一(埼玉県立がんセンター)
  • 二宮 基樹(広島市立広島市民病院)
  • 平塚 正弘(市立伊丹病院)
  • 藤田 淳也(市立豊中病院)
  • 藤谷 恒明(宮城県立がんセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
24,153,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
治癒切除可能な上部進行胃癌に対しリンパ節郭清を目的として従来から行われてきた脾合併切除の意義を、前向きランダム化比較試験にて検証する。
研究方法
JCOG胃がん外科グループ30施設による多施設共同研究として行う。標準手術である脾摘に対する脾温存の非劣性を検証するという試験デザインをとる。対象は75歳以下の治癒切除可能な上部進行胃癌患者で、T2/T3/T4、N0/N1/N2、術中洗浄細胞診が陰性、胃の大弯線に病変が及ばない、4型癌(スキルス)でない症例。術中の電話中央登録方式にてランダム割り付けし、脾摘群では膵脾を脱転してD2郭清を行い、脾温存群では膵脾を脱転せず、No.10を除くD2郭清を行う。
結果と考察
平成14年6月から症例登録を開始し、平成18年7月までに目標症例数の64%に当たる319例を登録していた。しかしこの時点で、胃癌補助化学療法の多施設共同研究ACTS-GCにて経口抗癌剤S-1の投与群の生存期間が手術単独群を上回ることが判明し、本研究が従来通り補助化学療法なしに患者登録を続けることは非倫理的であると考えられたため、登録を一時停止した。平成18年11月の追跡調査結果に基づき、12月に第1回中間解析が行われ、試験の継続が決定された。これを受けてプロトコール改訂を行い、Stage II、III症例では脾摘群、脾温存群ともに術後にS-1を投与することとした。またこれまで他試験との重複を避けるために除外していた食道浸潤胃癌も対象に加えることとした。平成19年8月末から登録を再開し、停止前を上回るペースで順調に進み、21年3月、505例をもって登録を完了した。
 上部進行胃癌の予後は胃下部の癌に比べて不良である。欧米では、胃全摘における脾摘は合併症および術死を増加させるため避けたほうがよい操作とされており、わが国でも、肥満患者・高齢患者の増加に伴い、安全性を重視して省略される傾向が見られる。しかしこれにより、腫瘍の局所制御が悪化して治療成績が下がるとすれば重大な問題である。根治性を落とすことなく脾摘を省略できるか否かは、ランダム化臨床試験によってのみ明らかとなる。
結論
本研究は、脾摘に関して現在世界で行われている唯一のRCTと考えられ、これまでのいかなる脾摘RCTよりも多数例を集積して登録を完了した。今後の追跡生存調査と解析により確固たるエビデンスを築くことができ、わが国のみならず国際的にも有用な情報を発信することができる。

公開日・更新日

公開日
2009-04-16
更新日
-