乱用薬物の管理のあり方に関する調査研究

文献情報

文献番号
199700471A
報告書区分
総括
研究課題名
乱用薬物の管理のあり方に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
山本 晴彦(神奈川大学理学部)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋英彦(日豪ニュージーランド協会)
  • 稲荷恭三(国立がんセンター中央病院)
  • 外山寛(日本薬剤師会)
  • 関口久紀(日本病院薬剤師会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 薬物療法等有用性向上推進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
麻薬や向精神剤は、医薬品として医療目的で使用されるものであっても、乱用につながる不正ルートに漏出しないよう、その取扱が他の医薬品に比して厳しく規制されている。こうした規制の基本的な部分は、古くから国際条約により規定され、世界各国で共通した考え方で行われているが、その実際的な細部の取扱は各国の文化的・社会的背景やコンピュターの利用にみられるような新たな技術の浸透・拡散速度の違いにより相違することがある。近年、国際交流や通信手段の急速な進展により、各国間の取扱の相違が外交上の問題となったり、新たな技術の導入により新たな取扱への対応が必要となることがある。これらの例は、海外旅行時の医療用麻薬携帯のトラブルやオーダリングシステムの導入などである。本研究は、こうした問題点を把握することと医療上必要な場合に麻薬や向精神薬を円滑に使用でき、かつ、事故を起こさないようにするための乱用薬物の管理法について調査研究することを目的とした。
研究方法
医療用の麻薬ないし向精神薬の取扱規制の国際比較については、ダイアログに含まれる関係フアイルの検索、国連麻薬委員会の刊行している資料の調査、外国医療機関に滞在する薬剤師等への照会による予備的調査を行い、その後、統一的な質問表を各国規制機関に送付し、その回答を得ることにより規制の異同について調査し、検討した。医療機関における麻薬管理の問題点の洗い出しについては、国立がんセンター中央病院とテレビ薬剤カンファレンスを実施している11施設とこれに近いがん関連病院2施設を加えた13施設に対して、麻薬管理の問題点について自由記載方式でアンケート調査を実施し、その結果を検討した。また、向精神薬の管理については、麻薬課から提供された医療機関等における盗難等の事故統計及び事例を薬剤の種類、施設の種類、事故原因の種類等で層別解析し、その結果を検討した。保険薬局における、麻薬・向精神薬の管理については、東京都や大阪府の指導マニュアルの提供を受け、これらについて開局薬剤師が比較検討し、実務経験を勘案して、整理した。
結果と考察
結果= (1)諸外国との規制の比較について。予備的調査として文献検索を行ったが、各国の記載がまちまちで規制を比較することが困難であった。そこで、必要な項目を整理し、各国の医療用麻薬・向精神薬の規制担当機関に対して照会し、結果を整理したところ、わが国と諸外国における規制の異同にいては、大筋の規制体系そのものには大差ないものの、免許期間、免許に必要な資格条件、禁止の除外条件などの細部については違いが見受けられた。各国規制内容は表としてまとめた。(2)わが国の医療機関における麻薬管理の問題点について。麻薬管理の上で改善ないし検討が必要であると指摘のあった点は、免許関係(有効期間の延長、記載事項変更届の提出期限の延長等)、譲渡・譲受関係(逆譲渡手続きの簡素化、封かん規定の見直し等)、保管・管理(麻薬保管庫に他の乱用薬物の保管を可能にするなど)、施用・交付(鎮痛療法として普及しつつある持続注入法への対応の明確化、麻薬処方箋と現物の引換え渡しをオーダリングシステムや搬送システムの普及に合わせた見直しなど)、診療録記載(継続施用における記載の簡略化など)、帳簿記載(備考欄記載の簡略化、施用残液廃棄の記載簡略化、コンピューター化に対応した簡略化など)、事故届(届出範囲の見直し、事故の軽重に応じた対応による簡素化など)、携帯輸出入(患者の立場に立って診断書による禁止除外など緩和措置の検討など)などである。なお、麻薬適正使用推進についての
医療関係者の意見も取りまとめた。(3)医療機関等における向精神薬管理の問題点とその対応について。最近6年間の統計を見るとペタンゾシンの盗難等の事例が年間7件から33件へと年々増加傾向にあり、この他トリアゾラム、ブプレノルフィンなどについての事故例も含め、40件前後から100件前後へと増加している。事故のほとんどは病院・診療所で起こっており、一部は部内者による詐取・不正使用が見られるものの、部外者による盗難と原因不明のケースが大部分を占めている。こうした事故に遭遇した際の参考資料とするために、部内者による詐取・不正使用のケース及び部外者による盗難のケースについて具体的事例の事故概要、施設の状況、施設の対応などを取りまとめた。併せて、事故時に必要な法規並びに日本病院薬剤師会「向精神薬取扱に関する病院・診療所薬局の自主管理マニュアル」の関係部分を検討のうえ、抄録した。(4)保険薬局における麻薬管理マニュアルについて。麻薬である医薬品であっても医療上必要な場合には、厳しい管理規制に躊躇することなく、患者に提供されなければならないが、保険薬局で麻薬小売業者の免許を受けているものは必ずしも多くない。麻薬等を必要とするケースがそれほど多くないことが原因とする見方もあるが、規制の運用が都道府県により違う面があること、それに伴う煩雑さが原因とする見方もある。そこで、代表的な事例として東京都と大阪府の指導内容を調査し、小売業の業務実態を勘案して、免許、譲渡・譲受、管理・保管、処方箋の受付、記録、廃棄、事故届、報告、患者による携帯輸出入、服薬指導などを取りまとめた。さらに、業務上で遭遇する頻度の高い問題について、Q&Aを作成し、保険薬局において麻薬の円滑な取扱・管理を図るうえで役立つ可能性のある点を取りまとめた。
考察=限られた期間で行われた調査研究であり、ここに洗い出された問題点、国際的な規制の異同等については、さらに本格的な調査を行ううえでの基礎資料と見ることが妥当であろう。今回のような規制の大枠ではなく、実際的な場面での細部の運用を問題とする場合には、医療機関の設置者、施用者、小売業者などのそれぞれのレベルで、また、様々な地域で実情を聴取し、また、それと不正ルートへの漏出との関係についての調査結果とを合わせ、問題の存在を確認し、それに対する改善方策を検討する必要がある。特に国際的規制の異同などについては実務経験者が実地に海外に出向いて、その規制と実情との関係を調査し、その理解を確認する必要があると感じた。麻薬・向精神薬は、終末医療や高齢者医療で問題となる疼痛や不眠の寛和などに有用なものであり、高齢化の進む社会でますますその必要性が高まると考えられるので、不正ルートへの漏出防止を図るうえで必要な措置は別として、その流通に当たっての取扱・管理規制は実行の容易なものにする努力を可及的に行うことが望まれる。 
結論
本調査研究では、医薬品である麻薬・向精神薬など乱用薬物の管理のあり方について、国際的な規制の異同、国内医療機関での問題点の洗い出し、及びその取扱の普及に必要な保険薬局における管理指針の策定という当初目標に対して一応の結果を取りまとめた。しかし、調査の範囲及び詳細さの点では、まだ不十分で今後の詳細な調査研究に待つべき点も残った。      

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