文献情報
文献番号
199700484A
報告書区分
総括
研究課題名
インスリン依存型糖尿病患者における腎症の治療薬の開発研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
片山 茂裕(埼玉医科大学)
研究分担者(所属機関)
- 吉川隆一(滋賀医科大学)
- 磯貝庄(東邦大学)
- 佐々木望(埼玉医科大学)
- 松浦信夫(北里大学)
- 田嶼尚子(東京慈恵会医科大学)
- 浦上達彦(日本大学)
- 内潟安子(東京女子医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 オ-ファンドラッグ開発研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
IDDMは、ウィルス感染や自己免疫機序により膵β細胞が破壊され、若年者に急激に発症する糖尿病である。高血糖に起因する種々の糖尿病性合併症が発現してくるが、なかでも、糖尿病性腎症による腎不全は最終的には30~40%の患者におこり、血液透析が必要である。まず、最初にわが国でのIDDMの発症率・有病率を明らかにし、あわせて糖尿病性腎症の発症頻度と予後を明らかにする。ついで、IDDMにおける腎症の発症と進展機序や、本症におけるACE阻害薬の有用性を明かにすべく、基礎的検討を行う。最後に、ヒトIDDM患者の糖尿病性腎症の予防あるいは進展遅延を目指して、蛋白尿あるいは微量アルブミン尿を有するIDDM患者にACE阻害薬を投与する多施設共同研究を行う。
研究方法
オ-ファンドラッグ開発研究事業の一環として、インスリン依存型糖尿病(IDDM)患者における糖尿病性腎症の治療研究班が平成7年度に組織された。小児期発症IDDMの早期腎症の実態を明らかにするため、population-based surveyを行った.今回構築したIDDMコホートは,1985年から1994年に診断され,東京に在住している15歳未満発症IDDM176例である.対象となった症例の1995年1月1日現在の持続性蛋白尿及び微量アルブミン尿に関して,主治医に質問票調査を行った.また、基礎研究として、IDDMのモデル動物であるストレプトゾシンで糖尿病を発症せしめたラットや自然発症糖尿病BB/W//Tkyラットにおいて、生化学的あるいは組織学的な検討を行った。さらに、培養メサンギウム細胞を用いて、腎症の発症機序の分子生物学的検討も行った。
結果と考察
一昨年度までに、追跡後5年、10年、15年までの血液透析導入という末期腎不全の累積発症率を、それぞれ0%、2.0%、9.4%と明らかにしたが、昨年度には、追跡率を95%に上げて15年、25年後の血液透析導入率を求めたところ、それぞれ6.4%、28.0%に達することが明らかになった。本年度の東京に在住している15歳未満発症IDDM176例からなるIDDMコホートの調査結果では、最長10年の追跡によって、人年法による発生率は、持続性蛋白尿が2.2/1,000人年、微量アルブミン尿が10.0/1,000人年となった。本症の遺伝的背景についても、検討が行われた。すなわち15年以上の罹病期間を持った日本人IDDM患者における糖尿病性腎症の発症に、アンジオテンシン変換酵素(ACE)およびAngiotensinogen遺伝子の多形性は有意な相関を示さなかったが、両遺伝子多型性のうちACE DD genotypeがIDDM患者の第一度近親者の虚血性心疾患の発症と強い相関を示した。
糖尿病がどのような機序で腎症を引き起こすのか、あるいはACE阻害薬の有効性を証明するための基礎的実験が本年度も引き続き行われた。昨年度、糖尿病ラット糸球体において、MAPK cascadeが活性化されていること、および糸球体高血圧に起因して生じる圧負荷(周期的伸展刺激)により、メサンギウム細胞の細胞外基質産生が増強されることを報告した。本年度は、細胞内情報伝達異常として、ERKは周期的伸展刺激により活性化され、その下流で調節を受けるAP-1のDNA結合能を亢進させることが明らかになった。この結果より周期的伸展刺激は高糖濃度条件下培養メサンギウム細胞におけるERKの活性化とは異なった機序でERKを活性化している可能性が示唆される。また、糖負荷と圧負荷がメサンギウム細胞の細胞外基質産生に対し相加的に作用することが明らかにされた。また血管拡張因子である一酸化窒素(NO)の低下が関与する可能性も示された。昨年度までに、ストレプトゾトシン糖尿病ラットで糸球体基底膜の陰性荷電の減少し、糸球体のポアサイズが増大することが明らかにされた。本年度には、ACE阻害薬のカプトプリルがポアサイズの増大を抑制することが明らかにされた。多施設共同臨床試験に用いられるカプトプリルとイミダプリルの二つのACE阻害薬を、IDDMのモデル動物である自然発症糖尿病BB/W//Tkyラットに投与したところ、両ACE阻害薬は本モデルでは尿中アルブミン排泄量を抑制しなかったが、組織学的に腎メサンギウム領域の拡大を阻止した。これらのことより、本薬が糖尿病性腎症の発症とその進展を予防する可能性が示唆された。
平成7年度に作製されたプロトコ-ルに基ずいて、微量アルブミン尿あるいは蛋白尿を有するIDDM患者にACE阻害薬を投与する多施設共同臨床試験が全国94施設で開始された。もともと症例数が少ないことや、作今の社会情勢から臨床試験の同意が得にくい状態にある。しかしながら、登録症例数は昨年度末の9例から42例に増加した。試験開始後既に6カ月を経過した19例のうち、尿中アルブミン低下例が11例、上昇例が8例であり、今後の結果が期待される。
糖尿病がどのような機序で腎症を引き起こすのか、あるいはACE阻害薬の有効性を証明するための基礎的実験が本年度も引き続き行われた。昨年度、糖尿病ラット糸球体において、MAPK cascadeが活性化されていること、および糸球体高血圧に起因して生じる圧負荷(周期的伸展刺激)により、メサンギウム細胞の細胞外基質産生が増強されることを報告した。本年度は、細胞内情報伝達異常として、ERKは周期的伸展刺激により活性化され、その下流で調節を受けるAP-1のDNA結合能を亢進させることが明らかになった。この結果より周期的伸展刺激は高糖濃度条件下培養メサンギウム細胞におけるERKの活性化とは異なった機序でERKを活性化している可能性が示唆される。また、糖負荷と圧負荷がメサンギウム細胞の細胞外基質産生に対し相加的に作用することが明らかにされた。また血管拡張因子である一酸化窒素(NO)の低下が関与する可能性も示された。昨年度までに、ストレプトゾトシン糖尿病ラットで糸球体基底膜の陰性荷電の減少し、糸球体のポアサイズが増大することが明らかにされた。本年度には、ACE阻害薬のカプトプリルがポアサイズの増大を抑制することが明らかにされた。多施設共同臨床試験に用いられるカプトプリルとイミダプリルの二つのACE阻害薬を、IDDMのモデル動物である自然発症糖尿病BB/W//Tkyラットに投与したところ、両ACE阻害薬は本モデルでは尿中アルブミン排泄量を抑制しなかったが、組織学的に腎メサンギウム領域の拡大を阻止した。これらのことより、本薬が糖尿病性腎症の発症とその進展を予防する可能性が示唆された。
平成7年度に作製されたプロトコ-ルに基ずいて、微量アルブミン尿あるいは蛋白尿を有するIDDM患者にACE阻害薬を投与する多施設共同臨床試験が全国94施設で開始された。もともと症例数が少ないことや、作今の社会情勢から臨床試験の同意が得にくい状態にある。しかしながら、登録症例数は昨年度末の9例から42例に増加した。試験開始後既に6カ月を経過した19例のうち、尿中アルブミン低下例が11例、上昇例が8例であり、今後の結果が期待される。
結論
一応の疫学的・基礎的検討を終了した。ACE阻害薬が本症の進展防止に有効であることが動物実験で確認されたので、今後さらに多くの患者さんに多施設臨床試験に参加していただき、ACE阻害薬がIDDM患者における腎症に有効であることを証明したい。
公開日・更新日
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