乳幼児健診をきっかけとした発達障害の早期発見支援活動とその評価に関する研究

文献情報

文献番号
200822002A
報告書区分
総括
研究課題名
乳幼児健診をきっかけとした発達障害の早期発見支援活動とその評価に関する研究
課題番号
H18-子ども・一般-002
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 則子(国立保健医療科学院 生涯保健部)
研究分担者(所属機関)
  • 柳川 敏彦(和歌山県立医科大学 保健看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
2,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
発達障害早期発見支援のための「前向き子育てプログラム」は日本に紹介されて間もないため、わが国での応用が可能かどうか十分な評価が定まっていない。このため東京郊外の川崎市中原区および川崎区の子育て中の親にこの育児プログラムを試行してその効果を評価した。
研究方法
川崎市における介入研究を実現するための市との折衝を行い、2007年7月 川崎市保健福祉局長の決裁が下りた。平成20年度は、認定ファシリテーターにより、計5クールのレベル4グループトリプルPを行った。
対象者の集め方は、3歳児健診の受診者に呼びかけのチラシを配布し、子どもの行動で気になること、困っていることがあったら、お勧めしますと呼びかけた。実際保健師が気になる行動が見られた場合は、保健師の方からも勧奨の言葉がけを行った。平成20年度5クールで46名の対象者となった。2年度合計で91名の対象者となった。
 トリプルPシステムに特徴的である教材媒体のひとつであるチップシートと呼ばれる子育てヒントのしおりを配布した。いろいろな問題に関して、それがなぜ起こるか、どのような対処の方法がありうるのかが説明されており、使う人が自分の目標を定めて、解決策を探りながら取り組む。配布は、母親学級受講者全員(レベル1)、乳幼児健診で必要と思われるケース(レベル3)に行った。
結果と考察
 レベル4グループトリプルPの効果の評価はシステムで定められた方法を用いた。PS(parenting scale、子育ての特徴)30項目、SDQ(strength and difficulties questionnaire)25項目、DASS(depression, anxiety and stress score、抑うつ不安ストレス尺度)42項目を回答してもらい、下位尺度のグループ別に集計を行った。 いずれの尺度においても、介入群で改善が明瞭で、多くの下位尺度で対応のあるt検定で有意であった。
結論
本研究では、川崎市でトリプルPをフルシステムで稼働させることは出来なかったが、ごく普通に地域で保健活動を行っている人たちが高度な理論に基づいたシステムの研修モジュールに従って3日間のトレーニングを受け、スキルを身につけ、実際にグループの親たちの意識と行動を変容することができた。これにより、問題行動をもつ子どもの家族を早い時期から支援につなげることが出来たといえる。

公開日・更新日

公開日
2009-08-18
更新日
-

文献情報

文献番号
200822002B
報告書区分
総合
研究課題名
乳幼児健診をきっかけとした発達障害の早期発見支援活動とその評価に関する研究
課題番号
H18-子ども・一般-002
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 則子(国立保健医療科学院 生涯保健部)
研究分担者(所属機関)
  • 柳川 敏彦(和歌山県立医科大学 保健看護学部)
  • 須藤 紀子(国立保健医療科学院 生涯保健部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
発達障害児は仮にその素因を持って生まれたにしても、養育の関わりによって、比較的良い経過を取ったり、子どもの行動に困っている親に、早くから子どもとの適切な関わり方を身につけてもらうことで、専門的な療育機関や医療機関の受診までの間の状況を良好なものに持って行ける。オーストラリアで20年前に開発されたトリプルP(Positive Parenting Program、前向き子育てプログラム)は、認知行動理論に基づいたペアレントトレーニングの一つである。標準化された尺度による客観的な効果判定が出来ることと、予防を視点に置いた地域アプローチを8週間にわたる標準的なセッションを中心に5段階の多段階アプローチとして行うことに特徴がある。このシステムの川崎市における運用を試みた。
研究方法
研修システムに法ったファシリテーター養成を経て、10名前後のグループに対し、8週間にわたる介入を、平成19年度に5クール、平成20年度に5クール行った。対象者の集め方は、3歳児健診の受診者に呼びかけのチラシを配布し呼びかけた。実際保健師が気になる行動が見られた場合は、保健師の方からも勧奨の言葉がけを行った。介入対象者は計90名であった。
 プログラムの効果の評価はシステムで定められた方法を用いた。PS(子育ての特徴)30項目、SDQ(子どもの問題行動の状況)25項目、DASS(抑うつ不安ストレス尺度)42項目を回答してもらい、下位尺度のグループ別に集計を行った。
 一方対照群として、3つのグループセッションに並行して、3歳児健診受診者から有志を募り、介入群の前後評価と同時期に同じ質問票に答えてもらった(計28名)。
結果と考察
いずれの尺度においても、介入群において、ほとんどの下位尺度において、対応のあるt検定で有意な改善が見られた。対照群では、有意な変化は見られなかった。
結論
本研究では、川崎市でトリプルPをフルシステムで稼働させることは出来なかったが、ごく普通に地域で保健活動を行っている人たちが、高度な理論に基づいたシステムの研修モジュールに従って3日間のトレーニングを受け、スキルを身につけ、実際にグループの親たちの意識と行動を変容することができた。その結果が数字として出たことで、トリプルPシステムが実際に動いたことによる効果が実証されたと言える。

公開日・更新日

公開日
2009-08-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200822002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
世界19か国で有効性が科学的に証明されている、発達障害早期発見支援及び児童虐待防止のための親支援プログラムに関して、日本での有効性につき検証された。対照群を定めた介入試験において、標準化された指標を用いて、効果を学術的に裏打ち出来た。これは、交絡因子を調整するための多変量解析を行って確認された。
臨床的観点からの成果
首都圏近郊都市で3歳児健診を受け、子どもの問題行動に悩む親91名に対し、親支援プログラム「トリプルP」の中の、レベル4グループトリプルPを行ったところ、親の子育ての状況が良好となり、親の感じる子どもの問題行動が減り、親の不安と抑うつ、ストレスが減少するなどの効果が、有意に表れた。
ガイドライン等の開発
親支援プログラムの地域展開にあたっての、人材育成システムを日本になじむようにカスタマイズ出来た。それに必要な教材類とマニュアルがすべて和訳できたことにより、日本各地で同様の地域展開を行うことが可能となった。
その他行政的観点からの成果
子どものこころの診療医のあり方検討会の答申の中に、コメディカルの人材育成が重要であることが指摘されている。親支援プログラム「トリプルP」が包含する人材育成システムは、すでに日本で運用可能なようにカスタマイズされているので、子どものこころの問題を扱うコメディカルの人材育成にすぐさま応用できる。また、どうプログラムのオプションである小児科開業医のためのセミナーの運用によって、小児科医の資質向上にも資することができる。
その他のインパクト
当該親支援プログラムに関するセミナーが、朝日新聞によりアナウンスされた。これに限らず、多くの普及啓発セミナーが行われている。子ども家庭公開シンポジウムにおいて研究成果が発表され、それに先立って、研究成果が教育医事新聞に取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
1件
投稿中
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
12件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
石津博子、加藤則子、益子まり 他
前向き子育てプログラム(Positive Parenting Program; Triple P)による介入効果の検証
小児保健研究 , 67 (3) , 487-495  (2008)
原著論文2
加藤則子
子どもと家族のこころのサポート(証拠に基づく地域アプローチ)
日本公衆衛生雑誌 , 55 (3) , 181-185  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-06-11
更新日
-