輸血後感染症に関する研究

文献情報

文献番号
199700472A
報告書区分
総括
研究課題名
輸血後感染症に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
菊地 秀(国立仙台病院)
研究分担者(所属機関)
  • 稲葉頌一(九州大学)
  • 上司裕史(国立療養所東京病院)
  • 清澤研道(信州大学)
  • 小西奎子(国立金沢病院)
  • 高木正剛(長崎大学医学部)
  • 瀧本眞(兵庫県総合リハビリテーションセンター中央病院)
  • 田所憲治(日本赤十字社中央血液センター)
  • 田中英夫(大阪府立成人病センター)
  • 田村潤(国立国際医療センター)
  • 成松元治(国立長崎中央病院)
  • 藤井壽一(東京女子医科大学)
  • 松浦善治(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 血液研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先人の努力により輸血が原因となる感染症は近年減少しており、特に肝炎でその傾向は顕著である。しかしながら、現在なお当班の調査では約1%前後の輸血後肝炎の発生がみられている。当研究班は輸血による感染症の中でも特に、輸血後肝炎を減少させることを目的とし、その疫学的調査と病態解明のための血清保存を長年継続して来た。本年度も、昨年同様に輸血後肝炎に主眼点を置き肝炎の発生を調査し、輸血との因果関係を出来る限り明らかにすることを目的としている。
研究方法
輸血後肝炎の診断は1996年3月に策定された「輸血後肝炎の診断基準」(厚生省肝炎連絡協議会)に拠った。輸血後肝炎の集計に当たっては輸血後少くとも2週に1回、3ヵ月間(可能であれば更に長時間)の追跡調査を行い、その中で肝機能異常を呈した症例においては、輸血前及び輸血後3~6ヵ月までの血清を保存しておき、後の病態解明に役立てることにした。
結果と考察
1)輸血後肝炎発生数
輸血後肝炎の発生調査に携わっている班員9施設における1997年の輸血を受けた患者の追跡症例は954例で、このうち肝炎発症を認めたのは11例(1.15%)であった。11例中5例が非B非C型であり、G型が2例(東京女子医科大学、長崎大学)、新型の肝炎ウイルスであるTTVによる肝炎が3例(国立金沢病院2例、東京女子医科大学1例)、TTVとHGVの両者が検出された肝炎が1例(東京女子医科大学)であった。班員施設においてはB型肝炎の発生が見られたのは1983年が最後である。また献血者における第2世代HCV抗体のスクリーニングが開始された1992年以降昨年までのC型肝炎の発生は6278の検索症例中8例(0.13%)であり、同期間の非B非C型肝炎は45例(0.72%)であった。この45例には前述した3例のTTVによる肝炎、2例のG型、両者の混合型1例が含まれている。TTVの検査が一般化されるに伴って、今後非B非C型の中からTTVによる肝炎に分類されるものが増加してくるものと思われる。1997年全国の医療機関から日赤中央血液センターに寄せられた輸血によるHBV、HCV感染が疑われた95例中、当該献血者も検査可能であったものは72例(HBV感染47例,HCV感染25例)であった。このうち輸血血液が原因となっている可能性が高いと判断されたものは、HBV感染12例(26%)、HCV感染1例(4%)であった。HBV感染12例中8例は現行のスクリーニング検査では排除できないwindow periodの献血血液であった。今後、献血者に対する新しい検査法の開発や検査以外の安全対策なども検討する必要があると思われる。
2)新型の肝炎ウイルスTTVによる肝炎の検討
1997年、わが国で発見された新型の肝炎ウイルスであるTTVによる肝炎の研究は4施設から報告された。TTV発見の端緒となった国立金沢病院の報告では、TTV関連の輸血後肝炎は、輸血後6~10週目に発症し遷延化(2.5~7ヵ月間)するが、肝機能異常はALT200~300IU/L程度で、黄疸はなく、mild な経過をとると考えられる。また、TTVは肝機能異常の出現と前後して陽性化し、半数は肝機能の正常化と共に陰性化するが、半数は持続陽性化することが判明した。更に、信州大学の報告では、同施設で過去15年間に経験した肝疾患156例(輸血後非B非C型急性肝炎5例、肝移植後非B非C型肝炎1例、輸血後非B非C型慢性肝炎3例、非B非C型慢性肝炎29例、C型慢性肝疾患118例)について、HGV-RNAとTTV-DNAを検査した結果、1 輸血後非B非C型急性肝炎ではGBV-C / HGV-RNA陽性率は20%、TTV-DNA 陽性率は60%であり、TTV関連肝炎の頻度が高い。2 G型肝炎、TTV関連肝炎とも治癒するものと慢性化するものとがある。3 非B非C型慢性肝疾患でのGBV-C/HGV-RNA 陽性率は14%、TTV-DNA 陽性率は48%であり、TTV関連肝炎の頻度が高い。4 C型慢性肝疾患ではG型肝炎よりTTV関連肝炎の合併率が高かった。5 肝移植後肝炎の1例にTTV単独の活動性慢性肝炎が見られた。今後、他の施設でも追跡調査が進み、その臨床的意義について更に明らかにされることが期待される。本年度の肝炎研究の最大のトピックスである新型肝炎ウイルスTTVの発見が、班員施設の1つである国立金沢病院の保存血液の解析によりなされたことは当研究班にとっても大きな研究成果であった。
3)献血者における肝炎ウイルス新規感染の検討
当研究班に属する班員の多くはその地域の日赤血液センターの担当者を研究協力者として協力を仰いでおり、その中の1施設である兵庫県総合リハビリテーションセンター中央病院の報告では、平成8年、平成9年の献血者320087人の履歴の調査から新規にHCVに感染した疑いのある献血者は2人(0.00062%)であった。同様の報告は国立仙台病院からもあり、平成7年4月~平成9年12月における宮城県の献血者240、829人中、新たにHBVに感染したと思われる献血者は3人(0.0012%)、HCVでは10人、(0.0042%)であった。大阪府立成人病センターの調査では1992年2月~1997年7月に大阪府日赤血液センターで取り扱った延べ2、676、738件(1、083、117人)の献血者から新たにHCVに感染した可能性の高い献血者は41人(男性22人、女性19人)であった。これらの新規感染者のうちの12人(0.0038%)はHCV陽性通知後も献血を繰り返していた。安全な輸血を目指すためには献血者に対する啓蒙教育も今まで以上に必要になって来ると考える。
4)肝炎以外の輸血後感染症の検討
九州大学での昨年に続くHTLV-1の調査では、受血者約300名の調査からPA法によるスクリーニング下でのHTLV-1の感染の危険率は0.003%(1/37、040) 以下と考えられる。また、1997年の受血者にはparvovirus-B19陽性血の受血者が2名いたが、輸血による抗体陽転かどうかは判然としなかった。東京女子医大では、院内採血を実施している関東甲信越地域の医療施設における問診とHIV抗体検査の実施状況を調査した結果、HIVのwindow期感染の可能性についての問診を積極的に行っている施設はわずか15%で、問診が軽視されていることがわかった。またHIV抗体検査を行っているのは25施設(74%)で、その中から1名(0.12%)のHIV感染者が見つかった。
5)その他の研究
九州大学からは移植を受けた患者での肝炎ウイルス感染例が報告された。又国内、外で肝移植を受けた患者10名中、4名からHGVの存在がPCR法で確認され、免疫抑制剤の投与が関係していることが示唆された。国立感染症研究所においては、慢性C型肝炎の自然治癒例7例中6例の血清からHCVのエンベロープ蛋白結合阻止抗体が検出されたことにより、この抗体が慢性肝炎の治癒に深く関与していることが示唆され、C型肝炎の自然治癒のメカニズムを考える上で興味深い。
結論
新型の肝炎ウイルスTTVが発見されたことにより、肝炎の研究は一段と進むであろうがTTVについても輸血後肝炎についてもまだ不明な点が多く、今後も当研究班の果すべき役割は大きいと考える。

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