輸血臨床の将来像に関する研究班

文献情報

文献番号
199700477A
報告書区分
総括
研究課題名
輸血臨床の将来像に関する研究班
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
池田 康夫(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 関口定美(北海道赤十字血液センター)
  • 田所憲治(日本赤十字社中央血液センター)
  • 中畑龍俊(東京大学医科学研究所癌病態学研究部)
  • 前田平生(埼玉医大総合医療センター輸血部)
  • 浅井隆善(千葉大学輸血部)
  • 半田誠(慶應義塾大学輸血センター)
  • 郡司篤晃(東京大学医学部健康科学看護学科、保険管理学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 血液研究事業
研究開始年度
平成6(1994)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
輸血臨床の将来像を以下の観点から検討した。1)輸血製剤から細胞治療製剤へ:造血幹細胞の利用2)輸血副作用の現状3)輸血製剤の使用動向
研究方法
1)北海道臍帯血バンクで実際行われた臍帯血採取とそこからの造血幹細胞分離・保存について以下の点を検討し、血液製剤としてこれら細胞治療製剤に関する規格化・標準化のガイドライン設定について考察した。1。閉鎖回路系バッグにより採取された検体の細菌汚染率、CD34による幹細胞採取・分離効率、2。必要な検査項目の設定とそのバリデーション法の確立、3。凍害防止剤・保存剤の検討と解凍効率の分析 2)造血幹細胞のソースである臍帯血を用い, より効率的なex vivoでの造血幹細胞増幅法について,新規の造血因子(TPO,flk2/flk3 リガンド,ILー6,可溶型リコンビナントILー6受容体,stem cell factor等)の組み合わせが有用かを検討した。また、ヒト胎児aorto-gonad-mesonephros (AGM)領域を用いた造血幹細胞の自己複製能を制御する因子の同定を試みた。さらに、NOD/SCIDマウスを用いたヒト造血幹細胞のin vitro検査法について検討した。 3)各医療施設より日本赤十字血液センターに寄せられた輸血に伴う副作用の報告を集計し解析した。また,一部では,その原因追及のため,患者検体について詳細な解析を行った。また、非溶血性即時型副作用について種々の血漿成分に対する同種抗体の同定を試みた。 4)大学病院3施設での血小板輸血についてそれに伴う即時型副作用の実態を継続してプロスペクテイブに検討した。対象は血液疾患に限り,輸血前後での臨床症状とともにバイタルサインの観察し調査表に記入するよう主治医に依頼した。5)平成7年度の約47万件のデータを蓄積し、アルブミン、新鮮凍結血漿、加熱人血漿や血小板がどのような保険請求病名の疾患に使用されているかを検討した。
結果と考察
結果=1)201件の臍帯血採取が行われ、閉鎖回路系のバッグを用いて、その細菌汚染率は1.5%であった。また、採取量は個人差が大きく、40ml未満も46件あった。単核細胞の分離処理は効率的に行われ、その回収率の中央値は83.7%と良好であった。凍結・解凍によるコロニー形成細胞の回収率は90%前後と良好で、プログラム凍結法を用いなくとも簡易法で十分であった。細胞治療製剤として造血幹細胞の採取、保存についての体系的な標準化/規格化に関するガイドライン設定の必要性が認識された。2)ILー6と可溶型リコンビナントILー6受容体そしてstem cell factorの組合せにより、未分化な造血前駆細胞の著明な増幅が得られ、そこに TPOを加えることで、その増幅効率は増加した。 また、flk2/flk3 リガンドもILー6と可溶型リコンビナントILー6受容体共存下で著明な増幅効率を示した。 AGM領域よりストローマ細胞株を樹立し、それが混合コロニ形成を支持する可能性が明かとなった。 NOD/SCIDマウスへのCD34陽性細胞のみ生着が確認され、この動物がヒト造血幹細胞造血再構築能の評価に有用である可能性が指摘できた。 3)全国血液センター医薬情報担当者を通じた輸血に伴う副作用報告数は年々増加し、前年度692件に続き今年度は870件に達した。その特徴として:?107件の肝炎例のうち、各々12例と1例が輸血製剤由来のHBV,HCVが原因であった可能性があり、現行のスクリーニング体制下でも、ウインドウ期に献血された場合には100%感染症を予防できないことが確認された?輸血後GVHD確診例が今年も14例報告さ
れ、血液製剤放射線照射等による予防体制が完全でないことが明かとなった。?その3/4(662例)が非溶血性即時型反応であり、蕁麻疹や発熱などの比較的軽症のものが6割以上を占めた。しかし、血圧低下や呼吸困難等を伴う重篤なアナフィラキシー(様)反応が1/3を占めていた。これらは、同種免疫王の反応の可能性が強く、実際種々の血漿蛋白(IgA、トランスフェリン、C4、C9、ハプトグロビン、等)に対する抗体が一部の患者から検出された。一方、アナフィラキシー/アレルギー反応を伴わずに突発する低血圧ショック反応が19例にみられ、そのうち陰性荷電白血球除去フィルター使用したものが19例であった。その原因物質として、ブラジキニンの可能性が強く示唆された。 4)日赤医薬情報部の報告から明かとなった輸血に伴う非溶血性即時型反応の実態調査を、共通のプロトコールに基づき大学病院3施設で行った。2年間で延べ2、400件、243例の血小板輸血がプロスペクテイブに調査され、そのうち201件(8. 2%)に発熱、蕁麻疹などの非溶血性即時型反応が出現した。そのうち血圧低下によるショック症状を呈したものが7件(7例)に認められたが、それ以外は軽症であった。これらの例は、白血球除去フィルターの種類と関係なく出現した。5)平成7年度11月分の全国の診療報酬明細書より47万件をデータベース化した。保険請求病名に基づいて製剤の使用疾患を分析したところ、悪性新生物が大きな部分を占めていた。血小板製剤の患者当りの使用量は各都道府県で著しい格差が認められた。
結論
考察ならびに結論=輸血医学から細胞治療医学へと輸血臨床は21世紀へ向け今後確実に進むであろう。そして、それを支える輸血製剤は細胞治療製剤へと変貌しなくてはならない。移植医学とそのプロトタイプたる輸血医学との境界はますます明確でなくなってきた。さらに、血液中の細胞を分離し、それを使用してより積極的な治療楽戦略を行うことが現実のものとなってきた。すなわち、造血幹細胞移植はすでルーチン化しており、今後は免疫治療あるいは近い将来は遺伝子治療への利用が本格化するに違いない。それにつれて、輸血臨床が、そのアイデンテイテイを示しながら、どのような将来像を持つべきかの答えを出すのも、治療医学の面から、ますます困難となってきたように思われる。その中で、輸血臨床はますますその質的向上が求められる時代となったことは疑うべくもない。HIV感染の教訓からも、受動的ではなく、今後は自らが能動的にその問題点を提起し、改善してゆく姿勢が必要となってきたわけで、それがまさに輸血医学の進むべく方向の一つではないかと考えられる。このような観点から、昨年度にひき続き今年度の成果として、1)造血幹細胞移植がさらに一般化し、そのソースとして従来の骨髄あるいは末梢血ばかりでなく臍帯血の利用が本格化することが予想される。そこで、血液製剤としてそれら細胞治療製剤に関する規格化・標準化のガイドライン設定が急務であることが指摘できた。2)輸血に伴う副作用の実態がプロスペクティブ研究で明らかにされ、そこに存在する問題点も明確となった。今後は即時型副作用の現状の正確な評価、アレルギー/アナフィラキシー反応の発現機序の解明とその予防対策の検討や治療ガイドラインの作成が重要な課題であることが指摘できた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)