孤発性アルツハイマー病の病態機序解明を目的とする、神経系軸索輸送の加齢性変化および障害メカニズムの解明

文献情報

文献番号
200821075A
報告書区分
総括
研究課題名
孤発性アルツハイマー病の病態機序解明を目的とする、神経系軸索輸送の加齢性変化および障害メカニズムの解明
課題番号
H20-長寿・若手-013
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
木村 展之(独立行政法人 医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 誠(ディナベック株式会社)
  • 根岸 隆之(青山学院大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルツハイマー病(AD)患者の8割以上は加齢性に発症する孤発性タイプ(SAD)に属しており、加齢によって神経系にどのような変化が生じているのかを明らかにすることは、SAD発症メカニズムの全容解明には必須のアプローチであると考えられる。
 我々はこれまで、ヒトに近縁な霊長類であり、AD主病変の1つである老人斑が加齢性に再現されるカニクイザルの脳組織を用いて、AD病変形成メカニズムの解明を目的とした様々な加齢性変化の検索を行ってきた。その結果、カニクイザル脳組織では加齢に伴い、軸索輸送と呼ばれる細胞内輸送機能が低下している可能性を示唆する結果が得られた。
  そこで本研究ではSAD発症メカニズムの全容解明を目指し、軸索輸送の低下・障害がSAD発症メカニズムにどのように関与しているのか、また、何故加齢によって軸索輸送が低下・障害を受けるのかを明らかにすることを目的とする。
研究方法
まず若齢から老齢までのカニクイザル脳組織を用いて、加齢に伴うエンドサイトーシス関連蛋白群の変化を免疫組織科学的および生化学的手法を用いて検索する。
さらに、RNA干渉法を応用して軸索輸送障害のin vitroモデルを作成し、軸索輸送障害とAD病態との関連性を検索する。
AD患者の脳組織では脱リン酸化酵素の活性が顕著に低下していることが知られている。
そこで本研究では、加齢に伴うリン酸化・脱リン酸化バランスの異常が軸索輸送の障害を引き起こすのではないかと仮定し、神経系培養細胞を用いてリン酸化亢進による軸索輸送の障害を検索した。
結果と考察
AD初期病変であるエンドソーム肥大化病変がカニクイザル脳組織でも確認されたことから、カニクイザルは老人斑形成という「結果」のみならず、同病変形成へ至る「経路」を検索する上でも非常に有用なモデル動物であることが実証された。
 In vitro軸索輸送障害モデルを用いた検索の結果、APPの細胞内蓄積のみならずAβ産生の促進を示唆する結果も得られたことから、軸索輸送の低下・障害がAD発症メカニズムに関与している可能性が示唆された。
 リン酸化の亢進によって上記のようなエンドソーム肥大化病変が再現されたことから、軸索輸送の障害メカニズムにリン酸化の亢進が関与している可能性が示唆された。
結論
本研究によって、加齢性神経変性疾患の研究対象としてのカニクイザルの信頼性が再確認されたと同時に、軸索輸送障害がエンドサイトーシス障害を通じてAD発症メカニズムに関与しているという可能性が示唆された。
 

公開日・更新日

公開日
2009-04-22
更新日
-