いわゆる「合法ドラッグ」の実態調査に関する研究

文献情報

文献番号
199700470A
報告書区分
総括
研究課題名
いわゆる「合法ドラッグ」の実態調査に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
佐竹 元吉(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 関田節子(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 安田一郎(東京都立衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 薬物療法等有用性向上推進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、精力増強、精神高揚、ストレス解消等を目的とした“いわゆる合法ドラッグ"が日本全国に広く流通し、特に若年層を中心に浸透し始めている。これらのドラッグは主としてハーブ類を含有しており、大量摂取、長期服用等により重得な副作用を生じる可能性が示唆されている。そこで今回、これらドラッグの実態調査を目的に、東京都、栃木県、埼玉県、神奈川県、新潟県、静岡県、愛知県、大阪府、広島県および福岡県の10都府県においていわゆる合法ドラッグ35品目を購入し、その成分分析ならびに関連試料の成分研究を行った。
研究方法
今回実験材料として購入したいわゆる合法ドラッグ延べ35品目は、その内容表示成分等としてガラナエキス、ビタミンC、ヨヒンビエキス、シベリアニンジン、朝鮮人参、ゴツコーラ、イチョウ、コーラナッツ、ナイアシン、ナルコユリエキス、オットセイエキス、緑茶、ナツメグ、カバカバ、アルファルファ、スピルナ、パッションフラワー、ホッピー、レイシ抽出物、アスパルテーム、ペパーミント、スペアミント、バジル、サリエット、ローズマリー、レモングラス、レモンパーム、オレンジ、カラス麦抽出物、カミツレ、ハイビスカス、オート麦、マリアアザミ、浜防風、ジンジャー、蓮根、甘草、蜂蜜、ヨーロピアンアンジェリカ、シイタケ、リュウガン、ウイキョウ、クコの実等が記載されている。そこでこれらのエキス等に含有されていると考えられる成分(カフェイン、ヨヒンビン)および取り締り対象となる成分(エフェドリン系アルカロイド、ステロイドホルモン、ハルミン、シロシビン)の合計7種の化合物群に関して薄層クロマトグラフィー(TLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびガスクロマト質量分析(GC-MS)を用いた成分分析を行った。
分析試料の調製に関しては、液状のものはそのまま使用し、粉末および錠剤のものは5gを量り取り50mlのメタノールを加えて超音波抽出(30分)を行い、不溶物をろ過後、溶媒を留去し、試料とした。また、エキス状およびクリーム状のものはメタノールを加えて撹拌し試料とした。
HPLC、GC-MS は以下の条件で分析を行った。
HPLC
移動層 水:アセトニトリル:SDS:リン酸=600:400:3.0g:0.1
流速 1ml/min、 検出波長 215nm
カラム Inertoshil ODS2 4.6 x 250mm、 カラム温度 40度
GC-MS
カラム OV-1701 0.25mm x 25m、 カラム流量 1.2ml/min、 膜厚 0.25um
恒温槽 100度、 気化室温度 230度、 インターフェイス温度 250度
キャリアーガス He 75kpa、  スプリット比 19
昇温 100度(10分)→200度(5度/分)20分保持
結果と考察
1)カフェイン:カフェインはコーヒー、茶等の嗜好品に含まれるキサンチン系アルカロイドであり、中枢神経興奮、利尿、強心作用を示す。今回分析を行った半数以上のドラッグにその存在が認められた。カフェインはブラジル産熱帯性植物ガラナの種子にも多く含まれており、内容物表示にガラナと記載されていたドラッグ群25品目全てにその存在が確認された。
同時に比較実験としてガラナ種子抽出エキスについてにTLC(展開溶媒;クロロホルム:メタノール=10:1)を用いて分析を行った結果、明白なカフェインのスポット(Rf = 0.50~0.55)が認められた。このことからガラナエキスが添加されているドラッグにはカフェインが含まれていることが考えられた。
2)ハルミン:ハルミンは南ロシアの草原に自生するミカン科植物中に含まれるハルマラアルカロイドの一つであり、モノアミン酸化酵素阻害活性および催幻覚作用を有している。TLC(展開溶媒;クロロホルム:メタノール=10:1)を用いた分析を行ったが、今回のドラッグ群からは検出されなかった。
3)ヨヒンビン:ヨヒンビンはキョウチクトウ科、アカネ科に広く分布するインドール系アルカロイドであり、催淫薬として用いられ、交感神経α2受容体遮断作用を有する。TLC(展開溶媒;クロロホルム:メタノール=10:1)を用いた分析を行った結果、若干のドラッグにその存在が示唆された。しかし標品と比較してその吸収スポットは非常に弱く、判別は不可能であった。今後の更なる検討が必要であると考えられる。
4)ステロイドホルモン:ステロイドホルモンに関しては、男性ホルモンとしてテストステロンおよびプロピオン酸テストステロン、女性ホルモンとしてエチニルエストラジオールおよびエストリオールの合計4品目についてTLC(展開溶媒;クロロホルム:メタノール=10:1)を用いた分析を行ったが、今回のドラッグ群からは検出されなかった。
5)エフェドリン系アルカロイド:エフェドリン系アルカロイドに関しては、エフェドリン、ノルエフェドリン、メチルエフェドリンおよびそのプソイド体全6品目について1日の薬用量を念頭に HPLC、GC-MS を用いた分析を行った結果、これを超過するピークは観測されなかった。しかし、若干のドラッグにエフェドリンと推測される部分にピークが観測されたため、今後の詳細な検討が必要と考えられた。
6)シロシビン:シロシビンはメキシコ原住民が宗教上の儀式に使用するキノコより分離されたインドール系アルカロイドであり、精神活動に関与するセロトニンと類似の構造を有し、催幻覚作用が認められている。日本ではヒカゲタケ属およびシビレタケ属のキノコにその存在が確認されている。TLC(展開溶媒;n-プロピルアルコール:5%アンモニア水=5:2)を用いた分析の結果、今回のドラッグ群の中で1検体(マジックマッシュルーム)にその存在が示唆された。そこで GC-MS 分析を行ったところ、シロシビンに類似するマススペクトルを有するもの、ならびに他のピークに関してもシロシビンの脱リン酸エステル体であるシロシンに相当するものは検出されなかった。以上の結果から、本検体にシロシビンは含有されていないことが確認された。しかしながら、最近上記キノコの菌体を試験管に封入したものが渋谷等の盛り場で販売されている。本品を付属の指導書に従って培養後、形成した子実体のTLCからはシロシビンが検出されており今後もその取り扱いには充分な注意が必要と思われる。これらのマジックマッシュルームは菌糸状態で流通しているため、菌の同定を行う目的で沖縄でオオシビレタケPsilocybe subaeruginascens を採集した。一方、東京都の検体からは、エフェドリン系アルカロイド、ヨヒンビン、カフェイン、亜硝酸エステルを検出し、定量分析の結果、薬用量に等しいことを確認した。
結論
今回、延べ35品目のいわゆる合法ドラッグについて、6種の活性化合物群に関する成分分析を行った。この結果、半数以上のドラッグよりカフェインが検出された。一方、催幻覚作用物質であるハルミン、シロシビン、また各種ステロイドホルモンは検出されなかった。ヨヒンビンおよびエフェドリン系アルカロイドは東京都でのみ検出された。今後も引き続き、成分分析の対象となる化合物群を拡大すると同時に、より簡便で高感度な分析方法を検討する予定である。

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