放射線障害に基づく固形がん発生の分子機構の解明とその予防・治療への応用に関する研究

文献情報

文献番号
200823018A
報告書区分
総括
研究課題名
放射線障害に基づく固形がん発生の分子機構の解明とその予防・治療への応用に関する研究
課題番号
H19-3次がん・一般-004
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
安井 弥(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 宮本 和明(独立行政法人国立病院機構 呉医療センター 臨床研究部)
  • 濱谷 清裕(財)放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
  • 中地 敬(財)放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
  • 楠 洋一郎(財)放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
  • 西 信雄(財)放射線影響研究所 疫学部)
  • 神谷 研二(広島大学 原爆放射線影響研究所)
  • 宮川 清(東京大学 大学院医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
25,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
放射線関連固形がんの発生機構の解明とリスク評価や診断・治療法の開発は,被爆者医療の向上,職業・医療被曝の管理に資する。本研究は,1)放射線関連固形がんに特徴的なジェネティック・エピジェネティック異常,2)放射線による固形がんの遺伝的発がん感受性の個体差の解析とリスク評価,3)放射線によるゲノム障害・修復からみた発がん機構の解明と治療感受性,について検討し,予防・治療に応用することを目的とする。
研究方法
被爆者胃がんについて,がん間質に浸潤するマクロファージ(CD68陽性単核細胞),TP53およびCTNNB遺伝子の変異を検討した。SAGE法・CAST法により新しい癌関連遺伝子の同定を試みた。乳がんについてmicroRNAの発現解析を行なった。被爆者成人甲状腺乳頭がん,大腸がんにおける遺伝子再配列・変異,遺伝子不安定性を解析した。IL-18遺伝子のハプロタイプと大腸がんの発生,被爆線量との関連解析を行なった。ATM遺伝子多型を解析し,GPA突然変異頻度の放射線量効果関係を検討した。損傷乗り越えDNA合成蛋白REV1の機能を細胞生物学的に解析した。synaptonemal complexを構成する分子SYCP3の発現および抗がん剤の感受性における影響を検討した。
結果と考察
がん間質マクロファージの浸潤と放射線被曝との関連が示された。SAGE法・CAST法によって,がん特異的発現遺伝子としてADAMTS16,DSC2などを同定した。被爆者乳がんではHER2陽性の頻度が高く,それに関連した15種類のmicroRNAを同定した。甲状腺がんでは遺伝子再配列,大腸がんではMSIとRas関連遺伝子変異と被曝線量との関係が明らかとなった。高被曝線量群で特定のIL18ハプロタイプを持つ人の発がんリスクが増加することを見いだした。ATM遺伝子のハプロタイプの違いはGPA突然変異頻度の線量効果とは関係なかった。REV1が放射線や変異原による細胞死を回避し発がんに促進的に働く可能性を明らかにした。SYCP3ががん精巣抗原であり,放射線治療とシスプラチンによる化学療法の感受性予測マーカーとなり得ることを見いだした。
結論
これらの研究成果は,放射線発がん機構の解明,放射線曝露における発がんリスクの評価と予防に貢献するのみならず,広く固形がんの個別化治療の進展にも寄与するものである。

公開日・更新日

公開日
2009-04-08
更新日
-