ヒトがんで高頻度に変異・発現亢進・活性化している遺伝子を標的とした新たな治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200823023A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトがんで高頻度に変異・発現亢進・活性化している遺伝子を標的とした新たな治療法の開発に関する研究
課題番号
H19-3次がん・一般-009
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
北林 一生(国立がんセンター 研究所 分子腫瘍学部)
研究分担者(所属機関)
  • 堺 隆一(国立がんセンター 研究所 細胞増殖因子研究部)
  • 荒川 博文(国立がんセンター 研究所 生物物理部 )
  • 増富 健吉(国立がんセンター 研究所 がん性幹細胞研究プロジェクト)
  • 江成 政人(国立がんセンター 研究所 生物学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
61,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がんの革新的な治療法の開発を目的として、がんの分子標的療法の標的として有効であることが期待される遺伝子産物の生物学的及び生化学的な機能やその分子経路の解明を行い、これらの作用を阻害する化合物をスクリーングし、分子標的治療薬の候補を同定する。
研究方法
(1) 化学療法に対して抵抗性を示すがん幹細胞の未分化性の維持や増殖を制御する因子、(2) ヒトがんで高頻度に活性が亢進し癌細胞の増殖に必須であるチロシンリン酸化シグナル伝達分子、(3) ヒトがんで異常を生じている様々な細胞死誘導経路、(4)、ヒトがんで高頻度に変異が認められるがん抑制遺伝子p53や白血病関連因子AML1の抑制因子、(5) ヒトがんで高頻度に発現が亢進しているテロメレース、などの作用機序を明らかにし、これらを標的とした阻害化合物を同定する。
結果と考察
急性骨髄性白血病において特に予後が不良であることが知られるMLL融合遺伝子やMOZ融合遺伝子が関与する白血病において、これらの融合遺伝子産物が転写因子PU.1と結合することによりM-CSF受容体の発現を誘導し、M-CSF受容体の発現が高い細胞が白血病幹細胞であることから、これらの白血病ではM-CSF受容体を治療の分子標的となることを見出した。腫瘍の足場非依存性に関わるCDCP1蛋白質が細胞運動能やMMP分泌にも関わることを示し、更に転移・浸潤部位に発現する、新規のチロシンリン酸化蛋白質Ossaが酸化ストレス抵抗性など腫瘍に密接する生物学的機能に関わることを明らかにした。がん抑制タンパク質p53の新規標的遺伝子としてBLNK遺伝子とMieap遺伝子を同定し、BLNKは細胞質分裂を抑制してカスペース依存性細胞死を誘導し、Mieapはミトコンドリアのオートファジーを誘導して強力な腫瘍増殖抑制活性を有することを明らかとした。テロメレース触媒コンポーネントのTERTがRNA依存性RNAポリメレース(RdRP)活性を有することを見出し、RdRP活性を検出するアッセイ系を確立して阻害物質のスクリーニングを行い2種類のRdRP活性阻害化合物を同定し、これらは細胞分裂を阻害し細胞死を誘導することを確認した。癌治療の標的として、p53を阻害するE3ユビキチンリガーゼのp53結合部位を同定し、ELISA法を用いてp53との結合量を定量する系を確立した。
結論
白血病幹細胞の増殖に必須であるM-CSF受容体、チロシンキナーゼの基質分子、ミトコンドリア経路、p53活性を抑制する因子、テロメレース制御因子が癌の分子標的として有効であることが示された。

公開日・更新日

公開日
2009-04-16
更新日
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