アルツハイマー病巣での膜結合型プロスタグランジンE合成酵素1の生物学的・臨床医学的意義の解析

文献情報

文献番号
200821049A
報告書区分
総括
研究課題名
アルツハイマー病巣での膜結合型プロスタグランジンE合成酵素1の生物学的・臨床医学的意義の解析
課題番号
H19-長寿・一般-020
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
原 俊太郎(昭和大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中谷 良人(昭和大学 薬学部)
  • 高橋 三津雄(医療法人さわらび会福祉村病院長寿医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
17,430,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プロスタグランジン(PG)類産生を抑制する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)がアルツハイマー病(AD)の進行を抑えることが疫学的に示され、その機構としてはNSAIDsの抗炎症作用による神経細胞死の抑制が想定されているが、PG類産生とAD進行との関連については未だ明確にされていない。本研究では、炎症刺激により発現が誘導され、様々な疾患の進行に関わる膜結合型PGE合成酵素1(mPGES-1)に注目し、本酵素とAD進行との関連を明らかにするとともに、mPGES-1阻害剤がADに対する治療薬となりうる可能性を検証することを目的とする。
研究方法
1) マウス胎仔大脳初代培養神経細胞を用いた解析:野生型マウス同士またはmPGES-1遺伝子欠損マウス同士を交配して得られた胎仔の大脳の細胞より大脳初代培養神経細胞を調製した後、アミロイドβペプチド(Aβ)に曝し、細胞死、mPGES-1の発現変化、PGE2産生量を検討した。
2) mPGES-1遺伝子欠損TG2576マウスを用いた解析:ヒト変異型アミロイド前駆蛋白質(APP)を高発現するTG2576マウスとmPGES-1遺伝子欠損マウスを交配し、遺伝子型の異なる4種類のマウスを得、これら4種類のマウスの記憶機能について水迷路課題により比較検討した。
3) ヒト尿中のAβの定量:AD患者および健康人より尿を採取し、抗Aβ抗体を用いたウェスタンブロット解析により、Aβ量を測定した。

結果と考察
1) 初代培養神経細胞を用いた解析:マウス大脳由来の初代培養神経細胞をAβで刺激すると、in vitroでもmPGES-1の発現が誘導されることを見出した。この神経細胞はAβに長時間曝すと細胞死を引き起こすが、mPGES-1遺伝子欠損マウスから調製した神経細胞の細胞死は対照マウス由来の細胞に比べ低下することも明らかとなった。
2) TG2576マウスを用いた解析:mPGES-1の遺伝子を欠損させると、TG2576マウスで見られる脳内へのAβの沈着には影響が見られないものの、Aβ沈着部位への活性化グリアの集積が抑えられ、さらに記憶機能低下も抑制されることが明らかとなった。
3) AD患者尿中におけるAβ量の変動:AD患者の尿中にはAβが存在し、このAβ量はADの症状が中程度の時に高く、症状が重くなると減少することを見いだした。

結論
mPGES-1の遺伝子欠損によりAD様症状が抑制されることが、in vitro、in vivo、いずれの系においても示された。この結果は、mPGES-1阻害剤がADに対し有効である可能性を強く示している。

公開日・更新日

公開日
2009-04-22
更新日
-