血液製剤の製造・保存等に関する研究

文献情報

文献番号
199700476A
報告書区分
総括
研究課題名
血液製剤の製造・保存等に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
湯浅 晋治(順天堂大学医学部輸血学)
研究分担者(所属機関)
  • 関口定美(北海道赤十字血液センター)
  • 坂本久浩(産業医科大学輸血部)
  • 高橋恒夫(東京大学医科学研究所細胞プロセッシング部門)
  • 高橋孝喜(虎ノ門病院輸血部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 血液研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血液製剤はウイルスマーカー検査等により安全性は向上しているが,輸血による同種免疫,輸血後GVHD,保存中のサイトカイン産生等による輸血の副作用は臨床上大きな問題となっている。本研究の目的は血液製剤の安全性に加え,これら免疫学的副作用のない品質の高い製剤の製造をすることである。放射線照射によるリンパ球の不活性化,UVあるいは紫外線照射による輸血感染予防は有効な手段であり,同時にそれらの対策が血球に及ぼす影響についても検討した。また,血液製剤の有効利用の立場から血小板の有効な保存性を検討した。血液製剤の面からは,G-CSFの開発,アフェレーシスにより大量の顆粒球採取が可能になったことから改めて顆粒球輸血が注目されており,その凍結保存を対象とした。また,自己血の成分輸血として自己フィブリン糊の製造は有用なものである。保存に関しては凍結赤血球の保存期間の延長(20年),また解凍後の洗浄を必要としない凍害防止剤の開発を検討した。
研究方法
1.全血および赤血球製剤
(1)放射線照射血の保存に関する研究としては,輸血用血液への放射線照射のリンパ球不活化効果および照射後の保存による影響について検討した。(2)赤血球を8.6Mのグリセリンを用い,-85℃の緩速法で20年以上凍結保存しその生化学的および形態につき検討した。(3)解凍後,凍害防止剤の洗浄なしに輸血可能な新しい赤血球凍結保存として,ポリエチレンオキシド(PEO)を用いて液体窒素で保存した。
2.血小板製剤
(1)低温状態における濃縮血小板機能と形態の保存に関する研究として,低温と室温に保存した血小板のサイズ別凝集塊形成能を高感度血小板凝集能測定装置AG-10により測定した。(2)濃厚血小板製剤の長期保存を目的として,血小板の血漿をセト液に置換したPC上清中において,血小板膜糖蛋白Ibの蛋白分解産物であるグライコカリシン濃度を経時的に測定し,血漿中のそれと比較した。(3)血小板の保存条件と活性化に関する研究として,血小板濃厚液の保存条件によって血小板の止血機能が失われる可能性について,血小板表面上のP-セレクチンとpHとを測定することにより観察した。
3.顆粒球製剤
顆粒球の凍結保存を目的に,凍結融解条件から生じる細胞のストレスが顆粒球に及ぼす影±響と凍結融解による顆粒球の細胞死がアボトーシスであるか否かを検討した。
4.血漿製剤
自己フィブリン糊の製造保存に関する研究として,自己cryoprecipitate中の各成分濃度,およびin vitro培養系での細胞増殖の程度を検査した。
5.輸血感作予防のためのUV照射血調整を目的に,中波長紫外線(UV-B:290-320nm)によるin vitroでのMLR反応抑制試験をおこなった。また,アフェレーシス濃厚血小板製剤(PC)に実際的なしベルでの白血球不活化を検討した。
結果と考察
1.全血および赤血球製剤
(1)輸血用血液への放射線照射については,血液センターの基本照射線量である15Gyの照射によってリンパ球の不活化を確認した。しかし,全血,赤血球濃厚液では,非照射血と比較して,上清カリウム濃度の上昇が認められた。(2)赤血球を高濃度グリセリンで凍結(-85℃)した場合2,3-DPG,ATPはそれぞれ11.6±2.9μmol/gHg,3.2±0.5μmol/gHgで,電顕でもDiscoid状を呈し少なくとも保存期間は20年に延長可能と思われた。(3)解凍赤血球の非洗浄輸血に関してはポリエチレンオキシド30%添加燐酸緩衝液を使用して液体窒素で赤血球を急速凍結すると,解凍後非洗浄赤血球の回収率は94.85%で,ポリエチレンオキシドは赤血球の非洗浄凍害保護物質として有用であると思われた。
2.血小板製剤
(1)低温と室温保存を比較すると低温保存の方がLサイズ凝集塊形成能を長期間維持し,また走査電顕像でも形態が保たれており,冠動脈バイパス手術において十分な止血効果を維持していることを認めた。(2)グライコカリシン濃度は血漿にて保存したPCと差は認めなかった。この結果よりセト置換液が受容体として機能する血小板膜糖蛋白に与える影響は小さいと考えられ,グライコカリシンの測定はPCの品質評価あるいは血小板保存液を含めた保存条件改良の一つの指標となることが期待された。(3)バッグの容量以上の血小板を保存するとpHの低下と活性化が起こり,P-セレクチン(GMP140)が陽性化して止血機能が失われることを認めた。また血小板活性化により凝集塊を形成するとその中に白血球も含まれ,輸血後の生体内動態に影響を与えることが示唆された。
3.顆粒球製剤
ラダー(laddar)形成,TUNEL(deoxynucleotidyl transferease-mediated d-UTP-biotin nick end labelling;Apop Tag Plus,0ncor)アッセイのいずれもアポトーシスは起こっていない結果を示した。ヒト顆粒球はリンパ球と同じく,凍結融解により凍害物質の存在下においてもネクローシス細胞死することが明らかとなった。
4.血漿製剤
400mlの全血から約15mlのcryoprecipitateが作成可能で,免疫グロブリンなどは原血漿と大きな差を認めたが,fibrinogen濃度は原血漿の約9倍,fibronectinは約20倍に濃縮される。cryoprecipitateが感染を促進する培地でないこと,非働化処置を行わない自己cryopprecipitate中に細菌増殖抑制因子が存在することが判明した。食道癌等の消化器外科手術に関しても,自己cryoprecipitateが有効である。
5.(1)UV-B照射をすることで,抗原提示細胞によるアロT細胞刺激能とアロT細胞の増殖能の両方が300~600J/?で抑制され,UV-B照射が同種抗原感作のみならず,輸血後GVHDの予防にも有効であることが確認された。混入白血球によるMLR(リンパ球混合培養反応)は,6分間(13400J/?)で抑制されたのに対し,血小板の浸透圧ショック回復率,ADPとCollagenによる凝集能を指標とした血小板機能は,9分間のUV照射(20100J/?)後,さらに3日間の保存においても良好に保たれた。また,刺激細胞へのUV-B照射による細胞内外の変化が,T細胞との細胞接着を阻害することが,同種抗原感作抑制機序の要因の一つであることを示唆する結果が得られた。(2)輸血用血液への放射線照射については,血液センターの基本照射線量である15Gyの照射によってリンパ球の不活化を確認した。しかし,全血,赤血球濃厚液では非照射血と比較して,上清カリウム濃度の上昇が認められた。
結論

公開日・更新日

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