献血におけるATL抗体陽性に関する研究

文献情報

文献番号
199700474A
報告書区分
総括
研究課題名
献血におけるATL抗体陽性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
納 光弘(鹿児島大学医学部第三内科)
研究分担者(所属機関)
  • 鎌田薫(早稲田大学法学部)
  • 前田義章(福岡県赤十字血液センター)
  • 津崎文雄(鹿児島県赤十字血液センター)
  • 中川正法(鹿児島大学医学部第三内科)
  • 宇宿功市郎(鹿児島大学医学部医療情報管理学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 血液研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HTLV-Iは白血病、脊髄症の原因ウイルスであり、HTLV-I感染者の数%に発症が見られている。感染は母児垂直感染、性交・輸血・経静脈的麻薬常習者による水平感染によるが、昭和61年11月以後我が国ではHTLV-I抗体陽性献血血液は、血液製剤としては利用されていない。またウイルス排除の確立した方法がない為もあり抗体陽性者への陽性通知も行われていない。その為に頻回に献血を行い、献血行為が有効に生かされていない献血者が存在している。この様な抗体陽性者に陽性であることを通知すべきか否かを検討し、併せて通知の問題点把握とその対応策を検討する。
本研究は、抗体陽性者へ結果の通知に伴う問題とそれに対処する為の情報を得ることを目的とする。
研究方法
平成9年度も平成8年度に引き続き抗体陽性通知に関するパイロットスタディーを行った。20歳以上の初回献血者で、血液センター及び献血ルームでの献血者の中で、HTLV-I抗体陽性時に、結果の通知を希望する者を検査対象とした。
結果と考察
福岡県では研究対象献血者は22名、うち通知希望者は20名であったが、この中に抗体陽性者は見られず、通知の必要性の有無の判断はできなかった。鹿児島県での平成9年度のパイロットスタディーでは、通知希望有無アンケート解答者の約90%(303人中272人)が通知希望であり、そのうち4名が陽性であった。平成6年度以降の4ヶ年全体をまとめると、693名の初回献血者の内636名(91、8%)が通知を希望し、このうち抗体陽性者は10名であり、更にこの中で4名がカウンセリングを希望し受診した。なお、通知を希望しなかった57名中3名が抗体陽性であったが、この3名には通知は行わなかった。通知希望アンケートの配布の際に、質問等の反応が見られるかを合わせて観察したが、混乱はみられなかった。カウンセリング希望者には血液センターもしくは大学病院にて、納班員または中川班員が直接カウンセリングを行った。カウンセリング時の質問はHIVとの相違、感染経路、他人への感染の有無、疾病との関連についてが主であり、カウンセラーの説明で納得してもらえた。また、一例は極早期のHAM患者であり、この希望者に対しては、経過観察、早期治療を開始する条件が整えられた。この点でも、このカウンセリング希望者にとっては今回の抗体検査結果通知は大変有益なものであったと思われた。
精神的苦痛を与える懸念で、全国の血液センターにおいては、これまで通知を行ってきていないが、初回献血者では、そこまで深刻ではなかった。また現実に早期発症の患者を発見することが可能となることが判明したが、このことは通知によるメリットが最も有効に生かされる事例の一つと考えられ、通知の重要性を示しているものと捉えている。今後はカウンセリングレベルの向上、カウンセリング内容の均一化を図るなどの必要があるが、これに関しても当班が作成したカウンセリング用の資料も出来たので、今後の作業上の問題点は解消されたと考えてよいと思われる。
結論
これまでの検討では、献血現場での無用の混乱を避けるために、慎重且つ最新の注意を払ってパイロットスタディを行ったが、先に述べたごとくアンケート配布時には特に混乱はなかった。やや慎重に行いすぎたために、必要な抗体陽性者数を確保するために時間がかかったが、通知を受けた通知希望者は、カウンセリングを受けることで、不安を解消できたとのことであった。我々のこれまでの経験から、陽性献血者への通知は、陽性献血者への通知後のカウンセリング・定期的指導を適切に行えば、徒な不安を引き起こすことなく可能であるものと判断した。以上のことより、HTLV-I抗体陽性献血者の結果の通知希望者に対し通知すべきであると結論し、提言を行った。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)