難治疾患・少疾患に対する医薬品の適応外使用のエビデンスに関する調査研究

文献情報

文献番号
199700486A
報告書区分
総括
研究課題名
難治疾患・少疾患に対する医薬品の適応外使用のエビデンスに関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
津谷 喜一郎(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 オ-ファンドラッグ開発研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
57,671,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「医薬品適応外使用」とは、企業による申請がなく日本では承認されていないが、日本国内あるいは海外における有効性、安全性の情報にもとづき日本で使用されているものである。ただし、この情報のエビデンスのレベルには高低がある。こうした医薬品の適応外使用の有効性、安全性に関して、それぞれのリサーチクエスチョンについて、全世界より臨床試験の情報を収集し、その質評価を行い、その統合を行うシステマティックレビューを行い、エビデンスのグレーティングを行い、質の高い情報を関係機関に提供し、その医薬品のより合理的使用に供することを目的する。
研究方法
研究のスコープは、(1)平成7年度と平成9年度前期に厚生省などによりなされた特定疾患(難病)に対するアンケート調査によるもの、(2)日本臨床薬理学会からの要望、(3)日本小児臨床薬理学会からの要望、をあわせ、医薬品と疾病との組み合わせで約数百のリサーチクエスチョンである。以下、研究方法をStep順に示す。
Step1.リサーチクエスチョンの明確化と数の同定(日本語と英語で)
Step2.システマティックレビューのデータベースであるコクランライブラリを用いて、すでにレビューが完了しているかどうかを検討する。
Step3.Physician's Desk Reference(PDR)にその適応が記載されているかのチェック
Step4.MedlineによるClinical TrialのPublication Type,JMEDのヒトを対象とした文献の検索
Step5.上記Step3とStep4、さらに、エビデンスの有無の予備的解析をもとに、重点リサーチクエスチョンと普通リサーチクエスチョンにわける。
Step6.下記のデータの収集と一元的データベース(仮称SREDOLU:Systematic Review of Evidence of Drugs' Off-Label Use)管理(File Maker Pro+リンクのソフトを用いる)。(1)各特定疾患分科会、(2)製薬企業、(3)医学情報サービス機関によって検索される(1)と(2)を補足する情報。
Step7.文献のエビデンスのレベルのグレーディングと要約化
(1)各特定疾患研究班員などをカウンターパートとし、その協力を得て本研究班協力員が行う。(2)作業の効率的運用のために、エビデンスとは何か、またはシステマティックレビュー(質評価を含む)についての、本研究班関係者対象のワークショップを開催する。
Step8.リサーチクエスチョンそれぞれのエビデンスのレベルを表わした表の作成(一部、評価中も含まれる)。
Step9.関連文献の日本語訳。Step10.成果のCD-ROM化。
結果と考察
結果をStep毎に示す。
Step1.医薬品200種に対しリサーチクエスチョンの数は約400と判明した。リサーチクエスチョンの明確化が進行した。
Step2.コクランライブラリの検索により「クローン病寛解維持のためのアザチオプリン」、「満期前出産児の無呼吸に対するメチルキサンチン療法」など、すでにレビューが完了しているものが判明した。
Step3.PDRに、医薬品とその適応が記載されているものは企業へのアンケートに対する回答で52種であった。だたし、リサーチクエスチョンがなお確立しないものがあるため、Step1の作業を進めるにつれてアウトカムがPDRの記載といくらか異なるものが生じた。
Step4.Medlineに収録され、Publication TypeとしてのRCTやCCT(controlled clinical trial)とindexされるものは、そのすべてがコクランライブラリー中のCENTRALデータベースに含まれる事が判明したため、検索はこちらを用いてなされた。RCT/CCTが1つも存在しないリサーチクエスチョンについては、今後の作業の優先度は少ないとされた。 JMEDはシソーラスの発達が未定であり、エビデンスの高い論文を効率的に収集するには問題があるなどの点が明らかになり、将来への対策が計画された。
Step5.上記Step3とStep4、さらに、特定疾患を担当する厚生省保健医療局エイズ疾病対策課がこれまで収集した情報をもとに、第1次レビューのリサーチクエスチョン約80とその他のリサーチクエスチョン約320にわけた。
Step6.(1)特定疾患研究班のうち、これまでの調査でリサーチクエスチョンの存在する30の分科会と(2)全55の製薬企業へのアンケート,(3)国際医学情報センター(IMIC)によって検索された補足的文献の収集により、CCT,RCT,Double-blind-RCT,Meta-analysisの論文数や書誌データを含むデータベース(仮称SREDOLU)が作成された。
Step7.文献のエビデンスのレベルのグレーティングがAHCPR(1993)の表を用いてなされた。エビデンスの理解と本研究班の目的と方法とを知らせ、今後の作業の効率的運用のために、1998年3月14日に「医薬品の適応外使用とエビデンス」のワークショップを開催し、特定疾患研究班員55名の参加があった。ワークショプの教育効果が示された。
Step8.第1次レビューのリサーチクエスチョンそれぞれのエビデンスのレベルを表わした表(ver.1)が作成され、厚生省健康政策局研究開発振興課へ提出され、(財)ヒューマンサイエンス振興財団による官民共同型の公募研究応募ためのプライオリティセッティングに生かされた。
Step9.コクランライブラリでレビューが完了しているものの日本語訳がなされた。またCDSRのアブストラクトの訳が進行し、素訳が上記Step1.2などで用いられ、また、最終版の訳のweb化や出版計画がたてられた。Step10.成果のCD-ROM化が計画された。
以上の結果と本研究の実施プロセスより、本プロジェクトは「研究」というより、他の研究などのプライオリティセッテイングを含み、医療の場における合理的意志決定を支援するためのインフラストラクチャーを作成する「業務」としての意味が強いことが明らかとなった。一定数のスタッフと財政的基盤をもち、システマティックレビューのデータベース管理、教育、情報収集と交換を継続的に行う機関設立の必要性が認識された。また、その運営は弾力的なものであるべきで、財団やNPOなどの形態が望ましいと考えられる。
結論
日本における医薬品の適応外使用について、約400のリサーチクエスチョンが判明し、その明確化が進行した。これまでのアンケートの調査や特定疾患研究班分科会や製薬企業への新たなアンケート調査、また文献検索の結果の、一元的データベース化を実施した。このうち、米国のPhysician's Desk Reference(PDR)に適応があるものなど約80を1次リサーチクエスチョンとし、そのエビデンスのグレーティングを行い、厚生省健康政策局研究開発振興課へ報告し、平成10年度の創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業応募対象リサーチトピックのプライオリティ・セッティングに用いられた。エビデンスの高いものはブリッジングスタディなどを経て、承認申請にもっていこうとするものである。一方、特定疾患研究班の班長や当班のカウンターパートを対象としたワークショップを開催し、エビデンスについての理解を深め、また、関連文献の日本語化を進め、今後の作業の効率化を行なった。本研究で採用された、コクラン共同計画をモデルとするシステマティックレビューの方法とその結果は、臨床現場のみならず、厚生行政における合理的な意志決定を強力にサポートするものとして非常に有用であることが示された。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)