薬物依存・中毒者の疫学調査及び精神医療サービスに関する研究

文献情報

文献番号
199700480A
報告書区分
総括
研究課題名
薬物依存・中毒者の疫学調査及び精神医療サービスに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
寺元 弘(国立下総療養所)
研究分担者(所属機関)
  • 福井進(三芳病院)
  • 和田清(精神保健研究所)
  • 尾崎茂(精神保健研究所)
  • 堤邦彦(北里大学病院)
  • 阿部恵一郎(八王子医療刑務所)
  • 寺元弘(国立下総療養所)
  • 関紳一(埼玉県立精神保健総合センター)
  • 山内直人(千葉大学医学部)
  • 岡江晃(京都府立洛南病院)
  • 前岡邦彦(瀬野川病院)
  • 清水新二(精神保健研究所)
  • 永野潔(関東労災病院)
  • 小沼杏坪(国立下総療養所)
  • 鈴木健二(国立療養所久里浜病院)
  • 中谷陽二(東京都精神医学総合研究所)
  • 中野良吾(精神保健研究所)
  • 柳橋雅彦(千葉県精神保健センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 麻薬等対策総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
27,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「薬物乱用・依存の多面的疫学調査研究」(第1グループ)のグループは、「薬物依存・中毒者の専門的・包括的精神医療サービスに関する研究」(第2グループ)のグループと対をなしており、両者合わせて「薬物依存・中毒者の疫学的調査と精神医療サービスに関する研究(主任研究者・寺元弘)」の全体を構成している。
(第1グループ)わが国では、覚せい剤と有機溶剤が主要な乱用薬物として長年にわたり乱用されており、社会、医療面に多大の影響を及ぼしてきた。覚せい剤は昭和45年(1970)より、再度わが国の社会で乱用され始め、平成8年(1996)は、19,666人に達した。特に高校生に代表されるように覚せい剤乱用の若年化が報告され、深刻な状況を迎えている。「薬物乱用・依存の多面的疫学研究」グループ(総括分担責任者福井進)の研究目標は、わが国の薬物乱用・依存の動向と実態を明らかにするとともに、薬物乱用・依存の早期発見、治療・予防・教育・研究対策を考える基礎資料の作成にある。薬物乱用・依存の世帯調査は、平成4年度に始まった「薬物乱用・依存の社会医学的、精神医学的特徴に関する研究」の中で行われたが、本調査の主目的は最近の違法薬物使用者の発生率の把握である。
(第2グループ)本研究は先行する関連研究に比べ、視点を国レベルから精神医寮サービスの利用者である薬物依存者に一層接近させ、府県レベル、地域レベルにおいて、その専門的かつ包括的な精神保健・医療・福祉サービス体制を構築するために役立つモデルを提供するなど、実証的で有効な行政上の基礎資料を提供することを目的とした。
研究方法
(第1グループ)?薬物乱用・依存の世帯調査では、15歳以上の男女、5,000人を層化2段無作為抽出法にて選び、調査は個別訪問留置法を用いた。?中学生における「シンナー遊び」・喫煙・飲酒についての調査では、平成8年度は全国108校の中学生 54,122人を対象に実態調査を実施した。?精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査では、薬物乱用・依存の動向と、覚せい剤症例の「症状の遷延・持続」の要因について調査した。?救命救急医療センターにおける薬物乱用・依存者に関する研究では、平成7年度より、精神科外来の医療施設で薬物関連障害を多く受診する救命救急医療センター(北里大学)の実態調査を施行してきた。?児童福祉施設(教護院)における有機溶剤乱用少年・少女の実態調査では、国立武蔵野学院(教護院)、児童福祉施設(教護院)、全国の教護院(57施設)を対象として薬物乱用の実態調査を施行した。
(第2グループ)調査研究の精度と費用効率を上げるために、全国的にみて先駆的に比較的多くの薬物依存者の診療実績をもつ精神科医療施設17施設を研究協力施設として依頼し、各施設毎に最低1名の研究協力者を得るなど、研究体制の充実を図った。?<精神作用物質使用による精神及び行動の障害>の患者に関する標準データ・ベースの作成と調査の実施、?都道府県レベル(埼玉県、千葉県、京都府、広島県の4県を選んだ)での薬物依存・中毒者に対する専門的医療サービス体制の検討、?地域レベルでの薬物依存・中毒者に対する福祉対策モデルの検討、また、薬物依存・中毒専門病棟の治療的構造に関する研究、?治療上の困難性を有する特殊な薬物依存・中毒のケア・グループの治療処遇に関する研究として、生活保護受給歴を有する薬物関連精神疾患患者、若年薬物依存症の臨床精神医学的特徴や矯正施設入所歴を有する薬物関連精神疾患の臨床的特徴について、平成9年11月第3水曜日を調査日として現在入院中の患者につき調査を依頼し、合計 131例の報告を得て分析を行った。?看護婦(士)・保健婦(士)教育施設における薬物依存に関する教育の実態:アルコール依存に関する教育との比較からでは、全国 634施設を対象とし、調査票を郵送により配布・回収した。?精神保健福祉センターを中心とした有機溶剤乱用・依存者に対する関係機関の連携による包括的治療・処遇体制の検討では、関係機関の「業務連絡会」、「事例検討会」、「有機溶剤等“依存"を考える会」等を開催した。
結果と考察
(第1グループ)薬物乱用・依存の世帯調査では、最近、年間に薬物を使用したと疑われる人は、有機溶剤0.3~0.9%、覚せい剤0.1~0.5%、大麻0.06~ 0.3%と推察する。また、8年度は、平成6年度、7年度の結果と比較して有機溶剤乱用は減少傾向、大麻の潜在的乱用者が予想以上に多いことが判明した。?中学生における「シンナー遊び」・喫煙・飲酒についての調査研究では、日本の中学2年生の「シンナー遊び」の生涯経験率は1.0%、覚せい剤0.3%、大麻0.5%であった。また、飲酒経験率は日本 70.3%対米国55.3%であり、喫煙経験率は日本23.1%、対米国49.2%であった。日本の中学生の飲酒経験率の高さについて文化的違いを指摘した。?精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査では、薬物乱用・依存の動向と、覚せい剤症例の「症状の遷延・持続」の要因について調査した。その要因として、「遷延・持続型」は「早期消退型」より年齢が高いこと、覚せい剤乱用者は有機溶剤使用の既往をもつものが多いが、有機溶剤の使用年齢がより低いこと、4剤以上の薬物の使用の既往を示す比率が高いことなどが考えられたが、今後さらに検討していく課題である。?救命救急医療センターにおける薬物乱用・依存者に関する研究では、平成7年度より、精神科以外の医療施設で薬物関連障害患者が多く受診する救命救急医療センター(北里大学病院)の実態調査を施行してきた。精神分裂病、躁うつ病などで平素精神科に受診している例が多かった。また、救命救急医療施設に搬送される患者には、向精神薬が一次的、二次的に関係していることが多いと指摘した。?児童福祉施設(教護院)における有機溶剤乱用少年・少女の実態調査では、覚せい剤、有機溶剤乱用少年・少女を中心に比較検討した結果、覚せい剤乱用の増加と有機溶剤乱用の減少が特徴であった。覚せい剤乱用の増加は女子の乱用の急増(男子は微増)が大きな要因であったことがことが判明した。
(第2グループ)薬物依存専門治療病棟の治療構造に関する研究では、マン・パワーの主要な部分を構成している看護職員に注目して、調査研究を行い、薬物専門治療病棟に対する忌避感情を払拭するべき看護配置の方針を示唆した。また、矯正施設入所歴を有する薬物関連精神疾患患者の臨床的特徴を 361例を対象に調査・分析した。矯正群と非矯正群の比較、矯正群を若年群(37歳以下)と高年群(38歳以上)の2群に分けて両者を比較した結果、医療と矯正との連携確立が今後の課題と考えられた。地域レベルでの薬物依存者に対する社会福祉体制の調査研究では、?大阪地区において、地域社会全体を福祉サービス資源と見直す立場から、一般成人男子を対象に薬物依存に関する意識調査を行った。また、?京浜地区では、横浜地区のドヤ街に居住する生活保護受給中の薬物問題を有する事例について詳しく検討し、対策として治療共同体の理念に基づく社会復帰施設の創設・運営の必要性を強調した。薬物依存症の相談・治療・アフターケアに関するマン・パワーの専門的教育・研修体制に関する研究では、看護婦(士)、保健婦(士)を取り上げ、全国の教育施設における講義と見学・実習の実態調査を行った。結果、研修体制の不備が明白となった。 精神保健福祉センターを中心とした有機溶剤乱用・依存者に対する関係機関の連携による包括的治療・処遇体制に関する研究では、千葉県精神保健福祉センターを中心として、医療・司法・行政及び教育関係機関の実務担当者により定期的な事例検討会を積み重ね、関係機関相互のために役立つ小冊子を纏めた。
結論
(第1グループ)疫学研究の意義と今後の研究の進め方として、薬物乱用・依存の実態を把握するためには、対象が異なる様々な角度から薬物乱用をとらえることができる多面的疫学調査が必要である。主要目的である「違法薬物使用者」率は低率で統計的に同定できなかったが、発生率の課題は、継年的に調査を繰り返す中で、使用経験以外に薬物乱用者の周知、薬物乱用への誘惑などの設問を研究することにより解決されていくと考える。中学生における「シンナー遊び」・喫煙・飲酒についての調査研究は調査対象の中学生及び調査地区を拡大しながら、平成8年度にわが国で初めての5万人を越える全国の中学生の実態調査を施行した。未成年者の有機溶剤離れがいわれているが、「シンナー遊び」が依然として中学生の間で続いていること、喫煙、飲酒を含めた依存性物質に対する学校教育のあり方を根本的に検討しなければならぬ必要を示唆した。この調査は、精神科を受診した薬物乱用・依存者の実態のみならず、設問により病態、発生要因、治療、予後など幅広く調査が可能な有益な調査である。「救命救急医療センターにおける薬物乱用・依存者に関する研究」は、薬物の社会的流行の情報をいち早く入手できる部門であり、薬物乱用・依存の疫学調査研究の重要なフィールドである。3年間の調査研究で調査内容と調査方法も大体において確定した。これらの多面的な疫学調査を経年的に施行することにより、結果を総合的に比較検討して、薬物乱用・依存の今日的特徴と実態が明らかになり、統計学的意義がでてくると考える。最近の薬物乱用の動向を考えると、薬物乱用の流れは刻々と変化していることが分かる。従って、その実態、動向の把握には経年的かつ多面的な疫学調査が必要であると信じる。
(第2グループ)埼玉県、千葉県、京都府及び広島県をモデルとして、?公的な精神科医療施設の配置状況、薬物依存専門治療施設(病棟)の有無、保健所・精神保健福祉センターでの相談体制、?精神科救急システムの整備状況、?薬物の事例に関わる関係機関の相互間の連携の状況などについて、4府県の現状を分析し、その上で今後、都道府県レベルで薬物依存者に対する専門的地域精神医療体制を構築するために、比較的実現可能と思われる提言を纏めた。すなわち、?薬物依存者の入院治療体制の構築、?薬物依存者の相談体制の整備、?薬物依存の専門的治療経験の蓄積とマン・パワーの研修体制の整備の必要性、?薬物依存者のための公的な社会復帰施設の整備・運営の必要性、?薬物専門の社会復帰施設に期待される機能について提言した。

公開日・更新日

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