血液製剤の試験法、評価法に関する研究

文献情報

文献番号
199700473A
報告書区分
総括
研究課題名
血液製剤の試験法、評価法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小室 勝利(国立感染症研究所部長)
研究分担者(所属機関)
  • 関口定美(北海道赤十字血液センタ-所長)
  • 柴田洋一(東京大学輸血部教授)
  • 福武勝幸(東京医大・臨床病理科教授)
  • 水沢左衛子(国立感染症研究所主任研究官)
  • 吉原なみ子(国立感染症研究所室長)
  • 湯浅田鶴子(国立感染症研究所主任研究官)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 血液研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血漿分画製剤の有効性と安全性に対する対策には多くの注意がはらわれ、それなりの成果は上げているが、血液成分製剤に対する安全性対策は、必ずしも充分ではない。血液成分製剤を主に、その有効性と安全性をより高めることに応用する目的で、評価に使用するための試験法の開発、改良、標準化に関する研究と、細菌、ウイルス不活化法に関する研究を実施する。必要に応じて、ガイドラインの作成、規格試験法への応用も考慮する。 
研究方法
研究方法と結果
1. 血液製剤中のHIV遺伝子の高感度検出法
HIV-PCR法の感度をあげる方法を検討した。1 検査につき、従来法に比べ20倍(1000μL)の検体量を使用し、12000rpmで遠心濃縮し抽出用検体とした。増幅、検出法は従来法を用いた。HIV-RNAコピー数が既知のHIV感染者血漿を非感染者血漿で12コピー/ml, 8コピー/ml, 4コピー/mlに希釈し、それぞれ5回づつ検出を行い、再現性を検討した。  その結果、
?12コピー/mlの検体では5/5, 8コピー/ml及び4コピー/mlの検体では4/5にHIV遺伝子が検出できた。濃縮操作をしない場合は、100コピー/mlが検出限界であったので、感度をあげ得ることを確認した。
?1985年以前に作られた凝固因子製剤へのHIVの混入状況を本方法で検討すると、本方法では21/72(29.2%),従来法では15/72(20.8%)で、従来法では陰性と判定されたものの中に、陽性例があったことが示された。
本方法は操作が簡単で、操作時間も短く、低コストであるため、一般検査室にも応用可能であり、ウインドー期短縮やあ、HIV量が少ない検体に対して有用で、臨床応用が可能な方法と考えられる。
2. HCV,HGV検出のためのPCR法の改良
HCV,HGV-PCR法の感度をあげる方法を検討した。従来法では、1検体量として、100μLを使用していたが、改良法(ADA法)では、2.5mLを使用した。  その結果、
?HCVゲノムが128geq/ml, 40geq/ml, 12.8geq/mlとなる様に試料を調整し、FDA法、3種類の市販キットを比較すると、FDA法では40geq/mlまで(ただし、5回のうち4回までは12.8geq/ml)検出可能であり、市販キットの感度は、128geq/ml付近が検出限界であった。
?筋注用グロブリン製剤20ロットを検討したところ、HCVは全て陰性であったが、2ロットにHGV陽性例があった。凝固因子系製剤では15ロット全てHCV,HGVともに陰性であった。
改良型PCR法は、感度の点で優れており、分画製剤への混入チェックに使用し得ることが確認された。
3. パルボウイルスB19検出のためのPCR法
パルボウイルスB19の検出法としてのPCR-MPH法につき検討した。  その結果、
?検体量17μLと136μLを使用する方法を用いたところ、血友病患者40症例中、3症例において、B19-DNAを検出できた。陽性症例中のコピ-数は、40コピ-/ml以下であった。
?40症例、全てB19IgG抗体陽性で、IgM抗体は陰性であった。
PCR-MPH法がパルボウイルス量測定に有用であること、及び血友病患者では、B19への持続感染は認められないことが考えられた。
4. HCV感染系の作製
HCVの感染性を測定するための培養細胞系につき検討を行った。  その結果、
?ヒト肝臓由来株化細胞(FLC-4)にHCVを接種すると、接種後ウイルスの複製中間体が検出できたが、HCVの増殖はよくなかった。
?HCV増殖のための条件に関する検討を進めているが、検体として使用しているHCVを含むヒト血漿が負の影響を与えていることが考えられるため、何らかの前処理が必用と考えられた。
血液製剤中の感染性を有するHCV検出系の作製への応用を考えたい。
5. 血小板同種抗体検出法
血小板抗体測定のためのMPHA法とLCT法により同種抗体の出現を血小板輸血症例において検討した。  その結果、
?改良MPHA法(第9版)を用いた同種抗体の出現率は1983年は44.5%,1997年度は40.5%であり、殆ど減少はみられなかった。
?LCT法を用いた同種抗体出現率は1983年45.2%,1997年度は15.9%となり、減少している。
改良MPHA法は、感度を上げたため、以前 陰性と判定された症例を、陽性と判定した可能性のあることが示された。
6. 血漿中のウイルス不活化法
HIV-1添加新鮮血漿を白血球除去フィルターを介して、メチレンブルーの入っているバックに移し、白色蛍光管による光照射を行い、M10 細胞を用いたHIV感染価を測定し、不活化率を求めた。  その結果、
?HIVは5J/cm2照射でほぼ感染性を失い、20J/cm2で感染性は検出されず、不活化率は6.7log10位であった。
?凝固第?因子活性は、上記条件で正常に保たれたが、フィプリノ-ゲン活性は約10%低下した。
本システムは、血漿中のウイルスを不活化し、さらに細胞成分をフィルターで除去することにより、cell-freeで、かつ、ウイルス不活化した製剤供給に使用し得ると考えられた。
7. ウイルス検査に用いる国際標準品の設定
ウイルス検査法の特異性、感度の比較を行うためには、性状の明らかな標準品を準備しておくことが重要である。1996年以来、HCV-PCR試験用の国際標準品、HBsAg,NULL, HCV抗体、HIV抗体測定用の標準血清の作製研究がWHOを中心に行われ、班員の一部が参加した。これまでの経過を以下に要約する。
?HCV-PCR用国際標準品:1型HCV陽性血をHIV抗体、HBV抗原、HAV抗原、パルボウイルスおよびHCV陰性のクリオ除去血清で希釈し、0.5mlごと分注したもので、各バイアルには、50.000IUのHCVが含まれている。
1997年に設定され、供給はイギリスのNational Institute for Biological Standard and Control より行われる。
?HBsAg,NULL, HCV抗体、HIV抗体測定用標準品:1998年3月より作業が開始され、1999年4月までに設定を終了する予定。
・HBsAgは、1975年設定品の更新で、genetype Aでsubtype adw2のものが計画されている。
・HCV抗体測定用標準品は、とりあえずgenotype 1を候補とし、さらに他の亜系のものを加えていく方向で検討されている。
・HIV抗体測定用標準品は、HIV-1がsubtype A,B,C,D,E,O,FをさらにHIV-2についても作る方向で進められている。
候補品の検討は、最初、少数の研究室で行われ、候補を絞った段階で、範囲を広げ、最終決定に持っていく予定である。
結果と考察
考察=
血液製剤の安全性については、1999年4月をスタ-トとして、EUの国々が、分画製剤の原料血漿のHCV-PCR試験を製造者に義務づけ、又、国レベルでの確認試験の導入をほぼ決定し、又アメリカに於いては、血液成分製剤のウイルス不活化製品の申請を受け付ける段階にくるなど、大きな変化がおころうとしている。
日本に於いても、同様の対応は迫られることになると思われるが、そのためには、安全性に関係する試験法の開発、評価及び製造者間での検査結果の差の生まれないような対策が要求されよう。
本研究班で検討した結果が、これらに役立てられるよう、願っている。
結論

公開日・更新日

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更新日
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